ケムセック プレスリリース 2024年3月11日
冷媒ガスに関する EU の新たな規制は
PFAS 汚染危機を加速する可能性がある


情報源:ChemSec, Press Release, 11 Mar 2024
New EU regulation on refrigerant gases can
accelerate the PFAS pollution crisis
https://chemsec.org/new-eu-regulation-on-refrigerant-gases
-can-accelerate-the-pfas-pollution-crisis/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年3月27日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/ngo/240311_ChemSec_New_EU_
regulation_on_refrigerant_gases_can_accelerate_the_PFAS_pollution_crisis.html


【プレスリリース 2024年3月11日】ヨーロッパが 2030年までに4,000万台の新しいヒートポンプを導入してカーボンニュートラルを達成する取り組みを強化する計画を立てている中、別の差し迫った環境脅威が表面化している。フッ素系温室効果ガスに対する欧州連合の新しい規制は、欧州大陸の PFAS 汚染危機を意図せず悪化させる可能性があると専門家は警告している。

(訳注:欧州ヒートポンプ業界、欧州委に行動計画の早期発表を要請、背景に販売減速(JETRO 2024年2月2日)

(訳注:フッ素系温室効果ガス (F-ガス):F-ガスは主に、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)、パーフルオロカーボン(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)から構成される(AFIRM Group 2021年3月

 エアコン、冷蔵庫、ヒートポンプなどに冷媒として使用されるフッ素系温室効果ガスに関する欧州連合の規則が、3月11日(月曜日)に発効した。新規則では、地球温暖化率の高い冷媒ガスの使用を制限することで地球温暖化を抑制することが目的となっている。 ハイドロフルオロオレフィン類(HFOs)として知られるフッ素化ガスは、ほとんど規制されないままになる可能性がある。

(訳注:ハイドロフルオロオレフィン(Hydrofluoroolefin, HFO):水素、フッ素、炭素で構成される不飽和有機化合物。これらの有機フッ素化合物は、冷媒として注目されている。飽和している従来のハイドロフルオロカーボン(HFC)およびクロロフルオロカーボン (CFC)とは異なり、HFO はアルケンとしても知られるオレフィンである。/ウィキペディア

 しかし、これらの HFO は地球温暖化係数が低い一方で、環境中に放出されると有害な PFAS 化合物であるトリフルオロ酢酸(TFA) に分解されることが知られている。

EUでは数百万台のヒートポンプが導入される予定

 一方、EUは、EUのカーボンニュートラル目標を達成するための戦略的決定の一環として、今後数百万台のヒートポンプを導入する予定だ。(訳注:ヒートポンプ:熱媒体や半導体等を用いて低温部分から高温部分へ熱を移動させる技術である。手法はいくつかあるが主流は気体の圧縮・膨張と熱交換を組み合わせたもので、一般家庭でもみられる製品でヒートポンプを使っているものとして冷凍冷蔵庫、エアコン、ヒートポンプ式給湯器などがある。/ウィキペディア

 REPowerEU 計画によると、化石燃料の使用を制限するには、EU 市場のヒートポンプの数を大幅に増やす必要がある。 目標は、2027 年までに少なくとも 1,000 万台、2030 年までに 4,000 万台以上の追加のヒートポンプを設置することである。これにより、ヒートポンプの数は現在と比較して 3 倍になる
(訳注:「REPowerEU」計画: ロシアからの天然ガスを含む化石燃料への依存解消に舵を切るEU/B.A.U.M.

”私たちの環境と水源中の PFAS はすでに危険なレベルに達している”
ジョナタン・クライマーク博士

 しかし、カーボンニュートラルに向けた EU の野心的な計画は、意図せずして PFAS 排出量の急増につながる可能性がある。 HFO 類 が規制を逃れているため、大量の PFAS が放出される可能性があり、ヨーロッパの環境と公衆衛生に重大な脅威をもたらす。

 ”HFO は、PFAS ファミリーの化学物質の一部である。 これらの化学物質は自然界では分解されず、時間の経過とともに蓄積される。 私たちの環境と水源における PFAS の濃度はすでに危険なレベルに達している”と ChemSec の上級化学アドバイザーであるジョナタン・クライマーク博士は述べている。

フッ素化ガスは PFAS 汚染の主な原因である

 フッ素化ガスは現在すでに重要な PFAS 排出源となっており、PFAS 排出量全体の 63% を占めている。 これらのガスは世界の冷媒市場の 70% 以上を占めている。 このカテゴリー内で、HFO の使用は着実に増加しており、2016 年から 2019 年の間にフッ素化ガス総量の 6% から 24% に増加した。

 HFO の広範な使用の直接の結果として、PFAS トリフルオロ酢酸 (TFA) は現在環境中に遍在している。 ある研究では、分析された水サンプル中の総 PFAS 濃度の 90% 以上を占めていた。 最近の研究では、HFC から HFO への移行により、これまでのところ地表水中の TFA レベルが最大 250 倍上昇していると結論付けている。

より安全な代替品がすぐに入手可能

 アンモニア、炭化水素、二酸化炭素などのより安全な代替ガスは、問題なく、これらの PFAS を含む F ガスの使用を置き換えることがでる。 これらの代替手段は十分に確立されており、あらゆる種類の用途にすぐに利用できる。

 自然冷媒への移行は実行可能な解決策を提示するが、ジョナタン・クライマーク博士は、より安全な代替冷媒の採用を促進するための立法措置が緊急に必要であると強調している。

 ”フッ素化ガスを確実に段階的に廃止するには法律を制定することが最善の方法である。 自然冷媒への切り替えは、PFAS 汚染を削減し、同時に世界的な脱炭素化の取り組みにも役立つため、双方にとって有利な状況である。”


訳注(参考情報)

ヒートポンプ
冷媒ガス
規制


化学物質問題市民研究会
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