2012年4月5日 欧州12環境・健康団体
第7次環境行動計画(7th EAP)に関する
環境大臣へのNGO共同書簡


情報源:Joint NGO letter to Environment Ministers on the 7th EAP Brussels, 5 April 2012
http://www.chemsec.org/images/stories/2012/news/
120406_NGO_letter_7_EAP_to_environment_ministers.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年4月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/ngo/
120405_Joint_NGO_letter_to_EMs_on_7th_EAP.html

宛先:EU 環境大臣
2012年4月5日
ブリュッセル
親愛なる環境大臣殿

 私たち12団体は4月17〜19日に開催されるEU環境大臣非公式会合において、非常に高い懸念のある物質(SVHC)からのより良い保護はもちろん、内分泌かく乱物質(EDCs)、複合化学物質、及びナノマテリアルに目を向けた措置を第7次環境行動計画(7th EAP)に含めていただくよう要請するためにこの手紙を書いています。最近の研究は、人の健康と環境を保護するために緊急の行動を必要とすることを示す不安な証拠を明らかにしており、公衆の懸念はEU全域に及んでいます。健康な環境と社会を促進するために、環境大臣であるあなたに、これらの懸念を4月の会合で提起することを要請します。

 私たちは、内分泌かく乱物質(EDCs)、複合化学物質、高懸念物質(SVHC)、及びナノマテリアルへの曝露による野生生物と人の健康の保護が不十分であることについて非常に懸念しています。そのような曝露は生命の初期の発達に特に脅威を及ぼし、内分泌かく乱物質(EDCs)の混合物への曝露は、多くの疾病の不安な上昇傾向の原因となっていると特に考えられています。

 将来の第7次環境行動計画(7th EAP)は具体的で期限付きの目標、明確な目的、及び問題解決型の政策提言を含むことが重要です。第7次環境行動計画(7th EAP)は既存の法の抜け穴をふさぎ、既存の規制のより厳格な施行を行なうべきです。末尾の付属書に、これら4つの重要な問題に関する更なる情報が示されています。

 これらの問題を第7次環境行動計画(7th EAP)の中で確実に対応するよう要請するに当り、私たちはこれらの課題に関する全ての行動が第7次環境行動計画(7th EAP)の採択を待つべきであるということを意味しているわけではありません。反対に、私たちは、有害化学物質への曝露からの保護のようなある措置は国家の及びEUの措置を通じて、もっと緊急にとられるべきであると考えています。

 しかし、第7次環境行動計画(7th EAP)は、新たな科学的発見が化学物質の複合影響、内分泌かく乱物質(EDCs)、高懸念物質(SVHC)、及びナノマテリアルのような新たに出現している健康への脅威に関連する特定の措置の開発を通じて完全に取り上げられることを確実にするために、長期的な枠組みを確立すべきです。これらの問題は現在のEUの法令の下に十分に対応されているわけではありません。

 有害化学物質への曝露を迅速に防止し低減することにより、そしてEUが人の健康と環境の両方のためにより良い代替をもたらす先駆者になることを確実にすることにより、第7次環境行動計画(7th EAP)が公衆の健康と環境を確実に保護するよう、これらの問題を強力に支援し、非公式会合でこれらの問題を提起することを私たちは求めます。

 公衆はこのことがらに関心があると考えられるので、私たちはこの手紙の内容を広く拡散するつもりです。この手紙で提起されたことがらに目を向けていただき、ありがとうございます。
  • WECF - Women in Europe for a Common Future, Sascha Gabizon, International Director
  • HEAL - Health and Environment Alliance, Genon Jensen, Executive Director
  • EEB - European Environmental Bureau, Jeremy Wates, Secretary General
  • PAN-Europe (Pesticide Action Network), Hans Muilerman, Chemicals Officer, Pesticides & Alternatives
  • ClientEarth, James Thornton, Chief Executive Officer
  • Health Care Without Harm Europe, Anja Leetz, Executive Director
  • ChemSec - International Chemical Secretariat, Anne-Sofie Andersson, Director
  • CHEM Trust (Chemicals, Health and Environment Monitoring Trust), Gwynne Lyons, Director
  • RES - Reseau Environnement Sante, Andre Cicolella, President et porte-parole
  • Swedish Society for Nature Conservation, Mikael Karlsson, President
  • The Danish Ecological Council, Eline Aggerholm Kristensen, Policy officer-chemicals
  • CCOO, Comisiones Obreras, Carlos Martinez Camarero, Confederal Environment Secretariat


付属書

内分泌かく乱物質(EDCs)
 内分泌かく乱物質(EDCs)は、環境健康の主要な脅威である。ホルモン関連のがん(乳がん、精巣がん、前立腺がん)、肥満、糖尿病、心臓血管系疾患、生殖健康問題、脳発達障害などの多くの有害な健康影響が内分泌かく乱物質への曝露と関連することを示す科学的証拠が増大している。欧州委員会により発表された最近の報告書『内分泌かく乱物質に関する最先端科学』[1]は、内分泌かく乱物質の有害影響は現在過小評価されており、EUの法律は現在、この問題に適切に対応していないことを示す驚くべき証拠を示している。同報告書は、既存のテスト方法の欠陥に光を当てているが、改善方法も示している。

複合化学物質
 毎日、我々は、呼吸する空気、摂取する食物、及び飲料水を通じて、合成化学物質の混合物に曝露している。そして、たとえ単独の化学物質への曝露はそれ自身が引き起こすある影響のレベルより低くても、それらが一緒になると”加算され”潜在的に危険な”カクテル効果”を引き起こすことを新たな科学が示している。

 欧州委員会環境総局に委託された、報告書『複合毒性に関する最先端科学』[訳注1]は、”通例のリスク評価のための化学物質毎のアプローチでは単純すぎるという複合毒性の分野における合意があり、化学物質の人の健康と環境へのリスクを過小評価することは危険である”と述べている。現在のリスク評価アプローチは緊急に修正する必要がある。

ナノマテリアル
 ナノマテリアルは、化粧品、衣類、スポーツ用品、塗料、食品容器、食品添加物のような広範な日用品中で見出すことができる。その新たな特性のためにナノ粒子は人の健康と環境に独自のリスクをもたらすかもしれない。あるナノ粒子の潜在的な毒性と生態毒性には、DNAの損傷、人の胎盤を通過することによる胎児発達へのダメージ、アスベストのような疾病、及び水生及び陸生の生物へのダメージなどが含まれる。”バルク”マテリアルに基づき実施される安全テストは”ナノ”レベルを推定するためには適切ではなく、安全性を予知できない。

 現在のEUの法体系はナノマテリアルによって及ぼされるリスクに対応できていない。REACHは、ナノマテリアルの閾値、データ要求、安全評価、追跡可能性に関するナノ特有のどのような規定をも含んでいない[2]。市民社会組織からの、そして欧州議会や少数の加盟国からの強い圧力にもかかわらず、欧州委員会はいまだに、ナノマテリアルの安全な製造、使用、及び廃棄処分を確保する新しい適切なツールを提案することをためらっている。現在、”ナノマテリアル”も定義は最終的に提案されているのだから、理事会は欧州委員会にこれ以上遅れることなく行動を起こすよう要請しなくてはならない。

REACHにおける非常に高い懸念のある物質(SVHC)
 REACHは、EUにおける化学物質管理の偉大な達成である。しかし、緊急に対応されるべきいくつかのギャップがあり、特に非常に高い懸念のある物質(SVHC)に関する条項の実施ペースが遅い。したがって我々は、全ての”知られている及び疑われている”[3] SVHC は、2020年までに代替させるという政策目標の確約を第7次環境行動計画(7th EAP)に含めるよう要求する。それは持続可能な化学(chemistry)及びその使用[4]がリソース効率事項と一致して推進され、経済的な仕組み、例えば汚染者負担原則に基づき目的を達成することを支援するために政府にコストを負担させない[5] SVHC 自己資金調達メカニズムが導入されることを確実にすべきである。

 さらに、SVHCに関する製品法におけるギャップに目を向ける必要がある。これらの懸念は、化学物質は2020年までに有意な有害影響を健康と環境に及ぼさない方法で製造され使用されるという現在の第6次環境行動計画(6th EAP)目標を追求するものである。


付属書(注)
[1] STATE OF THE ART ASSESSMENT OF ENDOCRINE DISRUPTERS Final Report 23.12.2011 commissioned by the European Commission, DG Environment
http://ec.europa.eu/environment/endocrine/documents/
4_SOTA%20EDC%20Final%20Report%20V3%206%20Feb%2012.pdf


[訳注1] State of the Art report on mixtures toxicity (Kortenkamp et al, Dec. 2009 commissioned by the European Commission’s DG Environment

[2] See CIEL report “Just out of REACH . How REACH is failing to regulate nanomaterials and how it can be fixed”, available at: http://www.ciel.org/Publications/Nano_Reach_Study_Feb2012.pdf

[訳注2] 2012年2月6日 ナノ物質の規制 REACHのすぐ外で REACHはどのようにナノ物質の規制に失敗しようとしており どのように改善することができるか 弁護士 デービッド・アゾレイ 国際環境法センター(CIEL)/スイス事務所

[3] 政策策定者らは、持続可能開発に関する2002年ヨハネスブルグ世界サミットで欧州連合は、2020年までに化学物質は人の健康と環境に及ぼす著しい有害影響を最小化する方法で化学物質が生産され、使用されることを達成することに合意した。2020年までに SVHC の代替を実施するとするこの政治的約束は、少なくとも REACH 規則 の説明(recitals)(4) と (6) の中で再確認されている[訳注3]

[訳注3] REACH(環境省訳 説明(recitals)1ページ目 (4) 及び(6)
(4) 2002 年9 月4 日の持続可能な開発に関するヨハネスブルグ世界サミットで採択された実施計画に従い、欧州連合は、2020 年までに人の健康や環境に対する著しい有害な影響を最小化する方法で化学物質が生産され、使用されることを達成することを目的としている。
(6) 本規則は、2006 年2 月6 日にドバイで採択された、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の達成に貢献すべきである。

[4] ”持続可能”な化学物質の持続可能な使用は、リソース消費に関連して、また、有害物質の回避のように、そのライフサイクルを通じて有害な環境及び健康への影響を防止し、それが実行可能でなければ最小化する一方で、全体として社会が必要とする機能を提供することを目的としている。研究と革新を通じて行なわれる絶え間ない改善は、”知識ベース”のEU産業を持続可能な市場モデルにおけるリーダとする有利さをもたらすだけでなく我々の、労働者、消費者、そして環境をも保護する。更なる情報はEEB/BEUCの討論ペーパー『The path to sustainable use of chemicals in products: the European Ecolabel as a signpost (製品中の化学物質の持続可能な使用への道:道標としての欧州エコラベル)』

[5] コンセプトは、政府にコスト負担をかけない自己資金調達メカニズムであり、それは外部コスト化を図ることにより汚染者負担原則を実現し、解決のためのリソースを供給しつつ代替による解決を促進し、国民の税金の使用を抑えることである。その結果は、政府のコスト負担がなくなり、医療や環境対策のコストが削減されるので大きな節減が得られるので、著しい財政的利得をもたらすであろう。SVHC 製造者は、有害性のない、又は有害性の少ない物質への代替のための研究、開発、及び実施のためのインセンティブとリソースを供給するために、最小限の料金と時間外勤務の増加が条件となるであろう。売り上げは、政府機関により管理される”SVHC解決”基金に回されるであろう。



化学物質問題市民研究会
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