2010年4月28日 ILO 職場安全衛生世界デー
労働環境の変化の中で新たに生じている
リスクと新たな予防のパターン

職場の新たなリスクから抜粋

情報源:International Labour Organization
WORLD DAY FOR SAFETY AND HEALTH AT WORK, 28 APRIL 2010
Emerging risks and new patterns of prevention in a changing world of work
http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_protect/---protrav/---safework/documents/publication/wcms_123653.pdf
http://www.ilo.org/safework/info/publications/lang--en/docName--WCMS_123653/index.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年4月26日
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職場の新たなリスク

 職場で新たに生じているリスクの研究が近年、多くの注目を浴びている。多くの研究者らが、予防の改善という観点から、職場関連の事故、特に不健康に関わる新たな傾向を監視し予測している。例えば、欧州リスク監視活動部門(European Risk Observatory)は、EUの職場で最近新たに出現しているリスクについての研究を発表した(脚注2)。
(脚注2)“New and emerging risks in occupational safety and health”, European Risk Observatory, European Agency for Safety and Health at Work, December 2009 http://osha.europa.eu/en/publications/outlook/en_te8108475enc.pdf

 新たに生じてい職業的リスクは、技術革新又は社会組織の変化によって引き起こされているかもしれない。それらには:
  • 例えば、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなのどの技術や製造プロセス

  • 例えば、高い作業負荷、サイズの微小化による作業強化、移住労働に関連した劣悪な労働環境、非公式な産業分野の仕事などの新たな職場環境

  • 例えば、自営業、アウトソーシング、臨時雇用などの新たに出現している雇用形態

 それらは、は例えば、筋骨格系疾病に関する人間工学的リスクなどの、よりよい科学的理解を通じて広く認められれるかもしれない。それらは作業関連のストレスに及ぼす心理学的要素の影響などいくつかのリスク要素の重要性についての認識の変化によって影響されているかもしれない。

新たな技術

 新たな技術、新たな作業プロセス、及び組織の変化によって引き起こされる今までは未知であったリスクについて世界的な懸念がある。新たな発見とそれらの産業での応用は、それらの安全と健康に関する影響を我々がよく理解する前に行なわれている。サプライチェーン網が世界中に拡大し、途上国での製造が増大する中で、技術的変化は、途上国及び先進国に同時に影響を与える。例えば、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーを使用した現代的な製造プロセスは世界中いたるところで見ることができるようになった。

ナノテクノロジーと工業用ナノ物質

 ナノテクノロジー(脚注3)は、医療、バイオテクノロジー、クリーン・エネルギー生成、情報通信、化学、電子及び軍需産業、農業、建設産業などを含む多くの領域で応用されている。2020年までに、世界中で製造される全ての商品の約20%が何らかのナノテクノロジーの利用に基づくであろうことが予想されている。しかし、それは新たに出現している技術であり、ナノ物質の製造と使用に関連するリスクの多くは未知である。ナノテクノロジーの応用の進歩と健康への影響との間に大きな知識のギャップがある。産業におけるナノ物質の広範で非常に多様な使用のために、曝露する労働者の数を推定することもまた難しい。これらの新たな物質の健康と環境への影響についてほとんどわかっていない一方で、労働者は最初に高い曝露を受ける集団である。

(脚注3)ナノテクノロジーは1〜100ナノメートルの物質の操作に関わる技術であり、その物理的特性に置ける変化に依存する。ナノ粒子は、その強度や弾力性のような物質の機械的特性に影響を与えることができる。ナノ粒子は、その輸送と特性という見地からひとつの全体単位で振舞う小さな物質として定義される。それはさらにサイズに従って分類される。粒径から、微粒子(fine particles)は 100〜2500ナノメートルの範囲をカバーし、一方超微粒子(ultrafine particles)は1〜100ナノメートルのサイズである。

 いくつかの政府と民間のナノテクノロジー産業団体は、ハザード分類を実施しその規制的影響を評価するために、ナノ物質のヒト健康と環境に及ぼす潜在的な影響をを評価するための国家及び産業界タスクフォースを確立している。多くの研究がすでに実施されている。例えば、OECD理事会は、ナノ物質の安全性に関するOECD加盟国の実施を研究し、要求される評価手法を開発するための工業用ナノ物質に関する作業部会(Working Party on Manufactured Nanomaterials)を確立した。

 米環境保護局や欧州委員会保健消費者保護指令のような規制機関は、理解され効果的に管理されるようナノ物質の潜在的なリスクの調査を開始している。国連教育科学文化機関(UNESCO)の専門家グループはナノテクノロジーの倫理的側面を評価しており、すでに多くの報告書を発表している。ナノテクノロジーは先進国だけにかかわるものではない。ナノテクノロジーの研究と開発は開発途上国及び移行経済国にも広がっており、この技術がいかに最新のものであるかを考慮すればそのことは全く驚くべきことである。

生物学的リスクとバイオテクノロジー

 新たな技術の適用により生じる生物学的リスクは、医療、緊急救護作業者から農業、廃棄物管理及びバイオテクノロジー産業に雇用されテいる人々まで多くの分野の労働者に影響を与えることがある。

 最近の数十年間に顕著になっているものに、新たに出現している感染性疾病(SARS, H1N1インフルエンザなど)、薬剤耐性タイプの感染症(結核、マラリア)及び現在進行しているHIV/AIDS の流行などの生物学的リスクがある。これら全ては、世界中で3,500万人以上が雇用されている医療分野の労働者にとって、特に深刻なリスク要素である。疾病がうつる手段がよく理解されていない場合や、適切な個人防護装置が不適切あるいは入手できないような場合には医療介護労働者は特にリスクがある。感染性医療廃棄物の管理はまた、使用済みの注射器やメスなどの汚染された鋭利な器具の取り扱いを含むので医療関係労働者に深刻なもんだいを及ぼすことがある。

 生物学的なリスクはまた農業者や家畜繁殖業者にも影響を及ぼす。マイコバクテリアム菌、病原性レプトスピラ、炭疽菌(Bacillus anthracis)、及び農作業場における生物学的アレルゲンへの曝露が開発途上国で広がっている。抗菌耐性生物、動物廃棄物、動物の飼育の様々なタイプに関連するエンドトキシン(細胞内毒素)への曝露もまた、農場施設内でしばしば起きる。マラリアや結核のような風土病もまた開発途上国の農作業場に存在する。世界保健機関(WHO)によれば、世界の人口の半分はマラリアにかかるリスクがあり、低所得刻における死亡原因の上位10に入っている。2008年には2オク4,300万症例のうち863,000人の死をもたらしている。アフリカ地域はマラリアにより最も影響を受けており、発症例の89%を占めている(World Malaria Report 2009.WHO)。

 バイオテクノロジー産業の中では、新製品及び遺伝子組み換え生物の開発に関与する人々は特にリスクがある。多くの国の規制当局は、そのような作業を始める前にげんかっくな承認制度を課しているが、それらの作業が規制のゆるい諸国に委託されると、そのようなことは今後もっと多く生じるかもしれないが、リスクはそれほど厳しく管理されないだろう。全体として、適切なリスク評価と管理措置。及び生物学的リスク検出のためのよりよいツールが予防を改善するために開発される必要がある。

化学物質リスク

 化学物質はヒト健康と環境にポジティブ及びネガティブの影響を及ぼしつつ広く使用されている。国際的及び国家的レベルの両方で化学物質の規制と管理において著しい進歩がなされたにも関わらず、労働さhの健康にとて未だに懸念がある領域である。

 生殖系への有毒性物質はもちろん、アレルギー性、過敏性、発がん性、変異原性の物質は懸念が増大している。多くの農薬はがんを引き起こし、生殖に危険をもたらし、神経系、免疫系、ホルモン系に有害な影響を及ぼすことがある。鉛、水銀、その他の重金属も農薬と同様に多くの開発途上国で管理が]不十分なままである。

 過去20年間、産業的環境中で使用される多くの化学物質は驚くべき成長を遂げているが、それらの多くは適切にテストが行なわれていない。全ての新たな部室を体系的にテストすることが実行不可能であるということは、ヒト健康又は環境に対する脅威が実際に示されるまで多くのリスクは検出されないままでいるということを意味している。既知の複合曝露の影響についての多くの事例がある。例えば、複合農薬、ディーゼルヒュームとその他の燃料、混合溶剤などである。大きなギャップが混合化学物質曝露の潜在的な影響の理解において大きなギャップが存在する。

 化学物質の安全のためには、化学物質の評価と分類のための国のシステムを確立することが重要であり、製造者及び輸入者から職場の使用者に表示と化学物質安全データシートを通じて適切な情報の流れを確実にすることが重要である。職場での予防を強化するためにそのような情報は、国家レベルでの法的要求とともに、ハザードと安全警戒(管理と緊急措置を含む)を含むべきである。労働者は、潜在的なハザードに関して適切に情報を知らされ、訓練される必要があり、適切な光学的管理が曝露を制限するために実施されルべきである。必要なら、個人防護装置が提供され使用されるべきであるが、それは一般的に他の予防措置が曝露を制限するためにとられた後の最後の手段であると考えるべきである。化学物質の効果的な管理が有害な影響を回避するために実施される必要がある。それぞれの化学製品は市場に出される前に適切に特定されるべきである。どのような可能性ある有害な特性の詳細な評価が実施され安全な取り扱いの手法が曝露を回避するために、あるいは少なくともリスクを最小にするために、開発されるべきである。



化学物質問題市民研究会
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