Environmental Factor 2023年11月
内分泌かく乱物質に若年期に暴露すると、
女性の生殖系がんのリスクが増加する可能性がある

実験用マウスを対象とした NIEHS の研究では、新生児の合成エストロゲンへの
暴露が主要な細胞プロセスに影響を与え、子宮内膜がんへの道を開くことが判明した。
ジェシー・サフラン(法務博士、NIEHS 副所長)

情報源:Environmental Factor, November 2023
Risk for female reproductive cancer may increase after
early-life exposure to endocrine-disrupting substances

NIEHS study of laboratory mice found that neonatal exposure to a synthetic
estrogen affected key cellular processes and paved the way for endometrial cancer.
By Jesse Saffron(J.D., Deputy Director of the NIEHS Office of Communications and Public Liaison)
https://factor.niehs.nih.gov/2023/11/papers/
endocrine-disruptors-alter-cell-differentiation


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月13日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/231100_EnvFactor_
Risk_for_female_reproductive_cancer_may_increase_after_early-life_
exposure_to_endocrine-disrupting_substances.html




 内分泌腺は、正常な成長、生殖能力、生殖などの健全な生物学的プロセスにつながるホルモンを生成する。 特定の環境要因への暴露による内分泌系のかく乱は、生殖、代謝、免疫、注意力、肝疾患に関連する健康上の問題と関連している。 (写真提供: Designua / Shutterstock.com)
 米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)の研究者らは、マウスモデルを使用して、新生児期に内分泌かく乱化学物質を暴露させると、成人期に子宮内膜がん、さらには乳がんを引き起こす可能性があることを明らかにした。 内分泌かく乱物質は、ホルモンを模倣、ブロック、または妨害する。

 研究者らは、出生直後(新生児期)にジエチルスチルベストロール(DES)に暴露したマウスでは、子宮細胞の分化が変化し、その後の生殖がんの発生率が高くなることを発見した。 細胞分化は、幹細胞が特定の機能を持つ、性質の異なる種類の細胞に成熟し始める重要な生物学的プロセスである。

 合成エストロゲンである DES は、かつては流産やその他の妊娠合併症を防ぐために処方されていた。 妊娠中に暴露した女性の娘の生殖管異常やがんのリスクが高まる可能性があるため、現在は使用されていない。 しかし、科学者らによると、他の多くの内分泌かく乱化学物質と同様に、DES は細胞の分化を変化させる可能性があるため、DES の発達への影響を研究することは今日でも重要である。 彼らの研究結果は、PLOS Biology 誌に 2023年10月19日に発表された。

最先端のテクノロジーが細胞の重要な変化を明らかにする



ウィリアムズは最近、米国科学振興協会のフェローに選出されした。 詳細については、Environmental Factorの記事を参照ください。 (写真提供: Steve McCaw / NIEHS)
 ”これまで科学者らは、内分泌かく乱物質がどのように細胞分化に影響を及ぼし、がんを引き起こすのかを知らなかったので、この研究は重要である”と筆頭著者で 米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)生殖発生生物学研究所の副所長であるカーメン・ウィリアムズ医学博士は述べた。”今、私たちはその健康結果につながる可能性のある生物学的メカニズムを特定した。私たちが研究したマウスと比較して、同様の健康リスクが人間に生じるためには、人間の暴露期間をはるかに長く維持する必要がありそうである。さらなる研究を通じて確認する必要があるが、それでも人間への微妙な影響が確認されると期待している。 この分野での今後の研究により、これらのリスクについての理解が深まり、新米の親が自分自身と子どもたちのために十分な情報に基づいた決定を下せるようになることが期待される”。

 科学者らは、シングルセル RNA-seq 解析(single-cell RNA sequencing)と呼ばれる最先端の技術を使用して、DESへの暴露が上皮細胞と呼ばれる子宮の内側の細胞にどのような影響を与えるかを示した。 暴露後、上皮細胞は正常ではなかったにもかかわらず、正常に見えた。 後年、女性の月経周期中に起こる現象や、肥満による炎症の増加後に起こるような、エストロゲンシグナル伝達が増加したとき、それらは全く異なる振る舞いをし、もっとがんのように振る舞った。

 研究者らは、新生児が DES に暴露しただけで子宮内膜がんを引き起こすのではなく、成人期にエストロゲンシグナル伝達の増加や炎症などの二次的事象があった場合に、そのような暴露ががんの発生への道を開くと判断した。

内分泌かく乱物質の生物学的影響に関する洞察



エファーソンは、NIEHS 生殖医学グループの生物学者である。NIEHS 生殖医学グループは、同研究所の生殖・発生生物学研究室の一部である。 このグループを率いるのはウィリアムズである。 (写真提供: Steve McCaw / NIEHS)
 「DESは、内分泌かく乱物質の影響をより広範に理解するために使用できる。なぜなら、このような化学物質の多くは、細胞が分化して成人組織になる方法を変えることが報告されているからである”と、共著者で NIEHS 生物学者のウェンディ・ジェファーソン博士は述べた。”マウスを使ったこれまでの研究では、新生児が DES に暴露するとがんが発生することが示されたが、どのようにしてがんが発生するのかは明らかにされていなかった。 これは、細胞発生の初期に何が起こって成人期にがんを引き起こすのかを正確に理解しようとする機会を提供してくれた”。

 科学者らによると、この研究は子宮内膜がんだけでなく乳がんにも影響を及ぼしているという。なぜなら、どちらも内分泌かく乱物質への早期暴露によって大きな影響を受ける可能性のある細胞分化の変化に関係しているからである。

引用: Padilla-Banks E, Jefferson WN, Papas BN、Suen AA, Xu X, Carreon DV, Willson CJ, Quist EM, Williams CJ, 2023. Developmental estrogen exposure in mice disrupts uterine epithelial cell differentiation and causes adenocarcinoma via Wnt/β-catenin and PI3K/AKT signaling(マウスにおける発達段階のエストロゲン暴露は、Wnt/β-カテニンおよび PI3K/AKTシグナル伝達を介して子宮上皮細胞の分化を破壊し、腺がんを引き起こす) PLoS バイオ 21(10):e3002334。



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