EHN 2016年10月17日
経済に有害:よく使用される化学物質が
アメリカに毎年数十億ドルを費やさせる

ブライアン・ビエンコウスキー

情報源:Environmental Health News, October 17, 2016
Toxic economy: Common chemicals cost US billions every year
By Brian Bienkowski, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/oct/
toxic-economy-common-chemicals-cost-us-billions-every-year


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年11月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/
161017_EHN_Toxic_economy_Common_chemicals_cost_US_billions_every_year.html

 研究者らは、内分泌かく乱化学物質は、知能指数(IQs)を低め、行動問題を増加させ、肥満や糖尿病のような健康問題を悪化させるので、米国経済に年間3,400億ドル(約34兆円)の出費をもたらすと見積もっている。
 新たな分析によれば、農薬、おもちゃ、化粧品、食品容器、洗剤中の化学物質への暴露は、 医療費及び仕事の損失のために米国経済に年間3,400億ドル(約34兆円)以上の出費をもたらす。

 内分泌かく乱化学物質として知られる化学物質は人のホルモン機能に影響を及ぼし、脳発達の阻害、知能指数(IQs)の低下、行動障害、不妊、出生障害、肥満、及び糖尿病のような健康問題と関連付けられている。

 見積もられた経済的損失は、アメリカの国内総生産(GDP)の2%以上である。

 この発見は、”内分泌かく乱化学物質によってもたらされる緊急の公衆の脅威を示すものである”と研究者らは言う。

 その研究は月曜日(10月17日)に「ランセット糖尿病及び内分泌学(The Lancet Diabetes and Endocrinology)」に発表された。Environmental Health Sciences の創設者で、 Environmental Health News と The Daily Climate の発行者であるピート・マイヤーズはその研究の共著者である。

 研究者らは、まず暴露に目を向け、次に化学物質に関連する15の医学的症状、そして関連する健康コストと賃金の損失を予測することにより、コストを見積もった。

 この発見は、内分泌学会、世界保健機関、及び国連環境計画によってなされた計算に立脚している。ヨーロッパで実施された同様な研究が、これらの化合物への曝露に起因する年間約2,170億ドル(1,570億ユーロ、約24兆円)の損失を発見した(訳注1)。

 アメリカのコストが高い理由は、”政策と規制における大きな相違のためである”と、ニューヨーク大学医学校の準教授で研究者であり、この研究の主著者であるレオナルド・トラサンデ博士は述べた。

 アメリカ国民は、ひとつには厳格な火災安全規則のせいで難燃化学物質への暴露が大きい。これらの化合物は、延焼を遅らせるために家具内の発泡体や電子機器に加えられている。

 ヨーロッパでは、農薬が主要なコスト要因である。難燃剤とある農薬の両方は、胎内で赤ちゃんが暴露すると、その脳の発達に影響を及ぼすことがあり得る・

 トラサンデは、米・食品品質保護法(1996年)は、農薬が農業での使用で承認される前に、子どもの安全の検討を求めていることに言及している。そのような政策はヨーロッパにはない。反対にヨーロッパは、ポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)と呼ばれる難燃化学物質の特にあるグループを規制するのにもっと積極的であった。

 PBDEs はアメリカで最悪の犯人であり、推定される健康問題の3分の2近くを占める。PBDEs は年間約1,100万点の IQ ポイントの損失と 43,000 件の追加的な知的障害をひき起し、2,680億ドルという大金の損失をもたらすと見積られている。

 アメリカで二番目にコスト損失が大きい化学物質グループである農薬は年間、推定約 180万点の IQ ポイント損失と、更なる 7,500 件の知的障害を引き起こし、推定 447億ドルの損失となる。

 研究者らはまた、ポリカーボネート・プラスチック、食品缶内面、レシートなどで使用されるビスフェノールA(BPA)や食品容器や化粧品中で見いだされるフタル酸エステル類のような、よく使われる化学物質に目を向けた。

 化学物質製造者を代表する米国化学工業協会(ACC)は、トラサンデと共著者らは”うわべだけの重要でないことを科学的原則に向けて論証していると主張して、その新たな報告書を激しく非難した。同協会は、その研究は不確かで、数多くのデータの中から都合のよいところだけを並べ立てていると述べた。

 トラサンデは、見積りは控え目であると反論した。研究者らは、知られている内分泌かく乱化学物質の5%以下の少数から健康関連コストを計算したと彼は述べた。

 ”我々はまた、残留性有機汚染物質のような既に禁止された化学物質は考慮しなかった”と彼は述べた。DDT や PCB 類を含むこれらの化合物は、長年、あるものは数十年間、市場から除去されているにも関わらず、環境中や人の血液中に未だに存在している。

 ”残留性有機汚染物質はまた糖尿病、肥満及び神経系への有害影響への寄与が知られているのだから、それらはもう一つの過小評価の要因である”と、トラサンデは述べた。

 研究者らはその疾病に罹患している全ての人々よりむしろ化学物質が役割を演じている人々を表すことを望んで、疾病数を著しく割り引いたとトラサンデは付け加えた。

 著名な環境健康研究者でありハーバード大学公衆衛生校のフィリップ・グランジャンは、その研究は健康影響が内分泌かく乱によるのか、又は他の有毒物質が役割を演じているのか確認していないと述べた。しかし彼はeメールでのコメントで、”我々は有害健康影響をもっと深刻に考慮しなくてはならず、もっと多くの証拠を要求するとはいえ、それらを無視するだけであってはならない”と述べた。

 ”もちろん、もっと多くを知ることは素晴らしいであろうが、私の予測は、もし我々が追加的な物質と追加的な有害影響に関してもっと良い証拠書類を得るならば、計算された社会へのコストは大いに増加するであろうということである”と、この研究には関与しなかったグランジャンは述べた。

 トラサンデは、この研究は特にアメリカが有害物質規制法を改正するので、同国における内分泌かく乱化学物質への暴露に目を向ける必要性を強調していると述べた。

 新規及び既存化学物質の両方を規制する同法の2016年改正は、内分泌かく乱についての記述を含んでいないとトラサンデは述べた。化学物質は、市場に出される前に人のホルモンに及ぼすどの様な潜在的影響も審査されるべきであると彼は付け加えた。

 ”我々が内分泌かく乱化合物への暴露に関連していると特定した 3,400億ドル(約34兆円) というコストに比べれば、テストに要するコストは小さいようだ”と著者らは付け加えた。

 これらの有害物質の多くは長期間体内に残るが、人々は暴露を避ける措置をとることができる。

 ”我々は、絨毯や家具を買う時に難燃剤や過フッ素化合物について質問することができ、これらの物質を含まない製品を選択することができる”と、グランジャンは述べた。”我々は、マグロやその他の大型の捕食種の魚類を避けるという選択ができ、我々は有機果物と葉菜類を選択することができる”。


訳注1 内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用  EU で年間 1,500億ユーロを越える



化学物質問題市民研究会
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