EHN 2016年9月19日
論評:内分泌かく乱物質研究 25年
長足の進歩、しかしまだ、これから先の道は長い

ローラ N. バンデンバーグ

情報源:Environmental Health News, September 19, 2016
Commentary: 25 years of endocrine disruptor research - great strides, but still a long way to go
By Laura N. Vandenberg, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/sept/commentary-25-years-of
-endocrine-disruptor-research-2013-great-strides-but-still-a-long-way-to-go


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年9月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/
160919_EHN_Commentary_25_years_of_endocrine_disruptor_research.html

 今週、内分泌かく乱物質研究の25周年を祝うにあたり、私たちは成し遂げられた長足の進歩と、人々の健康をさらに守るためにこの仕事を続けることの必要性の両方を認識すべきである。
 がん、糖尿病、自閉症、不妊、注意欠陥多動症、ぜんそく。これらの疾患の発症率が時間とともに増大しており、国民及び研究者はともに、環境がそれらの原因と進展に果たす役割を注視してきた。環境健康科学のこの分野の科学者らは、環境が人の病気に作用するということをただ知るだけでは満足しない。どの様に作用するのかを彼らは知りたい。

 今週、研究者、公衆健康推進者、政府担当者、そして産業側報道担当者らは、環境健康のひとつの面である内分泌かく乱化学物質(EDCs)に関する科学的研究の25周年を祝うために、国立健康研究所(NIH)に集う。これらは、体内のホルモン作用を変更し、しばしば、それらの作用を擬態又は阻害する化合物である。 EDCs を含有する広く使用されている消費者製品の例には、プラスチック、電子機器、床材、身体手入れ用品のあるもの、そして難燃剤処理された家具などがある。

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Laura Vandenberg
(Credit: umass.edu)
   NIH の助成を受けた科学者らは、数百万人のアメリカ人の命に影響を及ぼす病気に環境ががどの様に作用するのかを理解するのに途方もない進歩を遂げた。私たちは現在、 EDCs は低用量でも作用することができることを知っている。また毒性学者らにより数十年間、使われてきた従来の格言、”毒は用量次第 (the dose makes the poison)”は、EDCs に関連した健康影響を理解するには時代遅れで、単純化し過ぎており、高用量研究は化学物質の影響についてしばしば、全貌を伝えていないということは明らかである。そして、私たちは、生命のある時期にはこれらの化学物質に対して非常に敏感になり、発達の脆弱な期間の暴露は、成人になるまではっきり表れないであろう影響をもたらすことがある。

 私たちはまた、現在のアメリカ人の体内には数百種の化学物質が巡っていることを知っている。私たちの赤ちゃんは、母親の妊娠中及び生活を通じての EDCs やその他の汚染物質への暴露のために、血中で、胎盤中で、そして羊水中で検出可能な化学物質により、”すでに汚染されて”生まれてくる。

 しかし、NIH に支援された研究を通じて私たちは、例えばプラスチックやその他の消費者製品中でよく使用されているビスフェノールA(BPA)は、エストロゲンを擬態し(時には阻害し)、甲状腺ホルモンの信号伝達をかく乱し、男性ホルモンの作用を変更し、肥満をもたらすことを知っている。私たちは、1970年代に広く使用された殺虫剤 DDT は、体内に蓄積され、胎内で暴露した娘に乳がんのリスクを増大させることがあることを知っている。私たちは、かつて産業プロセスで広く使用された化学物質である PCB 類は脳の発達を変更し、多くの行動をかく乱することを知っている。私たちはまた、よく使用される除草剤アトラジンはカエルの性的発達に影響を与え、また哺乳類の成熟と生理周期を変更することができることを知っている。

 アメリカ及びその他の国の数百人の科学者らの献身により、私たちは、以前は重要であると考えられていたより低い暴露レベルであっても、これらの化学物質がどのように疾病をもたらすことができるのかを知り始めている。
 もっと重要なことは、アメリカ及びその他の国の数百人の科学者らの献身により、私たちは、以前は重要であると考えられていたより低い暴露レベルであっても、これらの化学物質がどのように疾病をもたらすことができるのかを知り始めている。

 国民はしばしば、食品容器、化粧品、室内装飾材、洗浄用品、医療機器のような消費者製品中にホルモン活性化合物が検出されることを知って憤慨する。彼らはまた、新たな研究がこれらの化学物質のひとつを人類を悩ます無数の疾病に関連付けると動揺する。これらの感じ方はよく理解できるが、私たちはひとつの社会として怒りや鬱積を超えて解決の道を見つける必要がある。

 ある場合には、私たちはこれらの化学物質が産業によってどのように使用されているのか、そしてより安全な代替が存在するのかどうか、についてのより良い知識を求める。他の場合には、これらの化学物質について何をなすべきかを決定することはもっと多くの知識、すなわち、これらの化合物は私たちに何をするのか、そしてこれらの化学物質は、”化学シチュー”として相互作用しながらどのように振る舞うのかをよりよく理解するための研究を求める。

 私たちはまた、暴露の”安全”レベルを特定するための手法の開発に達していない。特に化合物が胎児、新生児、幼児及び子どもの健康にとって本質的に重要なホルモン伝達信号をかく乱することができる場合、科学者らは多くの EDCs にとって安全レベルというものが実際に存在するのかを問う。そしてある化学物質について、私たちはそれらが単独でどのように作用するかに関しては多くを知っているが、私たちが日常的に経験しているように混合物がどのように作用するかに関しては、私たちはほとんど知っていない。この暴露の組み合わせ、すなわち化学のシチューは人間の条件によく関連しており、もっとよく理解される必要がある。

 最後に、ある EDCs は、ある世代が暴露すると、その影響を直接的には暴露していない次世代に伝えることを示している。このことは、祖父母が受けた化学物質暴露により、自身は暴露していない孫やひ孫が影響をうけるかもしれないことを意味する。これらの発見の含みは驚くべきことであり、生物学的情報が世代から世代に伝えられる仕組みを理解することがもっと重要になる。

 先住民イロコイ族やその他のアメリカ先住民族は、全ての決定において私たちは七世代先の子孫への影響を考慮すべきという一つの原則の下に生活している。暴露した動物のひ孫に害を及ぼすことを示すこの比較的新しい EDC 研究は、害を引き起こすことを私たちが知っている化学物質から将来の世代を守るための能力に挑むものである。

 研究科学者がもっと多くの研究のために資金を求めることは陳腐に響くかもしれないが、私たちは、疾病への環境的寄与のさらなる理解のための研究資金について国民からの委託を必要とする。私たちは、 NIH に対するそのような資金を維持するか又は増額する予算を議会が通すことを必要としている。

 2016年はいろいろと当たり年であり、環境健康について祝うべきことがたくさんある。そのメンバーが EDCs 研究に多大の貢献をしている内分泌学会は、その100周年を祝った。環境健康の研究に多くの資金を提供している NIH 傘下の国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、環境研究の50周年を祝っている。

 私たちは、今週 EDC 研究の25周年を祝う時に、この科学分野でなされた重要な進歩を見て勇気づけられる。さらに私たちは次世代の健康を守るためにもっと多くのことが必要であるということを認識しなくてはならない。


訳注:関連情報
世界のEDC政策の動向
Environmental Health Perspectives(EHP) 2016年9月号 内分泌かく乱科学の25年: シーア・コルボーンさんをしのぶ



化学物質問題市民研究会
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