Environmental Healt News (EHN) 2023年9月18日
誰もが BPA に過度にさらされている可能性がある− EU
ダグラス・フィシャー
プラスチックを使用している場合は、
健康安全性の許容レベルを超えている可能性がある。

情報源:Environmental Healt News (EHN), September 18, 2023
Everyone is likely overexposed to BPA - EU
By Douglas Fischer
https://www.ehn.org/bpa-plastic-exposure-2665456485.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月28日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/230918_
EHN_Everyone_is_likely_overexposed_to_BPA_EU.html



 乳がんや肥満に関連する一般的なプラスチック添加物への我々の暴露は、世界中の政府が設定した健康基準を超えている可能性がある。

 欧州環境庁は最新の研究データを引用しつつ、今回の新たな発見は欧州国民全体、ひいてはプラスチックと頻繁に接触するすべての人々にとって”重大な健康上の懸念”を引き起こすと述べた(訳注1)。

 同庁は、生体モニタリング研究の参加者全員が安全な健康基準値を超える化学物質に暴露された可能性が高いことを示した研究を引用した。 参加者はヨーロッパ11カ国から集まった。

 ビスフェノール A または”BPA”という化学物質はプラスチックを硬くするもので、再利用可能な水筒やプラスチック製の食品容器からスポーツ用品に至るまで、さまざまな製品に使用されている。 また、缶詰の内面塗装などのエポキシや樹脂の主要成分でもある。 そして、感熱紙のレシートを指でこすったときに感じるザラザラ感(grittiness)はどうであろうか? それが BPAである。

 欧州環境庁の部長リーナ・イラ・モノネンは声明で、”ビスフェノールAは、これまで考えられていたよりもはるかに広範囲にわたって我々の健康にリスクをもたらしている”と述べた。 ”我々はこの研究結果を真剣に受け止め、欧州人の健康にリスクをもたらす化学物質への暴露を制限するために EU レベルでさらなる行動をとらなければならない”。

 EU の規制当局(EFSA)は、BPA への暴露を減らすためにいくつかの措置を講じている。 EFSA は、食品と接触する材料中の BPA の許容暴露レベルをほぼ 20,000 倍に引き下げることを提案したが、それはほとんどその製品を禁止するようなものである。(訳注:EFSA は 2015年の暫定的 TDI である 4 マイクログラム/kg/Day を 2023年4月に 0.2ナノグラム/kg/Day とすることを提案した。 EFSA , Latest in April 2023)

 米国はまったく異なるアプローチを採用している。1988 年に設定された米国の BPA の 1 日あたりの安全な暴露レベルは、提案されている欧州の推奨値の 25 万倍である。

 さらに厄介なことは、我々の血液や体内のBPAを測定しようとする試みが、その量を”著しく過小評価している”のではないかと研究者らは疑っているが、これは食品医薬品局(FDA)が BPA へのヒト暴露は”無視できる”ほどなので BPA は安全であると主張していること(訳注2)をある程度考慮すると、この発見は公衆衛生に重大な影響を及ぼしている。


訳注1:欧州環境庁(EEA)
Public exposure to widely used Bisphenol A exceeds acceptable health safety levels Press releasePublished 14 Sept 2023
Impact of Bisphenol A on our health
(ビスフェノール A が我々の健康に及ぼす影響)

 EUは、多くの消費者製品におけるビスフェノールAの大量使用と、それが人間の健康に及ぼす影響について懸念を強めている。 BPA は食品や飲料の包装に一般的に使用されるさまざまなプラスチックに含まれているため、人々は主に食事を通じて BPA にさらされている。 4月に欧州食品安全庁(EFSA)は、BPAへの暴露による公衆衛生へのリスクを再評価した最新の科学的見解を発表した。 また、食事からの BP A暴露、特に缶詰食品からの BPA 暴露による健康上の懸念が現在存在しており、これはすべての年齢層にとって最も重要な暴露源であることが判明していると結論付けた。

 EFSA は、BPA は非常に低用量で人間の免疫系に損傷を与える可能性があると結論付けている。 これは、内分泌かく乱、生殖能力の低下、皮膚アレルギー反応など、これまでに発見されている人間の健康に対する多くの有害な影響に加えて生じるものである。

 最新の HBM4EU (European Human Biomonitoring Initiative ) ヒト生体モニタリングデータは、BPA への暴露によりヨーロッパの人々に健康上の懸念があるという EFSA の結論を裏付けている。 人間の生体モニタリングは、複数の暴露源から生じる総内部被暴の実測値を提供する。 人間の尿中のビスフェノール A レベルに関する生体モニタリング データは、2015 年以降に導入されたさまざまな規制措置にもかかわらず、暴露が依然として高すぎることを示している。

ヒト生体モニタリング研究に関する詳細情報

 ヨーロッパのヒト生体モニタリング プロジェクトである HBM4EU は、2017 年 1 月から 2022 年 6 月まで実施された。このプロジェクトは、ヨーロッパの住民における化学物質の発生とそれに伴う健康への影響に関するヨーロッパ全体の調和のとれたヒト生体モニタリング データを生成した。

 東西南北の各ヨーロッパを代表するクロアチア、チェコ、デンマーク、フランス、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ルクセンブルク、ポーランド、ポルトガル、及びスイスの 11か国からの成人 2,756人の尿中のビスフェノール A と BPA の代替品として使用される他の 2種類のビスフェノール(ビスフェノール S とビスフェノール F)が測定された。 BPA の生体モニタリングに参加した国では、超過レベルは 71% から 100% の間で変動した。 したがって、ヨーロッパにおける BPA への国民の暴露量は非常に多く、潜在的な健康上の懸念となっている。

 ヒト尿中の BPA をモニタリングするために使用される分析法の定量限界は、ヒト生体モニタリング・ガイダンス値 (HBM-GV) を超えていることに注意する必要がある。 これは、報告された超過が最小限の数値であることを意味する。 実際には、11 か国すべての超過率が 100% 安全レベルを超えている可能性がある。

訳注2:米国F食品医薬品局(FDA)
Summary of FDA's Current Perspective on BPA in Food Contact Applications, as of:04/20/2023
(食品接触用途における BPA に関する FDA の現在の見解の概要(2023年4月20日現在))

 最新の安全性評価に基づく FDA の現在の見解は、BPA は食品中に存在する現在のレベルでは安全であるというものである。(訳注:FDAは米国居住者のBPAの暴露量について2014年に推定しており、その推定値は2歳以上の場合は同500ng、2歳未満の場合は同200ngと発表している JETRO 2022年02月22日)。 FDA が継続的に行っている科学的証拠の安全性審査に基づいて、入手可能な情報は、現在承認されている食品の容器や包装における BPA の安全性を引き続き裏付けていいる。

食品と接触する用途における BPA の使用の概要

 BPA はポリカーボネート飲料ボトルの構造成分である。 また、食品が金属表面に直接接触するのを防ぐ金属缶コーティングの成分でもある。 BPA は 1960 年代から食品容器包装(food packaging)に使用されてきた。

 食品が容器包装材料と直接接触している場合と同様、測定可能な少量の容器包装材料が食品中に移行し、食品と一緒に摂取される可能性がある。食品容器包装材料の市販前レビューの一環として、FDA の食品接触規制および食品接触通知プログラムは、容器包装材料からの可能性のある移行を評価し、食品への移行が安全なレベルで発生することを保証する。

 食品包装における BPA の安全な使用に対する関心の高まりにより、科学的関心だけでなく一般の人々の意識も高まった。 その結果、多くの探索的な科学的研究が公的文献に登場した。 これらの研究の中には、食品と接触する材料から食品に移行する可能性がある低レベルの BPA を摂取することの安全性について疑問を提起じているものもある。 これらの疑問に対処するために、国家毒性プログラムは、FDA 国立毒性研究センターと提携して、重要な疑問に答え、BPA に関する不確実性を明確にするための詳細な研究を実施している。

 規制面では、FDA の規制により、添加物の特定の使用が放棄された場合にそれを反映するために食品添加物規制を修正することが FDA に認められています。 FDA は、独自の主導で、または食品添加物の使用が永久的かつ完全に放棄されたことを証明する食品添加物請願に応じて、この措置を講じることができる。 最近、FDA は、ほ乳びん、シッピーカップ、および乳児用調合乳の容器包装に特定の BPA ベースの材料を使用することを規定しないよう、食品添加物規制を修正するよう求める 2 件の請願を認めた。これらの使用は放棄されている。 その結果、FDA は食品添加物規制を修正し、BPA のこれらの使用をもはや規定していない。



化学物質問題市民研究会
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