EHP 2012年4月1日
電子廃棄物の山を移す
ナオミ・ルービック

情報源:Environmental Health Perspectives (EHP) 01 April 2012
Shifting Mountains of Electronic Waste
Naomi Lubick
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.120-a148

訳:安間 武 化学物質問題市民研究会
掲載日:2012年4月22日
このページへのリンク:

 現在では、現地のユーザーがアフリカにおける電子廃棄物の主要な発生源ではあるが、ヨーロッパ、アジア、北アメリカからの古いコンピュータ、テレビ、その他の電子機器の不法輸入がいまだに行なわれている。それが、ベニン、コートジボワール、ガーナ、リベリア、及びナイジェリアにおける電気電子廃棄物(WEEE)/e-wasete についての国連環境計画(UNEP)の新たな報告書『電子廃棄物はアフリカのどこにあるのか?Where Are WEEE in Africa?』の発見である[1]。報告書によれば、これらの輸入電子廃棄物の多くは良い状態であり、ほどほどの寿命を期待でき、多くの社会経済的な便益をもたらすが、しかし残りのものは、しばしば転売され安全ではない状況でリサイクルされる危険なガラクタである。

 1998年の『有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約』[2]の下では、有害な要素を含む電子廃棄物は、国内ではスクラップとして販売できるとはいえ、(訳注:相手国に適切な処理施設と相手国の同意がなければ、)処分の目的であっても発展途上国には輸出してはならない。それにもかかわらず、ヨーロッパで発生する電子廃棄物の約5%に相当する少なくとも毎年250,000トンの電子廃棄物が調査されたこれらアフリカの5か国に不法に入ってくる[1]。『Where Are WEEE?』の共著者であるスイス連邦材料試験研究所 Empa のマシアス・シュループは、西アフリカへの電子廃棄物の輸入のほとんどは、ヨーロッパに効率的なリサイクル施設があるにもかかわらず、ヨーロッパからやってくると述べている。

 これら5か国における電子機器の使用は増加しており、2010年にこれら諸国で報告された電子廃棄物総量の中で50〜85%を占めると見積もられている[1]。同報告書は全ての輸入中古品の30%は機能しないが、その年に輸入された機能しない機器の半分は修理されて現地で販売された。

 電子廃棄物は、しばしば非公認のリサイクル・センターに集められ、そこで再使用か解体かが手で仕分けられ、価値のある金属が取り出され、その後は非効率的で有毒物質を発生させるような状況の下で解体される−とシュループは述べている。子どもたちによる野焼きがしばしば行なわれ、子どもたちは銅のような金属を収集している回収業者から金を得ている。シュループは、これらの解体現場では労働者に水を売る少女たちもまた、低温焼却により発生する潜在的に有毒なガスに曝露している。

 ダイオキシンの放出は、これらの機器のプラスチックケース中に含まれる臭素化難燃剤の焼却により増加している。グレーター・アクラ州におけるケーブルの焼却により発生するダイオキシンは、例えば、ヨーロッパのダイオキシン総排出量の約0.3%に相当すると見積もられている[3]。この数値は小さいように見えるかもしれないが、アクラの狭い範囲でこれだけなのだから、アフリカ大陸全体に及べば膨大な量になるとシュループは述べている。アフリカでの最近の測定は、電子機器の非公認リサイクルに関連する母乳中のポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)難燃剤のレベルが増加していることを示している[4]。

 悪徳業者はバーゼル条約をかいくぐって商売をすることができ、電子廃棄物を再販のため又は寄贈された商品であると表示することにより、使用できないガラクタで商売をしている。ヨーロッパの港では数百万のコンテナーが通過しており、”港湾当局がそれら全てをチェックすることは不可能である”と、産業界、学界、政府、及び非営利組織をメンバーとする複合利害関係者組織の取り組みである電子廃棄物問題を解決するイニシアチブ(StEP)の事務局長ルーディゲル・クヘールは述べている。業者が単なるガラクタを再利用品と称して輸出することを許す抜け穴があると彼は述べているが、UNEP報告書の中の諸国では、中古販売と修理ビジネスが繁盛しており、環境的に適切であることを望んでいる。

画像拡大 
ガーナー、アクラのアブグロッシー金属スクラップ市場と野焼き現場

 左側の画像:モニターが川を横切る飛び石として使用されている。遠くの廃棄物の山は埋立地に投棄された廃棄物であり、人々は銅を回収するためにケーブルを燃やしている。人々は金属やその他の材料を回収するために非公認のリサイクル現場であらゆる種類の電子機器を焼却し、その過程で有毒物質を放出し、大量の価値ある材料を失っている。(All images: Empa)

 ニューヨーク州のロチェスター技術研究所のガリサノ持続可能性研究所教授エリック・ウイリアムズは、アフリカにおけるリサイクルと世界市場との分断が、それらの価値ある材料のヨーロッパでの販売を妨げていることを懸念している。

 ”アフリカの回収業者らは恐らく、プリント基板をヨーロッパの金属精錬業者に売れば、自分たちで基板をリサイクルするより多くの金を得ることができるはずである”と彼は述べている。彼等が基板をヨーロッパに輸出しない理由は恐らく、彼等は長期的な契約と公式の輸出協定を結ぶことができるひとつの事業として商売を始めることができないからである。もしこれができるようになれば、プリント基板のリサイクルは、少なくともアフリカで行なうことはなくなるであろう”。

 基盤整備コスト、保守、及び教育を受けた労働力を含む人材の欠如のために、リサイクル技術を大規模に導入することは難しいであろうとウイリアムズ付け加えた。Empa のような団体は、”非公認のリサイクル業者がやっている実に悪いことを指摘して改善することはできるが、良好な標準を確立するのは難しい。プリント基板に対するローテクで環境に適した効率的な解決方法はない”と、彼は述べている。

 クヘール(StEP事務局長)は、電子廃棄物の一般的な貿易禁止では問題解決にならないと述べている。そうではなくて、第二、第三の中古利用を通じていくつかの機器の寿命を延ばすことが、さもなければ、資源大量消費型の製造プロセスから生じるであろう大きな環境負荷(environmental footprints)を削減するとになると彼は述べている。さらに彼は、完全禁止はもっと悪い代替のための市場を増大させると述べている。新品であっても寿命の短い低品質の機器は重大な環境的影響をもたらすと述べている。

訳者コメント:StEP事務局長の”輸出完全禁止(total ban)否定の考えは、途上国を差別し、廃棄物処理を途上国に押し付ける考え方であり、容認できない。第二、第三の中古利用は途上国に押し付けず、先進国が自国で実施すべきである。電子廃棄物からプリント基板を取り出す作業もわざわざ途上国にやらせずに先進国が自国内で実施すべきである。後段で述べられているとおり、途上国自身が発生させている電子廃棄物が急増してあふれている状況であり、自身の廃棄物処理の問題を解決することすら困難であるのに、先進国の電子廃棄物を受け入れる余地はない。先進国は自国の廃棄物は自国で処理するという国内処理原則を徹底すべきである。資源の有効利用のために途上国に電子廃棄物を輸出するという論理はまやかしである。

 非営利団体バーゼル・アクション・ネットワークの共同設立者であるジム・パケットは、貿易禁止の意義に関して全く反対の意見であり、アフリカ諸国はどのような電子廃棄物につてもその受け入れについて法的に阻止する壁を確立すべきであると考えている。彼はまた、製造者は寿命が尽きた製品に対して責任を持たなければならないと述べている。デルやヒューレット・パッカードのようないくつかの製造者等、アフリカで電子廃棄物を管理するための私的プログラム開発を支援している。”製造者は向上(step up)しなくてはならない”とし、ある製造者等は”そのように動き始めている”と彼は述べている。

 国内での電子機器ユーザーが増えているのはアフリカだけではない。中国やペルーにおける研究が、新品のあるいは中古の機器を購入することができる階層が増えているという同様な傾向を報告している。2016年から2018年の間に、開発途上国の電子廃棄物の生成は先進国での生成を追い越すであろうとウィリアムズは述べている[5]。しかし、ペルーの場合には、少なくともある1社は、廃棄されたプリント基板(それはしばしばアメリカやその他の国で製造されている)を買い、プリント基板の有害な構成要素を適切に処理できる持つ世界で5社しかない会社の1社であるドイツの先進的装置を持つアウルビス社(Aurubis)る[6]に売って利益を得ている。

参照
[1] The Basel Convention. Where Are WEEE in Africa? Findings from the Basel Convention E-waste Africa Programme. Chatelaine, Switzerland:The Basel Convention, United Nations Environment Programme (2011). Available: http://www.basel.int/Portals/4/download.aspx?d=UNEP-CHW-EWASTE-PUB-WeeAfricaReport.English.pdf [accessed 7 Mar 2012].

2. The Basel Convention. Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal. Chatelaine, Switzerland:The Basel Convention, United Nations Environment Programme (Jul 2011). Available: http://www.basel.int/Portals/4/Basel%20Convention/docs/text/BaselConventionText-e.pdf [accessed 7 Mar 2012].

3. Amoyaw-Osei Y, et al. Ghana e-Waste Country Assessment. SBC e-Waste Africa Project. Chatelaine, Switzerland:The Basel Convention, United Nations Environment Programme (Mar 2011). Available: http://www.ewasteguide.info/files/Amoyaw-Osei_2011_GreenAd-Empa.pdf [accessed 7 Mar 2012].

4. Asante KA, et al. Human exposure to PCBs, PBDEs and HBCDs in Ghana: temporal variation, sources of exposure and estimation of daily intakes by infants. Environ Intl 37(5):921?928. 2011. http://dx.doi.org/10.1016/j.envint.2011.03.011

5. Yu J, et al. Forecasting global generation of obsolete personal computers. Environ Sci Technol 44(9):3232?3237. 2010. http://dx.doi.org/10.1021/es903350q

6. Aurubis. Recycling [website]. Hamburg, Germany:The Aurubis Group. Available: http://www.aurubis.com/en/our-business/raw-materials/recycling/ [accessed 7 Mar 2012].


訳注:ガーナにおける電子廃棄物処理現場


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る