第一回3Rイニシアティブ会合議長総括に対する
BAN・GAIAの分析・提言

2005年7月1日
Basel Action Network (BAN)
発行者:高宮由佳 (Yuka Takamiya)

本稿はBAN/GAIA共同作成の3Rイニシアティブ会合議長総括についての下記報告書を
発行者が日本語で要約したものである。
Report on the First Ministerial Conference of the 3R Initiative with Commentary
on the Chair’s Summary Report

参考:環境省発行:3Rイニシアティブ閣僚会合(2005 年4 月28 日〜30 日)議長総括(仮訳)

Introduction

 BANが3Rイニシアティブ閣僚会合に参加する以前に、3Rイニシアティブに関して募らせていた3つの懸念はほとんど解消されなかった。

3つの懸念とは・・・
1.3Rイニシアティブの政策や会合の計画、準備、決定過程へのNGOの関与の不足
2.3Rのうちでも3つ目のR、リサイクルに対する過度な重点/本来は最初のR、リデュースがまず優先されるべき
3.議題の一つであるリサイクルや再生目的の「物品」「資源」の国際流通に対する障壁の低減は、バーゼル条約ならびにその修正条項への遵守を促す国際社会に背く行為

 各国の廃棄物削減と自国内処理の原則が確約されておらず、3Rイニシアティブを中心となって推進するアメリカや日本が、廃棄物が自由に輸出入されていたバーゼル条約締結以前の状態に時計の針を戻そうとしているのではないかという恐れを抱いている。

Issue I
  • 『もったいない』に基づく廃棄物政策の落とし穴
     「もったいない」という言葉は「廃棄物」と「物品」との区別を曖昧にし、特に有害廃棄物の場合に、有害廃棄物を「もったいない」からと「物品」や「資源」と解釈して再利用をしてしまうと、有害物質による環境や人間の健康に対する汚染を広げてしまう。また、有害物質を生産段階で取り除くなどの、生産者が上流で廃棄物問題解決に取り組むためのインセンティブが生まれない。有害な焼却灰のセメントなどへの再利用はこの典型的な例。環境汚染と人間の健康被害を引き起こす有害廃棄物の、物品としての国際流通に歯止めをかけるためにバーゼル条約が締結された。廃棄物問題の複雑性、多様性を隠す「もったいない」を謳い文句に政策を広めると、バーゼル条約の規則や精神に逆らうばかりか、先進国から発展途上国への廃棄物処理に対する責任の転嫁が一層進んでしまうことになる。

  • パラグラフ5−イニシアティブのゴールと議論の焦点との不一致

  • 途上国への責任転嫁
     3Rイニシアティブの議論が、健全な廃棄物の国際流通を図るための、発展途上国での廃棄物処理・リサイクル技術の発展に焦点を当てており、現在の世界が直面している深刻なゴミ問題の原因は発展途上国にあるという間違った印象を与える。本来、問題は先進国の過剰生産、過剰消費、過剰廃棄の文化に起因するものであり、3Rイニシアティブは議論の焦点を先進国の責任に当てなおすべきである。

  • 下流の問題・解決法(3つ目のR・リサイクル)への焦点の固着
    インドネシアが会合で Re-think と Recover を含む5Rsを提案したのは注目に値する。有害物質の生産サイクルからの除去、拡大生産者責任、エコデザインなどの上流段階での課題や対策に焦点を当てた議論がされることが必要。

  • 4つ目のR、Responsibility(先進国の責任の確約)とRights(途上国やマイノリティーの人権への配慮)の欠如
    廃棄物問題の多くはその発端は先進国にあり、先進国や生産者(多くが先進国の製造業企業)の「責任」が大きいことを明確にすることが大事である。
    また、女性や子供、労働者や先住民族など、政治的、経済的に弱い立場にあるグループに、健康な環境で暮らし、安全な労働環境が保障される「権利」があることを念頭において議論が進められるべきである。
Issue II
  • パラグラフ10・13 −バーゼル条約・修正条項と廃棄物国際循環に対する障壁の低減との矛盾
     アメリカと日本が「物品」「資源」を「廃棄物」と定義するバーゼル条約に対抗し続けているのは周知の事実であり、3Rイニシアティブによってバーゼル条約への遵守を免れようとしていることが明らかである。中国をはじめとする発展途上国はこの先進国の意図を十分認識しており、会合でバーゼル条約の遵守、廃棄物の国際循環に対する障壁の低減に深刻な懸念を示した。バーゼル条約は、経済的状況、性別、宗教などを理由に廃棄物に対する責任や環境汚染を不公平に押し付けてはならないと明言している。例えイニシアティブがバーゼル条約に遵守することを原則としても、いかなる廃棄物の国際循環に対する障壁の低減は、バーゼル条約の理念や決定事項とは相容れないものである。

  • パラグラフ12 −WTOドーハマンデートの環境関連製品とサービスリストの落とし穴
     WTOドーハマンデートのリスト作成は必ずしも、環境と貿易両者にとってのWin-Winの機会になるとは限らない。このリストは、環境汚染や環境破壊を引き起こす可能性のある技術や活動と、そうでないものとの明確な区別をする基準に基づいていないので、一度、環境破壊的な製品やサービスが含まれてしまうとそれが市場に流通し、より自然環境保護に貢献できる製品やサービスを提供するインセンティブを妨げてしまう。

  • パラグラフ14 −Issue IIに関して、発展途上国と先進国との意見の食い違いが明らかである。

  • パラグラフ15 −「廃棄物」の定義に関する議論は必ず、バーゼル条約のもとで行われるべきである。

  • パラグラフ16 −有害廃棄物の越境移動が許可されるのは、受入国におけるESMの有無のみならず、バーゼル条約の規定への遵守が条件であるが、そのことがここでは明言がされていない。バーゼル条約では、ESMを実現するためには、技術の発展だけではなく、その他すべての実際的手段をとる必要があると規定している。実際的手段とは、労働者の安全と健康を保障する法律や廃棄物に含まれる有害物質に関する情報の提供、発言の自由、など、経済的、社会的、法律的側面での整備を指す。
Issue III
  • 先進国と発展途上国の協力が必要な分野は、廃棄物の発生抑制と有害物質の除去である。パラグラフ22のように、発展途上国における問題や解決に強調を置くことで、本来の問題の所在とより必要な解決策、すなわち先進国における廃棄物発生抑制と有害物質の生産過程からの除去をいかに達成するかという緊急の課題から目を背けることになる。

  • パラグラフ24 −貧困撲滅と3Rイニシアティブ
    貧困撲滅のための職の創出や経済発展が、低賃金労働者の搾取や環境規制の緩い途上国への有害廃棄物の輸出を正当化するものとして議論されてはならない。イニシアティブには、搾取の永続に加担するのではなく、過去に先進国で工業発展に伴って起こった公害などの惨事の経験を繰り返さないようにする努力を求める。

  • パラグラフ26 −バーゼル条約は3Rイニシアティブを推進するためのひとつの手段というのは間違いである。
Issue IV

  • パラグラフ30 −パートナーシップに基づく下流のESMの促進はすでにバーゼル条約の下で行われている。イニシアティブはこの努力を別の場所で無駄に繰り返すのではなく、支援することが求められる。また、廃棄物の発生抑制と有害物質の除去のために生産者(企業)が係わるパートナーシップ作りが第一に必要であることを改めて強調したい。

  • パラグラフ37 −NGO・市民の役割、政府や企業とのパートナーシップの必要性
     ニシアティブがNGOの政策提言の役割を認識するのであれば、イニシアティブの政策考案や会合実行準備のより早い段階からのNGOへの参画の呼びかけが必要ではなかったか。

     NGOは、環境問題に対する深い知識や政策提言活動での経験を生かして、政府や企業とは違う視点から、イニシアティブをより的確でバランスの取れた環境政策として成功させることに貢献できる。

     また、多くの議論やゴールが発展途上国に係わるものであるのならば、発展途上国からのNGOが議論の場へ招待されるべきである。NGOには社会の弱者・少数派(発展途上国・先住民族、貧困層、労働階級、女性・子供など)の状況や意見を政策決定過程に汲み上げる役割がある。世界の廃棄物問題に取り組む場合はそういう人々の声が非常に重要である。なぜなら、例えば有害廃棄物の不法越境移動の例を見ても分かるように、彼らが最も深刻で不公平にその被害を受けているから。

     NGOと政府、NGOと企業との間のパートナーシップ構築について言及がない。確かにNGOや市民団体には、国際的にネットーワークを築き有害廃棄物の越境移動を監視したり、優良事例や情報の共有を図ったりする能力があるが、そういった能力を十分に発揮し、有効活用するためには、イニシアティブの政策決定過程に十分に参画し、政策提言する機会が与えられなければならない。
Issue V
  • パラグラフ39・40
     焼却炉がリサイクル技術として推進する国々があるが、焼却は「よりクリーンな技術」ではない。廃棄物を焼却すればダイオキシンなど有害物質が放出され、環境が汚染される。3Rイニシアティブは「よりクリーンな技術」の定義をより厳格に追及するべきである。

     エコデザインや生産過程・上流段階におけるクリーン技術などの発展を狙って、政府、生産者、消費者やリサイクル業者などの間で情報共有を図ることを重要とみなしている点を評価する。

  • ライフサイクルアセスメントも良い。

  • 有害なテクノロジーと環境を汚染・破壊しないテクノロジーの明確な区別が必要


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る