BAN 有害廃棄物ニュース 2006年5月14日
米海軍所有の廃船のスクラップに選択肢はない
カリフォルニア州ハンターズ・ポイントで解体すること

トーマス・ピール(Contra Costa Times)

情報源: Toxic Trade News / 14 May 2006
Few options for scrapping obsolete ships
by Thomas Peele, Contra Costa Times


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年5月21日


 廃船を処理するために容易な又は安い方法はない。しかし、それを請け負う会社は数百万ドル(数億円)の利益を得ることができる。

 回収鉄材の値段が安い時には、米海事局(U.S. Maritime Administration )が政府所有の廃船を売ろうしても買い手が見つからなかった。現在は、海外の鉄材の需要が大きく、トン当たりの価格も以前の250ドル(約28,000円)から500ドル(約56,000円)に上昇しているので、米海事局は会社に数百万ドル(数億円)を払って船舶の解体とリサイクルを行わせている。

 廃船となる政府所有の船舶はそのサイズで、第二次世界大戦時の小さなビクトリー号の7,607総トンから、少なくとも5隻の37,000総トン以上の大きな船がある。船舶リサイクル専門家は、ビクトリー号クラスのスクラップで、概略370万ドル(約4億円)の利益を生み出すと見積もっている(訳注1)。

訳注1(参考):分りやすくするために総トン数が全て鉄材であるとした場合の回収される鉄材の価格:
500ドル/トンx7,600トン=380万ドル(約4億円)

 政府の船舶処理計画のマネージャーは廃船を売るより、リサイクルするために金を使うよう主張している。市場価格が上がっているのだから是非そのように移行すきであるとカート J. ミチャンズクは述べた。今なら、危険なスクラップの仕事を引き受ける会社を見つけることができると彼は述べた。

 アメリカの西海岸には現在稼動中の船舶解体場はなく、またアメリカは有害物質を含む船を処分するのために他国に輸出することはできない。スーザン湾(訳注2)の米海事局の船舶にとっての唯一の選択肢として、テキサス海岸のスクラップ現場が残っている。

訳注2:Suisun Bay:サンフランシスコ湾奥にある米軍港

 前海事局長ジョン・ジャミアンは、議会、EPA、及び環境活動家らの反対にもかかわらず、海外に解体場所を探す選択肢を求めたいと述べた。
 ”私は、そうすべきだと言っている訳ではないが、しかしそれはぜひ探すべき価値がある。国内では処理能力の問題がある。無理な競争は市場を不安定にする”−とジャミアンは述べた。

 海事局はかつて海外に廃船13隻を輸出しようとして裁判になった。
 2003年、海事局はバージニア艦隊の13隻をイギリス、ティースサイドのスクラップ業者に向けて出港させた。。シエラクラブとシアトルを拠点とするバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)はそれらの船ををイギリスでスクラップとすることやめさせるために裁判に訴えた(訳注3)。

訳注3:
BAN プレス・リリース 2003年11月3日/イギリス ”汚染廃船の輸出取引は違法”判決 米環境団体はブッシュ政権に幽霊船を安全に米に引き取り、リサイクルするよう要求

 ”我々は、このケースが今後の廃船輸出の扉を開くことを非常に恐れた。アメリカは有害物質を輸出することはできない。海事局はこの点についてひどく誤解している”−とバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のリチャード・ギターレッズは述べた。

 環境保護主義者らは最近、オレゴン州で海から海岸に船を引き上げ、海岸で船を切断・解体してリサイクルを行うというバージニアの業者の提案を放棄させた。オレゴン州知事テッド・クロンゴスキーは2月に、ドライ・ドック(訳注:船の建造や修理などを行う施設)での解体のみが許可されるだろうと述べた。

 湾岸地域にはふたつの使用していないドラ・ドックがある。ひとつはカリフォルニア州バレーオ市のメアー島にあり、もうひとつは、2000年と2001年に海軍が3隻のフリゲート艦を解体したサンフランシスコの元ハンターズ・ポイント海軍造船所(Hunters Point Naval Shipyard)である(訳注4)。

訳注4:
 かつての海軍造船所。現在も海軍所有の敷地内にスーパーファン ド・サイトがある。スーパーファンド・サイトは全米の数々の廃棄物投棄場でも特に汚染がひどく、浄化の必要性が最も高いとされるサイトで全米で1234ヶ所指定されている。

 ”我々は、最低の賃金しか払わないテキサスの業者にはかなわない。ブラウンズビル(カリフォルニア)の連中は我々と競争して安い賃金でコストを吸収する”−と船舶解体産業で働いている技師ワーナー・ホイトは述べた。

 海事局は廃船をリサイクルするためにリサイクル会社に金を払うが、スクラップは会社の所有となる。鋼鉄、ブロンズ、及びアルミニウムはリサイクルされる。しかし数千トンのアスベストやPCBs、鉛などの有害物質を処分しなくてはならない。

 現在、鋼材の価格が高いので、リサイクル会社は大型船からは、労賃と環境にかかる出費を差し引いても、数百万ドル(数億円)という”十分な利益”があがるとホイトは見積もっている。

 フィラデルフィアの船舶リサイクリング協会のレイモンド J. ロベットの分析によれば、約7,700総トンの船のリサイクリングで概略370万ドル(約4億円)の利益を生み出す。このトン数は海事局がテキサス州に直ぐに送る予定のビクトリー号クラスの戦艦4隻のそれぞれのトン数に相当する。海事局はスクラップ会社に4隻分として330万ドル(約3.6億円)支払う計画である。

 リサイクル物質の値の合計は概略2,440万ドル(約28億円)となる。ロベットの分析に基づけば、利益1,480万ドル(約17億円)に対して出費は合計960万ドル(約11億円)である。

 かつてサンフランシスコのハンターズ・ポイントで船は解体されていた。
 そこで船舶が解体されていたのは昔のことであるが、それでも西海岸で最大のドライ・ドックである。現在は住居はそこにはないけれど−と元基地市民諮問委員会のメンバーで、サンフランシスコの環境グループである”アーク・エコロジー”のディレクターであるソール・ブルームは述べた。

 やはり、ハンターズ・ポイントが、スーザン湾のフリーゲート艦を処分するのに最も安全であるとロベットは述べた。

 それらの船はサンフランシスコ湾を横切ってハンターズ・ポイントに来るしかない。それらの船の鋼材は、アジアに輸出されるコンテナー船に直接、積み込まれるべきである。カリフォルニア州は環境を守るための厳格なルールを持っている。



訳注5:参考資料
http://www5e.biglobe.ne.jp/~vandy-1/index.htm
 U.S. Warship (日本語ウェブサイト):創設時から現代までのアメリカ陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊の全艦船を網羅する(建造途中で中止になったもの、メーカーに発注したが建造前にキャンセルしたもの、計画のみに終わったもの、計画中のものも含む)データベース・サイト



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