BAN からのメッセージ
3Rイニシアティブにとってのバーゼル条約の意義
廃棄物貿易を促進するアメリカの孤立

2006年4月24日
高宮由佳(バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN) )
http://www.ban.org
(本稿は化学物質問題市民研究会ピコ通信92号(2006年4月24日発行)に掲載されたものです)
化学物質問題市民研究会 2006年4月25日
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

 2006年3月6日〜8日 東京で開催された3Rイニシアティブ高級事務レベル会合を傍聴したので、この会議及び3Rイニシアティブについての意見を述べます。なお、これは高宮個人の意見であり、BANの公式見解ではありません。
 注:(3R:Reduce(廃棄物発生の削減)、Re-use(資源の再使用)、Recycle(資源の再利用))


 2006年3月、東京で3Rイニシアティブの第2回目の会合が開催され、G8各国と途上国を含む世界の20か国、欧州委員会、並びに7国際機関が、それぞれの3Rに関する取組の進展や、直面する課題について活発な議論を繰り広げました。

 残念だったのは、3Rイニシアティブの政策決定過程や、会合の運営過程についての情報公開が不十分で透明性に欠けていること、また、議論のテーブルからNGOが一切排除されていたことです。分科会では3RイニシアティブにおいてNGOが果たす役割が議題に含まれていたにもかかわらず、NGOが討議に招待されなかった理由は、3Rイニシアティブの内容が国家間の外交戦略に触れるものであり、途上国の人権や環境正義を最優先するNGOの存在は一部の参加者の反発を招いたからのようです。

 会議で浮き彫りになったのは、先進国で唯一バーゼル条約の批准をしていない米国の孤立した立場でした。まず、他の国はどこも環境省の廃棄物担当者などが代表団を構成していた一方で、米国の代表団は商務省(Department of Commerce)からの代表で占められており、米国環境保護庁(EPA)からは1人も派遣されていなかったのです。このことは、米国が3Rイニシアティブを廃棄物という地球環境問題に対応するための政策としてではなく、再生産のための物品の国際貿易の拡大戦略として捉えていることを顕著に表していると思います。

 3Rイニシアティブは主要目的のひとつに「3R に関連した物品や物質、産品の国際的な流通に対する障壁の低減」を挙げていますが、3Rの実施と促進を国際的観点から検討する第二分科会で、この目的そのものに根本的な疑問を呈する声が上がりました。米国が3R関連物品の国際的流通に対する「障壁」の排除の必要性をしつこく主張する一方で、ヨーロッパ各国やアラブ、アジア、中南米の発展途上国は3R関連物品の明確な定義と、バーゼル条約の規制強化が必要であると繰り返し強調しました。

 そもそも「3R関連物品」とは実際に何を指すのか、という問いかけは重要です。3Rイニシアティブ関連の資料の中では、「3R関連物品」は「再生利用(リサイクル)・再生産のための物品・原料、及び再生利用・再生産された製品」と定義されていますが、「リサイクルのための物品・原料」とはつまり「廃棄物」であり、その中には国境を越える移動は最低限に抑えられるべき「有害廃棄物」が含まれます。ですから、ヨーロッパ各国は、3R関連物品の貿易はバーゼル条約の規制や義務の対象になりうるので、3Rイニシアティブはバーゼル条約の枠組みのもとで慎重に検討されるべきだと訴えたのです。

 議長総括にも記述されているように、途上国からは『再製造物品等について、これらの物品は一度製品としての寿命を終えていることから、廃棄物として最終処分すべきであり、多くの途上国では、環境上適正な方法でこうした処分を行うための能力・設備が非常に限られているとの強い主張』がありました。

 世界の160以上の国がバーセル条約を批准しており、有害廃棄物の国境を越える移動によって非人道的に貧しい者を搾取することを防ぐ努力が必要であると国際社会で同意されています。しかし、バーゼル条約が誕生してから15年以上経つ今でも、有害廃棄物は依然として、形を変えて、法律の穴を抜けながら、先進国から途上国へ流れています。昨年のBANの調査でも、アメリカやヨーロッパからアフリカ・ナイジェリアへ、有害物質を含む廃電子機器が「中古品」と称して輸出されながら、実際には売り物にはならないため、現地で不適正に放棄や処理され、環境汚染と健康被害を引き起こしている現実が明らかになりました。

 米国は世界の先進国の中で唯一、バーゼル条約を批准していない国ですが、バーゼル条約は貿易に対する「障壁」ではなく、貿易が人道的に行われることを保証するための「規制」です。有害廃棄物の貿易によって経済的・社会的弱者が搾取されるのを防止し、監視するための市場原理におけるルールです。

 国際社会に住む誰しもが平等に健康的に生きる権利が与えられるよう、各国、特に先進国は廃棄物を適正に処理し、また、有害廃棄物を発生させない努力をする責任があります。この責任を回避して、廃棄物を「自由貿易」を通して途上国に押し付けることがないよう、バーゼル条約の理念と決定事項の遵守を各国に呼びかけます。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る