●アイザックxシャルディナ学園版●
ロマンチック方向です。時期的には11月で。
名前 |
元キャラ |
学年 |
備考 |
相沢 信一 |
アイザック |
S高校1年生 |
やはり八百屋の息子 柔道部+剣道部 |
桜井 麻琴 |
シャルディナ |
匡司学院1年生 |
名家のお嬢様 ヴァイオリンの名手 |
至高 九朗 |
クロード |
紺司高校3年生 |
いいとこのボンボン |
成瀬 進 |
ナルセス |
S高校2年生 |
ラーメン屋の息子 |
西井 愛 |
アニー |
S高校2年生 |
成瀬の幼なじみ バスケ部
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「光の中に」
パチパチパチ…!
演奏が終了し、会場を拍手喝采が割れる程に覆う。
高校生ながらも時折ゲスト演奏者として呼ばれる私 桜井麻琴は有名ヴァイオリニストの弟子として少しだけ世間に名前を知られていました。
コンサート終了後、控え室を後にして一人の少年を私は待つ。
チケットを渡した、同い年の男の子の登場を今か今かと…。
知り合ってから初めて、彼をコンサートに招待することができた、
私にとっては特別な夜でした。
舞台上の自分を、『彼』はどう思っただろう。
演奏はどうだったかな…?
オーケストラのコンサート、初めてだと話していた彼の感想が気になって、期待と不安で胸がドキドキと騒がしい。
関係者出口で一人彼を待っていると、常連の彼が今夜も現れ、私を困らせてくれた。
「麻琴!今日の演奏も最高だったよ!」
タキシードに身を包み、赤い薔薇の花束を両腕に抱えた男の子。
彼は満面の笑顔で私の視界を占領し、大げさな動作で食事に誘う。
「麻琴、この後時間ある?すごく素敵なディナーの食べられる高級レストランを君のために予約してあるんだ!車も用意してあるよ!是非行こうよ!」
「ごめんね、九朗くん…。あの…、今日は他に約束があるの…」
いつも応援してくれて、たくさん私を誘ってくれる友人。それは嬉しかったのだけれど、私は彼の好意に応えられないがためにいつも戸惑いを隠せなかった。
「約束…?約束って何?でも食事くらい…」
「えっと…。食事もね、その人としようと思ってるから…。ごめんね…」
「いたいた!お〜いっ、麻琴〜!」
ホールの方から待っていた声が聞こえて、喜びに私は振り向いた。
陽気に駆け寄ってくる姿を見つけ、私は息を飲む。
普段印象に残っている学生服姿とは違う、新鮮な彼の姿に思わず驚く口元を隠していた。
「あ、相沢君…!」
「良かった!良かったよコンサート!」
バタバタと落ち着かずに走って来た彼は、グレイのスーツに藍色のネクタイ姿で、興奮して私の両手を掴み上下に揺さぶる。すでに私は真っ赤になっていて恥ずかしかった。
「探したよ、何処に行けばいいのか分からなかったからさ。 あ、これさ、何着てくればいいのか分からなかったから、兄貴の借りてきちゃったよ。だからでかいんだけど」(笑)
走ったことで暑いのか、ネクタイを緩めながら笑う彼に、赤くなった私は俯いてしまうばかりで、正視することもできない。
「………。約束って、まさか、こんな奴とじゃないよね?」
「ん?誰だ、知り合いか?」
横にいた九朗くんは、それはもう、ジロジロと現れた少年のことを上から下まで値踏みして睨んでいた。
「あ、…。あのね、こちらお隣の紺司高校の…、九朗くん。いつも演奏を聴きに来てくれてるの。お父様同士がお友達なの」
「へー。俺は相沢信一。S高校の一年。麻琴とはひょんな事で知り合ったって言うか…。友達だよ」
「ふーん。なんだ。しがない公立高校の…。スーツも安物だし、僕のブランド物のタキシードに比べたら月とスッポンだよね」
「は…?」
「それになに……?手ぶらってどういう事?麻琴に対して失礼だよ。はい、麻琴♪」
九朗くんは大きな薔薇の花束を私に自慢げに渡し、相沢君に「ふふん」勝ち誇った笑みを浮かべる。
「………」
「あの、…いいのっ!気にしないでね相沢君!行こっ!」
不穏な空気が漂うのに耐えかねて、その場からとにかく逃げようとすると、尚も九朗くんは誘ってきた。
「待ってよ!そんな奴ほっといて僕と…!」
けれど、私は半ば強引に断って彼に手を振った。
大きな花束を迎えの運転手に預けると、晴れて自由を感じた私はほっと胸を撫で下ろしていた。
「ではお帰りの際に呼び出し下さいませ。お嬢さま」
「はい。少しだけ…。お願いします」
時刻は21時近く、初冬の夜は少し肌寒い中、黒い衣装に上着を羽織った私は彼の元へと駆けて行く。
会場前の広場には帰宅途中の観客が行き交う。
時計台の下の彼の元に戻ると、思い切って私は切り出した。
「あ、あの…。お腹すいてない…?良かったら何処かで食べて行かない…」
もはやそれは、私にとっては一世一代の勇気にも似ていた。
多分初めて、デートらしいことに誘う。
二人きりでお店に入ったことなんてないし…。
慣れないスーツ姿にマフラーの彼は、私の誘いにそれはまずそうな顔を一瞬見せて、私は世界が真っ暗になりかけた。
即答しない相手に悲しみが襲い、自分一人の感情だったことに唇が微かに震えてしまう。
「えっと…。いいんだけど…。俺あんまり高いところ行けないぞ…?」
真剣にバツが悪そうに口ごもった、理由が分かって、私は今度は安堵に泣きそうになった。
「手ぶらだったしさ…。ほんとごめん。ほんっと気が回らなくてさ…。という事で飯ぐらいは奢りたいんだけど、そんなに金持ってないし……」
顔の前でパンと両手を合わせて、苦い顔で謝る少年。
「…いいよ、そんなの…」
月明かりの下、私はほっと吐息のように囁いた。
「言ったじゃない。来てくれただけで嬉しいって…。ファミレスとか…何処でもいいよ。お金も気にしないで」
私はずっと、気さくな等身大の彼が大好きだった。
胸がいっぱいになって、柔らかく微笑む。
学校も違う、彼と偶然街角で知り合った日から、私は彼のことばかり考えるようになっていた。
音楽に行き詰まり、自信を失くしていた私を勇気付けてくれた男の子の事を。
真っ黒いまっすぐな髪や、部活やアルバイト、家の手伝いまでも一生懸命な彼にとても心惹かれた。
恋心募った数ヶ月、偶然会うことやほんの少し擦れ違うだけで喜んでいた、ささやかな関係。それだけでも嬉しかったけれど、それだけじゃ満足できないことも本心だったから…。
変わりたくて、変えたくて、今日の私は少しだけ積極的に接する決意を固めていた。
「ファミレスでいいなら任せろー!デザートも食べていいぞ。こないだバイト代入ったからな。じゃあ寒いから行こうぜ」
「うんっ」
先導する彼に着いて行く、足音は軽く弾んで夜道に消えてゆく。
|
** |
「え〜っと。この秋の野菜ふんだんハンバーグセット、ご飯味噌汁、ご飯大盛り。あと大根サラダとドリンクバー二つ」
「和風スパゲティでお願いします」
「はい。かしこまりました。メニューお下げいたします」
会場から少し歩き、駅に着く途中にあるファミリーレストランでオーダーをすませる。土曜日の夜で店内は賑わい、家族連れやカップルが楽しそうに談笑していた。
ドリンクバーに向かいながら、相沢君は改めて私を眺めながら忠告してくれる。
「麻琴って少食なのな。でも食べないと体力つかないぞ」
「え…?普通だよ…」
時々説教臭い彼は、またいつものようにお父さんのように演説を始めようとする。
その横顔をじーっと見つめている男の子の姿に私は気がついた。
ラフなパーカーにジーンズの腰履き、頭髪は少し色を付けられていた。
「あれ、相沢じゃん〜!?相沢だ!すっげーなんでスーツ?!」
「げ!」
コーラのボタンを押した彼、その後ろから傑作といわんばかりの笑い声がし、振り向くと指差して笑う少年に相沢君はのけぞった。
「な、成瀬…」
青ざめた相沢君は何気なく背中に私を隠すように動いていた。私も恥ずかしいので察して隠れるけれど、陽気な少年はカケラの遠慮もなしに首を突き出してきた。
「ん?………うおっ!激美少女!!な、なんでこんな美…少女と一緒にお食事してるんだよ!聞いてねーぞ」
「言ってないし…」
「こんばんはっ!俺、成瀬進、通称成ちゃん♪相沢君の商店街仲間でーす」
「あ、桜井麻琴です…」
「おいおい相沢君もスミにおけないねぇ〜。(うりうり)なんだよめちゃくちゃ気合入ってるし。一体いつの間に彼女できたんだよー!このこのっ」
「……。彼女じゃないから」
「怒るなよ〜。あ、そっか。今日が決め手なんだな。頑張れ少年!何か困ったらこの成ちゃんが相談に乗るぞ☆」
ひやかされて徐々に不機嫌になってゆく彼に、後ろで戸惑って往生していた。
快活な少女が成瀬君の後頭部をバシリと叩く。
「うるさい!迷惑でしょ!」
「いてっ!」
ボーイッシュな服装の少女はむっとして、成瀬君に一撃くれるとこちらに自分の不手際のように頭を下げた。
「すみませんね。うるさい奴で。ほらおかわりしたらさっさと帰る!」
「なんでだよ〜愛ちゃん。せっかく相沢に彼女ができそうなのに」
「おせっかいなのよ!」
「先輩として俺が恋のノウハウをね」
「人は人なの!」
引きずられながらも彼は終始賑やかだった。
「ったく。成瀬の奴は…」
席に戻って、相沢君は不服そうにコーラにストローをさす。
「ごめんね。…彼女とか言われちゃって…。困るよね…?」
ある意味探るような言葉に、彼の返事は無言だった。
「あの二人は恋人同士なの?すごく仲良さそう」
二人の席を横目に見ると、羨ましいぐらいに楽しそうに言い争っているのが見える。ケンカするほど仲がいい、そんな印象の二人組。
「幼なじみって奴で…。付き合い始めたのは最近かな」
「そっか…。いいなぁ…」
正直に、二人のような関係に憧れてもれた言葉に、どこか相沢君は物憂げに受け止めたように見えた。
料理が運ばれてきて、理由は分からないままに話題は流れてゆく。
コンサートの感想や、それぞれの最近のこと。
本当に聞きたいことは一言も言えないまま…。
楽しい夕食の時間はあっと言う間に過ぎていってしまい、私達はレストランを後にした。
|
** |
携帯で迎えの車を呼び、車が着くまでの時間、待ち合わせのために会場にまで戻って二人で無人となった広場のベンチに腰を下ろす。
夜の都会のネオンがきらきらと星のように輝いていた。
地上に比べれば弱いけれど、空にもささやかに星の煌めきが雲間に覗ける。
冬が近いせいなのか、お互いの横顔もどこかしんみりと憂いを含んでいると感じた。二人で居られれば短い時間でも嬉しいけれど、でも、今日が終わったら次いつ会えるのか分からない。
冷たくなる手を擦りながら、積極性を決意していた私はまた勇気を振り絞った。
「相沢君って…、クリスマスの予定決まってる?」
「…。商店街のケーキ売りかな…。毎年やってるし」
「ずっと…?少しだけでもいいから、時間取って会えないかな…」
半分ぐらい、それはすでに告白のようで。私の硬直した身体は全身で強く鼓動していた。
「あのね、一緒に、駅前のツリー、見たいな…って…」
前を見たままの私の横顔を、真摯な瞳で彼が確認するのを知る。なので私の身体はちぢこまって震えた。
「いいよ。一日くらい休みにしても」
「ほんとっ!?」
跳ね上がって喜んでしまった私に、目の合った彼は呆気に取られて 、私が赤面すると、軽く目を細めた。
「でも、なんで俺…?」
「………」
口にしてしまおうか…?たった数秒間の、気が遠くなるような迷い。
彼もその間自問自答していたのか、その思考を諦めたかのように深くため息をついた。
「麻琴、お前、高校卒業したら留学予定なんだって?会場で噂されてた」
唐突なことを言われ、私は一気に上がった体温がまた一気に下がる。
「……話が、持ち上がっただけだよ…。行かないよ…私」
「なんでだよ。チャンスだろ。勿体無いじゃないか」
「……」
瞳が潤み始めた。それはまさか彼にまでそんな事を言われたくなかったせいで。
「行かないよ…。だって…。外国なんて行ったら、相沢君に会えなくなってしまうもの…」
情けない程に悲しみに襲われ、そんな未来を考えてしまったら涙は止めることができなくなってしまう。
いつもそう、彼の前では泣き言ばかり言ってしまうのがこの私。
彼もきっと呆れて困り果てているに違いなかった。
「そんなこと言うなよ…。俺がどうこうとかさ…。そんな大層な人間じゃないんだから。お前の夢のほうが大事に決まってる。俺なんか秤にかけるなよ」
「そんなことない。私にとっては…」
「麻琴ー!お前はどうしてそうなんだ!」
尚言おうとする私に、肩を強く揺さぶって少年は喝を放つ。
「あーもう!もっと自信持てよ。気弱すぎるんだよ。せっかく世界に通用するような才能持ってるくせになんなんだお前は!罰が当たるぞ!」
「でも…。だって…」
「クリスマスもコンサートも何処へでも行くから!だから泣くな!」
いい聞かされて、私は両手で涙を拭う。
でも本当は、彼は自分自身にこそ苛立っていたのかも知れなかった。
私の肩から手を離して、唇をどこか尖らせて座りなおす。
「…ごめんな。上手く慰められなくて」
悪いのは弱い臆病な私なのに…。謝られて、私も謝りたくて、その肩に額をあてて目を伏せた。
「麻琴…。ちょっとだけ待ってくれよな。俺も変わるから。音楽のことももう少し勉強しておくよ」
少しばかり意味を考えて、訊き直そうと頭を持ち上げた時、向かいの道路でクラクションが鳴った。
「あ、迎えが来たぞ」
車に乗って、運転手が彼も送ると車内に誘うけれど、彼は丁重に断って私に手を振った。
「俺は電車だから…。帰りの切符買っちゃってるし。またな、麻琴」
彼の笑顔が名残惜しくて、窓を開けて私は別れを惜しんだ。
「なんだよ。本当に寂しがり屋なんだな…」
「だ、って…」
窓縁にかけた手に、彼の手が重なり、どきりとしたのも束の間。
「俺は、麻琴が相手なら困らないよ。逆にお前の方が嫌なんじゃないかと思ってた」
「……。そ…」
「クリスマスと言わずに、また会おうな!じゃあな、おやすみ!」
返事も言わせずに、彼は走って駅への横断歩道を渡って消える。
駅前の照明の渦にすぐにも見えなくなって、私は人ごみやネオンの明かりに薄く恨みを思った。
「良かったですね。お嬢さま」
実は運転手は私の事情を良く知っている、長年の専属の年配者だった。
後部座席の私に微笑むと車を走らせ、私は嬉しさと切なさの混合した想いで視界が霞んでいた。
「うん…。嬉しかった…。今日はね、観客席の中に彼がいたから…。いつもより温かく感じたの。会場に光が灯った時、すぐにも見つけられたんだ」
「本日のお嬢様はいつも以上に光っておられましたよ。演奏も一際美しかった」
「ありがとう…」
車窓をすり抜ける鮮やかな光たちに、私は幸せなクリスマスを思って胸を高鳴らせていた。
その時は、もっと私に勇気が在るように…。
願いながら。
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