ニーズxサイカ。「盟主誕生」の後にどうぞ。
「…以上」 |
「はいはい〜。ニーズさん、こちらの料理にコメントをどうぞ」 この日の俺はとっくの昔に腐っていた。 ナルセスに建設中の町に呼ばれ、いい宣伝文句として振り回されていたせいで。 開店したばかりの定食屋に料理を出され、コメントを求められたので応えれば…。 「いまいち」 「舌がとろけるようだそうです。ここのメニューに書いておきましょう。勇者ニーズ、感動のあまり涙したと…」 「コラ!!嘘を書くな!訴えるぞ!」 どこまでも俺の意見は、全くの無視で腹が立った。 それからはノーコメントを決め込んで、黙々と料理を食べ続ける。不味くはないのだから、食べる事には苦痛は無い。 多分、まだ、この状態の方が疲れなかっただろうな。ナルセスに振り回されていただけの方が楽だったに違いなかった。 食事を終えて店を出ると、バタバタと音を鳴らして、飛び込んできた赤い着物の娘に遭遇する。 そう、望まない遭遇という奴だ。 俺は口を開けて呆気に取られたが、勢い余って抱きつかれたまま後ろに倒れる。 「お久しぶりなのです!ニーズ殿〜〜!!」 ハートマークをいっぱい散らして、現れた女は遠慮なく俺の胸に頬ずりして離れない。なつき過ぎるネコの仕草にも良く似ている。 「なっ。なんでお前がここにいるんだ」 「ナルセス殿が町を作るというので、私も協力しているのですよ〜。ジパング人は私一人なので珍しいのです♪時々ルーラなどで連れて来て貰うのですよー」 「そうか。じゃあ、頑張ってくれ」 そそくさと俺はサイカから離れて、その場から逃げようとする。 「お待ちくださいませ〜〜〜!!つれないのです!!!」 「離れろよー!うっとうしい!」 まとわりつく小動物を追い払うのはなかなか困難で、イライラは最高潮に達しそうになる。 「あ、ニーズさんはじゃあ、サイカちゃんとデートしてていいですよ♪せっかく久し振りなんだろうし。サイカちゃん、ニーズさんを案内してあげなよ。この町の見所案内ってところで」 「そうします!ありがとうございますナルセス殿っ!」 「コラ!勝手に決めるな!!」 吠えると、仲間達は揃って知ったような口を聞く。 「照れるなよ…。二人でいればいいじゃん」(アイザック) 「そうですよ。楽しそうですし、新しい変わったお店もいっぱいで。仲良くして下さいね」(ジャルディーノ) 「後は私たちで働きますから…。ニーズさんはサイカさんとゆっくりしてて下さい」(サリサ) 「お兄様、素直が一番だと思います」(シーヴァス) 「今晩はこの町に泊まりますから。帰って来るのは明日の朝で良いですよ(にっこり)」(ワグナス) ドカバキッ。 とりあえずワグナスは殴っておいて、腕を掴んで離さないサイカに負けて、俺は仲間たちから外れて町へ消えて行く。 |
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「ニーズ殿は、この町は初めてですか?」 「ああ。今日始めて来た」 「面白いのですよ〜♪特にここ!ここ最高なんです!」 手を引かれてとある店に入ると、俺は店の入り口で真横に直角に倒れる。 店に入ってまず目に付いたのが、 等身大勇者ニーズ人形。(食い倒れ人形のようなものをご想像下さい) 確かにナルセスが言っていたような気がするが…。 「勇者ニーズまんじゅう」とか、「これで君も勇者ニーズになれる!額冠&マントセット」とか、ワケの分からない商品が候補にあるとか…。 「大丈夫ですかニーズ殿!こちら、建て付け悪いのでしょうか?あのですね、ここは勇者グッズ専門店なんですよ!まだ試作品ですが、もう、レアグッズがいっぱいなのです!!!」 ばこっっ。 「イタイ!痛いです!妻に手を上げる夫、最低です!家庭崩壊の第一歩です!」 「うるさい黙れ!!」(怒) やっとの事で立ち上がって、すっかりうなだれた気持ちをなんとか支えようとするんだが…。その勇者グッズ販売店の店内を見てしまうと、本気で真剣に気分が滅入った。 客もわりといて、家族連れやら、女性客やら、男性客も見えた。 ところ狭しとコスプレグッズやブロマイド、食べ物などが置いてある。 うっかり、俺はガキの一人と目が合ってしまった。 「あっ!あっ!本物の勇者ニーズだっ!!」 「えっ!勇者ニーズ様!?」 「あっ!勇者様だ!わあああっ!すげー!かっこいいー!!」 しまったーーーー!!! すぐさま俺はガキに囲まれて、身動きができなくなってしまう。 俺はガキは苦手なんだ! 「はいはいはいはい〜〜!!触らないで触らないでね少年少女たち!!触った子は罰金ですよ!触ってよいのは私だけなのです!!」 助けてくれるのはいいんだが、どさくさに紛れてサイカは勝手なことをほざいていたが、それ所ではない。 「きゃー!勇者様!私ファンなんです!!すごいお逢いできて嬉しいです!」 「きゃわっ」 若い女がサイカを突き飛ばして、俺の前に割り込んでくる。 「あっ、先ほどサイン頂きました!ありがとうございました!今グッズもいっぱい買いました!それからそれから…!」 ガキがしぶしぶ引き下がったかと思うと、今度は若い女数名がキャーキャー言いながら俺を取り囲む。 …ガキの群れより苦手だった。 女たちはそれぞれ俺の手を取り合い、壊れた鳥のようにうるさく鳴きわめく。 「私なんて、ブロマイド全品制覇しているんですよ。見て下さいコレ。今度アリアハンにも生家観光に行くつもりなんですv…あ、勇者様あの、勇者様は…、あの、恋人はいらっしゃるのですか…?」(もじもじ) 「ちょっとアンタ抜け駆けしないでよ!それは私が聞こうと思ったのに!」 「いいじゃない早い者勝ちよ」 「恋人いますっっ!!いますっ!妻ですっっ!!」 女たちの後ろでサイカが頑張って手を上げて主張しているのだが、女たちは全く聞き耳を持たない。 「きゃあ!ちょっと押さないでっ!」(抱きっ) 「誰も押してないわよ!何抱きついてるのよっ!ああっ、勇者様私も…!」 「ずっるーい!もうこうなったら…!勇者様!好きです!付き合って下さい!」 「キャーーー!何よブス!アンタなんか相手にされないっつの!」 「いやですぅぅぅぅぅーーー!!」 ついに悲鳴を上げたのはサイカだった。 半泣きで女達を強行突破で突き飛ばして、ぐすぐすしながら俺にしがみつく。 「ちょっとアンタ、何よさっきから!邪魔なのよ!」 「勇者様が困っています。離れて下さい」 「私はニーズ殿の妻です!最愛の妻です!だから誰も触らないで下さい!」 「はん?」 店内は険悪な雰囲気で、店員もそれはおどおどと、うろたえていた。 女たちは信じようとはしないし、サイカは怒っているのか泣いているのか、どちらか分からない。 「言ってやって下さい」と訴える目で、俺を見上げるサイカに暫く思案する。 「サイカ、さっき突き飛ばされたろ。大丈夫か」 考えたのち、俺は優しくサイカを気遣う。 「悪いな。応援とかは嬉しいんだが…。実際に付き合うとかは無理だから。…コイツ以外は」 「ニー……!!」 嬉しそうにサイカの瞳は輝き、見せ付けるかのように俺の腰に腕を絡ませる。 「店員、お願いがあるんだがいいかな」 「は、ははははいっ!なんでしょう」 俺は売り物のブロマイドを見て、裏のプロフィールに注意事項を加えるように頼んだ。 「そうだな。女に興味なし。決まった相手がいるって書いておいてくれ」 「ええと、それですと売り上げが下がりますので勇者様…」 「店燃やすぞ」 「かしこまりました」 深々と頭を下げた店の親父に念を押し、ため息ついて俺はサイカと店を出て行く。 …なんだかいきなり疲れたな…。 「ううう…。ニーズ殿は私だけの人です。ううう…」 「もうこの町には来たくないな。俺は…」 「人気が出るのは嬉しいのですが、若い女子は勘弁ですね。かと言ってマダムも嫌ですが、年配者でも…」(ぶつぶつ) 「何言ってんだ?しかし、参るな…。あんなにグッズこしらえて…」 「あ、私もニーズ殿のは全商品買いました!発売日に全て買ってます!」 再び、俺はグラリと倒れそうになった。 「じゃ〜〜〜ん♪見て下さいこちら!きゃあ〜ニーズ殿いい男〜!」 「一体いつの間にこんな…」 ブロマイド全二十枚、中には寝顔やラフな格好のものまで…。 「えっと、撮影は特殊カメラマン『W』、だそうです」 「あのヤロウ」 「えっと、じゃ〜〜ん!見て下さい!もちろんこれも持ってます!」 背負っていた鞄からガサゴソと…。 取り出したのは「これで君も勇者になれる!額冠&マントセット」。 「面白いんですよこれ。鏡の前でいつもポーズ決めて遊んでます」 「遊ぶな」 「お、お母上も喜んでいるのに〜〜〜〜!」 「…………」 だんだん頭が痛くなってくる。 暫く、俺たちは手を繋いで(女除け)、新しくできる町並みをアテもなく見学していた。ナルセスの奴が頑張っているらしく、町並みは明るく個性的に見えた。 中央の噴水と三つの教会はまだ建設途中だが、見事なものができそうに期待できる。 歩き疲れて、その中央の噴水広場でベンチに腰かけて、暫くぼうっと働く人々を眺めていた。 途中の露天で飲物とポップコーンを買って、ポリポリと齧っている。 「母さん、変わりないか?」 「はい。お元気ですよ。そう言えば、こないだ暴露本の取材を受けてました」 「…は?」 「なんでも、アリアハンでニーズ殿のドキュメント本を作ろうとかで…」 「……」 頭を押さえて、俺は長い長いため息をつく。 「ほっといてくれ、もう…」 「御母上も、反対したのですよ。取材は拒否してました」 「へぇ…」 それには、母さんに感謝を覚えた。俺の事を気遣ってくれたような気がして。 「あのですね!その代わりといいますか、グラビア出すのですよ!写真集!」 「…誰の?」 「妹殿とサリサ嬢ですよ〜〜〜!」 ブーーーーーーッッ! 噴出したジュースは思い切りサイカの顔に拡がる。 「いや〜っ!ひどいですっ!」 ハンカチで拭きながら、サイカは抗議するが無視。 「写真…。おい、妙な本じゃないだろうな」 「あのですねv実は…。私もげすとで参加するのですよ。うふっ」 「そんな事はどーでもいい。質問に答えろ」 「大胆な水着も着てしまおうかと…。きゃ〜!」 「売り上げ下がるだろう、それは」 「きっと『べすとせら〜』ですねv美女三名の写真集」 「誰もお前のページなんか見ねえよ」 「もうっ。ニーズ殿はぁ〜…。妹殿は美人ですけど、私の方が美人ですよね?」 「ふざけるな。シーヴァスに決まってる。比べるのも、はなはだしい」 「……。サリサ嬢と私なら、私ですよね?」 「サリサだな」 「………。お母上と私なら、私の方が若くて美しいですよね??」 「母さんだな。今でも充分綺麗だよ」 「……。え、えっと…。あ、あそこの女性よりは私ですよねっ!??」 指差して、見れば小太りの中年女性、サイカは苦し紛れでわなわな震えていた。 「どっちもどっち」 「ふぐぐぐぐ…」 頬を膨らませて、真っ赤な顔で怒るサイカをよそに、俺は飄々と未完成の噴水を眺めていた。 ふと、人の集まりが向こう側に見れて、立ち上がって目を凝らす。 「何か人が集まってるな。知ってるか?」 「もうううう、ニーズ殿はああああっ!人の気も知らないでっ!」 膨れたまま立ち上がったサイカは、人垣の中にいる人物の姿に一転して、手を叩いて浮かれ飛ぶ。 「今話題の占い師さんですよ!行きましょうニーズ殿!」 サイカは期待に満ちた笑顔で手を引っ張り、広場を半周して人垣の中に入り込んで行く。 一人の娘が占い師らしく、深くフードを被った衣装で、人々の未来を暗示していた。 ふわふわと軽そうな、波打つ銀髪の娘、歳は俺と同じくらい。 片手に乗る程度の黒い宝珠に手を差し伸べ、人の合間から顔を出した俺に視線が動いた。 それはほんの些細な一瞬。 何事も見なかったかのように、占い師の視線は黒い宝珠に戻って行く。 |
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「じゃあ、次は私を。新しいこの町で成功するかどうか、是非…」 「私は、あの、恋愛運を…」 「すみません。姉は少し疲れているようなので、今日は少し休ませて貰えませんか。明日またこの場所に来ますから」 並みいる客に、頭を下げる少年が見えた。占い師の弟か、今日の占いをすでに断る場面に俺たちは顔を出す。 髪の色は姉弟全く似てはいなく、弟は黒髪に赤みのある黒い瞳をしていた。少し長めの髪を縛り、表情は穏やかで明るい。 客は残念そうに離れて行き、俺たちも仕方なく同様に離れて行こうと思った。 「残念ですね…。二人の未来を占ってもらおうと思いましたのに…。まぁ、いつも混んでいて占って貰えた事はないのですけれど…」 離れて行く俺たちに、弟が声をかけた。 「あの、勇者ニーズ様ですよね?姉上が是非お話したいと言っているのですが」 「な、こ、交際の申し込みは駄目ですよっ!」 「何言ってんだ」 「あははははっ。違いますよ。姉も占い師のはしくれ、是非勇者様の未来を占いたいと言っているんです。もちろんお題は要りません。そちらの彼女もご一緒に…」 「嫌ですわっ!彼女だなんてっ!」 得意の「どーん」が出たのだが、黒髪の弟はいつ動いたのか解らない、瞬きの間に避けて、にこにこと笑っていた。 標的がいなくて石畳に突っ伏したサイカに手を差し伸べて、紳士的に姉の元にエスコートする。 何か引っかかる弟だった。個人的にいつもにこにこしている奴は嫌いだった。 姉は占いのために布を張ったテーブルから立ち上がり、恭しく俺にお辞儀をする。 「お初に御目にかかります、勇者ニーズ様。占いをしながら旅をしている者です」 「どうぞ、おかけ下さい」 促されて、俺はサイカと並んで、女とテーブルを挟んで向かい合う。どうにも『銀髪の女』と言うのに疑いが消せなかった。 顔を凝視するが、あの死神二人とは別人だった。瞳の色は弟と同じく赤みのある黒。髪はおそらく天然のウェーブで、そのまま背中に流していた。 被るフードと着ているものは黒。占い師としてはまぁ珍しくもない。 弟は普通に町人の装い、姉の後ろで占いを見守る。 「あの、あのですね。私たちの将来を見て頂きたいのですが…」 「……。探してる奴がいるんだが、そう言うのは分かるか?」 「どちらから占いましょうか」 「二人の相性ですとか、子供は何人ですとか。式の日取りはいつがいいですとか…」(どきどき) 「当然俺で」 馬鹿はほっといて占いを頼む。 「どなたをお探しですか」 「…俺の、兄のような存在だ」 「………。もうじき、会えるでしょう。場所は、…ランシール…」 黒い宝珠に両手をかざし、占い師はすぐに答えた。 「良かったですねニーズ殿!兄上に会えるそうですよ!!」 返答できないくらいに激しく揺さぶられて、思わず乱暴にサイカをどける。 それが本当なら嬉しいが、ますます疑心が深まった。 「お二人の未来ですが…」 顔色変えず、占い師は続けてサイカの注文に答える。瞳は酷く冷めている氷のように感情に乏しく、ぽつぽつと語る声にも抑揚がなかった。 「……。『別れ』、が見えます」 俺もサイカもさすがに、その答えには動揺し言葉を失った。 「サイカさんには、待っている別な方がいるようです。近いうちに…、迎えが来るとの暗示があります」 「………」 どう反応していいか解らずに、サイカは俺を横目に見やり、弁解しようと占い師に身を乗り出す。 「あ、あの…。えっと…。ち、違いますよね」 「勇者様は、…今のままですと、大事な人を失う…でしょう」 背筋がゾクリと冷たくなった。俺を見上げた占い師の目を見た瞬間に。 女は臆しもせずに、抜け抜けと忠告する。 「あなたにとって、大事なものとは何なのでしょう…。先ほど聞いた兄でしょうか。家族、友人、恋人…。あなたは、今のままではこれを奪われるでしょう」 「いいえ、奪いは、必須…」 「貴様!」 机を叩き、椅子から立ち上がった俺は、女の胸元を掴みフードを引き剥がす。 「貴様、あの死神だろう!?正体を見せろ!怪しいんだよ!」 「やっ、止めて下さい!」 弟が慌てて止めに入るが、睨みつける姉の瞳は挑戦的に光っていた。 「私を殴っても、未来は変わりません。お守り下さい。あなたの大事な人を…」 「ニーズ殿…」 「………」 「私が、占いした方に配っているお守りがあります。良ければお持ち下さい」 もやもやは消えないまま、女から手を離すと、俺の憤りなど全く何処吹く風で、女はお守りと称した「メダリオン」を差し出す。 「黒いメダル…。変わってますね」 サイカは手に取り、珍しそうに裏表とを交互に見つめる。 「この町で配られる予定の記念メダルですよ。それに、私がこの宝珠の力を込めています。災いを吸収し、持ち主を守ってくれます」 「へええ〜!良いですね。頂きます!」 「持つな」 喜んだサイカの手からメダルを奪い、女に叩きつける。俺はマントを引き寄せて無言で背中を向けた。 戸惑うサイカを無視して腕を引き、一刻も早くこの占い師から離れたかった。 もともと占いなど信じる性質ではなかったにしても、アレは最悪過ぎた。 不吉な胸騒ぎと、イライラとで胃が痛くなりそうで歯噛みする。広場を足早に通り過ぎ、俺は頑なに振り返ることもしなかった。 |
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仲間たちと泊まる予定の宿に引き返し、時間は流れて日は傾いていた。 占い師の言葉が頭に回り、サイカの励ましも右から左へ抜けていく。 ベットの上、毛布の上に横になり、天井を見つめながらずっと自問自答は続いた。 「……。何を考えているのですか…?ニーズ殿…」 仲間達はまだナルセスにこき使われているのか、宿には戻っていない。サイカは俺の横でベットの上に正座して、つまらなそうにしゅんとしていた。 「…ニーズ殿の兄上の…、ことですか?」 問いかける、サイカは何処か寂しそうに、捨て猫が鳴いたさまに似る。 俺の一番大事なもの…。それは言わずと知れた「ニーズ」。 思い返せば、「ニーズ」を守れと、あの占い師は言わなかったか? 「あの…。ニーズ殿。聞いても良いですか。やはり、一番大事な人は兄上殿なのでしょうか…」 「………。そうだな」 「…ニーズ殿にとって、兄上殿とは、どんな方なのでしょうか…」 「俺の生まれた理由。俺の生きてゆく理由」 決まりきっていた返答。 「私って、何番目くらいなのでしょうか…」 質問は、サイカにしてみれば当然の疑問だと実は知っていた。 多分、女なら、恋した相手の一番になりたいんだろうなと…。 いつか、兄以上に大事な人間ができるだろうか。自分に聞きたいよ。 いつか、ニーズ以上に愛する奴なんて…。 できてはいけないんだと思っていた。 あいつを裏切るような気が今もしている。 あいつのために生まれてきた俺が、どうして自由になれるんだろうかと…。 サイカの問いかけには答えが見つからずに、ずっと天井を睨んでいた。 ニーズ、母さん、シーヴァス、仲間たち、サイカ。 順番をどうつけていいのか迷う。 「ありがとう。でも、僕のために生きるのはやめて。お願いだよ」 ムオルであいつに突き放された、その時の言葉が頭に響いてくる。 「もう、君は自由だよ。自分のために生きていいんだ。僕のために何もしなくていいんだ」 知っているんだろうか。「自由」と言う影に、孤独が潜んでいる事を。 あいつのために生きなくなったら、生きる目的を見失いそうになる。 「僕には、君よりも、大事なものができたよ」 …哀しかった。それが何なのか聞くのも恐ろしいぐらいに。 立ち直れなくなる恐れが拭えない。 いつ壊れてもおかしくないと思うんだ。何もかもが。 あの占い師の言ったように。 サイカがいることも。 仲間がそばにいることも。俺が勇者であることも。 そう思いながら、大事にできない自分が、時々どうしようもなく嫌になる。 当たり前のことなんて、どこにもないんだと知りながら。 わずらわしくも飽きない日常と、疲れるぐらいの会話の渦と。腹立つぐらいの自分への好意と。 どう感謝を示していいのか、解らなくて時々困る。 「…すみません。困らせてしまいましたか。返事はいらないです」 ますますしょんぼりとして、声も小さくなったサイカに俺は体を起こして、謝るしかなかった。 「悪い…。本当に。もし、あの占い通りに、もっとちゃんと、お前を一番に想う奴が出てきたなら、すぐに行ってくれていいから…」 「なっ、なんですか。行きませぬ!私は…!ニーズ殿から離れませぬ!絶対です!あんな占い当たらないです!」 サイカはムキになって全面否定する。 俺は約束なんてしなくていいと思っていた。 「私は…。何番でもいいです。最後でもいいです。ふえ…っ」 「泣くなよ。…俺が悪かった。もう言わない」 とうとう泣き始めたので観念して、子供みたいなサイカを抱き寄せて慰める。 この温かさも愛しいし。 生きているだけで嬉しい気持ちも変わっていない。 幸せになって欲しい願いも何一つ変わっていない。 むしろ、あの時「以上」なのかとさえ思う。 泣くサイカを傍に感じながら、時々コイツを傍に置く事を怖いと思うんだ。 これ以上、想ってしまうことが怖い。 それなのに自分はまた、矛盾して、繋ぎとめようとするんだ。 口では「行っていいよ」と言った。 どうしたって言えるわけがないが、サイカが誰かに奪われるなんて本当は我慢できない。自分は壊れるかも知れない。 本当に自分が嫌いだった。自分で自分の感情が思い通りになってくれない。 何度も口付けて、逃がさないように、逃げないように、卑怯な俺はサイカを縛るように腕を離さなかった。 「ニーズ殿…。私は何処にも行かないです。ずっとあなただけです。ずっと、あなただけを愛しております…」 仲間たちが宿に戻って来るまで、二人はずっと離れられずに、 チラつく「別れ」という言葉に怯えるように抱き合っていた。 |
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その晩、この町の名所でもある露天風呂に皆で出かけ、特に女たちはごきげんで宿に帰って来た。 「ニーズ殿、覗いたりしてないですよね?」 「してねーよ」 「いつか混浴入りたいですね♪」 「いらん」 「えっと、じゃあ、さっきの続きを…」(ごにょごにょ) 「続きって何ですか?お兄様」 「それは聞いてはいけないですよシーヴァスさん。あ、ニーズさん達、お二人で別な部屋を取られても良いですよ♪」 ガツッ。 無論、二人で部屋を取ったりなんてしなかった。 けれど、その晩、どうしても俺は眠る事ができなくて、何度も寝返りを打った。 不安で、仕方なくて。 今度会う時には、すでに横には別な男がいるかも知れない。想像だけで息苦しくて胸が詰まる。 わずかな期待を寄せて、俺は一人部屋を借りていたサイカの部屋の戸を叩いた。 起きていたらしく扉はすぐに開き、それは滑稽な程にうろたえるサイカに出会える。 「に、ニーズ殿…!ま、まままままままま、まさか夜這い!きゃーーー!!」 「静かにしろよ、馬鹿」 口を押さえて後ろ手に扉を閉める。サイカの緊張と興奮が俺にまで伝わるぐらい、奴の早い鼓動は本人からはみ出して聞こえる。 「ええええ、え、えと、ど、どう、さ、され、ま、まし…」 カーテンを閉めた暗い部屋の中でも、相手の顔は真っ赤なのがまる分かりで、なんだか少し緊張が伝染してくる。 「………。特に用はない、んだけど…」 「や、やはり、夜這い…!あ、あの、大丈夫です!今日は勝負ぱんつですから!」 ぎくしゃくした動きで、寝巻き姿のサイカはベットに潜っていく。 「…何処でそーゆー言葉、覚えてくるんだお前は…」 「えっと、ですね、アリアハンで売ってる、女性誌とか…です」(もごもご) 会話は途切れがちで、しかし、ここまで来て帰るにも帰れない自分は、葛藤に捕われてずっと立ち尽くしていた。 「ニーズ殿…?どうしましたか…?」 不安になり、サイカはベットから出て、俯いたままの俺の頬にそっと触れる。 「不安…なんですか…。そんな、辛そうに…。私は、ずっといますよ。ニーズ殿とずっと一緒にいます。信じて下さい」 何も言えなくて、ただ、俺は折れるぐらいに抱きしめた。 「ニーズ殿は…、どうして、言わないんでしょうか。言えないのですか?それはどうして…?口にすればいいのです。私、答えますのに。何処にも行くなと…。俺だけを見てろと…」 凍りついたように俺の口は動かずに、静かに首を振る。 「普段わがままに見えますけれど…。嫌なことは言うのに、して欲しい望みは言わないですね。御母上も良く嘆いていますよ」 「………」 「…眠れなかったんでしょうか。…私もでした。一緒なら、眠れるかも知れないですね。私もニーズ殿に横にいて欲しかったのです」 にこりとして、サイカは俺の手を引っ張っていく。 ただ、横にいてくれるだけで安心できた。 いつか、許されるんだろうか…。 兄と、サイカと、あの占い師の言葉が顔が、ずっとぐるぐる回転していた。 |
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翌朝、俺は考えなしの自分の行動にいささか後悔を覚える事になる。 朝寝坊な俺が起きた頃には時遅く、サイカの個室に寝ていた事は周知の事実になってしまっていた。 「おはようございますニーズさん。昨夜はお楽しみで……」 「草薙の剣!!」(ズバッシュ) 「ニーズ殿ったら、私と離れたくないと言って…!きゃああっ」 「……。早くランシールに行こう」 浮かれてる奴はほうっておいて、俺は出発の身支度を整える。 「大人ですね、ニーズさん…」(ジャルディーノ) 「………。こ、恋人同士なら、うん…」(アイザック) 「お兄様…。おめでとうございます」(シーヴァス) 「え、……あ、あの、お幸せに…///」(サリサ) 「違うから!!!!!!さっさと行くぞ、もう!!」 「ニーズ殿顔が赤いです。照・れ・屋・さん♪」 「殴るぞ馬鹿!」 「……。いってきますのきすは…?」 「あ、俺たち先に行ってるよ。後でなニーズ…」 恥ずかしがって、仲間たちはそそくさと宿から出て行く。 じっと待って見つめてるサイカは、顎を上げてまぶたを伏せる。磁石みたいに引きつけられてしまう、自分はもう病気だと思った。 言葉にはできないけれど、どうか…、と願わずにはいられない。 今日も、明日も、その先も、 どうか、許されるなら ずっと、ずっと、俺のことだけ見ていて下さい。 |
■後書き■ こちらは60000HITキリ番リクエスト 陽南様より
ニーズxサイカ(絵かSS)と言うことで書かせて頂きました。
確かサイカに幸せを、とリクされた気がするのですが、なんだか切ない系で途中から実は焦りました。前半はいつも通りドタバタ、中盤に謎めいて、後半シリアス…と贅沢な内容にはできたかな…とも思います。
占い師、書くの楽しかったです(笑)
キス絵もキリ番リクエストでした。修正&縮小して再UP。
そうそう、DQ4でブロマイドが出てくるのでDQ界には低機能のカメラがあるということで。