自分の部屋で開放感に溜息をついた。 今日も今日で、全くもって疲れた一日に終わった。戦士アイザックに僧侶のジャルディーノ、行商人のナルセス。よくもまぁ、毎日毎日付きまとってくれる。 明日から、そんな奴らとの旅かと思うと、かなりうんざりしてるんだ。 いつも通り、会話の無い夕食に、ただ食べ物だけを腹に詰め込む。 重い空気に何も言うことができず……。 きっと、明日の朝もそれは変わらないだろう。 俺がいない間は、城の保護や、おせっかいな町民どもが母親の世話をしてくれる。俺がいなくても不自由も寂しさもない。 俺自身にも、新たに生まれる寂しさは存在しなかった。 深夜ベットに寝転がり、天井を睨みながら、どうしても忘れることのできない『悪夢』に寝返りを繰り返した。 ………眠れるわけが無かった。 ニ年前の『悪夢』。 それは国以上に、きっと俺こそが、深い消えない傷を刻み付けられた夜だった。 睡眠を諦めて、窓から木を伝い外へ出て、俺は夜の町をひた走る。 いつも行く町の外れ。この辺じゃ、一番背の高い杉の木の根元へと辿り着く。 その根元を無言で掘った。 そんな俺を見ている者は月ぐらい。今まで手も付けなかった、「約束の物」を掘り起こすため、土をかいて金属を掴んだ。 青い宝玉の嵌め込まれた、シンプルな額冠。 自分の汚い手に静かに納まって、埋まった宝玉は鈍い聖なる光を発していた。 アイツとここに埋めた、いつか「勇者」になる時に付けるんだと話していた。 近くの川へ移動し、土を洗い落とした。追いかけて上った月が水面に映り、木々のさざめきと共に揺れる。 本当に、俺がこれを付けていいのだろうか。 俺が勇者でいいのか……? 額冠はその身をさらして、中央の宝玉は静かに青く輝くばかり。 「これでいいのか……。これでお前は許してくれるのか・・・・・」 川に映りこんだ自分に、応えるはずの無い問いを呟いた。映る姿は川の流れに揺れるだけで、永遠に答えなどは得られない。 額冠を嵌めてみる。思わず一人で笑い飛ばした。 「似合わない」 「くそっ 慟哭が押しよせて、口から叫びに変わってしまいそうで、頭を川に押し込んでゴボゴボと空気を吐き出した。胸中の叫びは誰にも聞こえることはない。 消えない場面がまた繰り返す。 俺にだって、守りたいものがあったんだ。 他はどうでも良かった。俺なんかどうなったって良かったんだ。 それなのに、どうして『俺』が残っているんだろう。 濡れた頭をそのままに、俺は川辺に転がった。 ………でも、行くしかないのか、俺は。他に何もできることがない。このままアリアハンにいても、母さんに何も出来ない。 ずぶ濡れのままに帰り、ろくに拭きもせず横になって目を瞑った。 夢でなら会えるのにな。いつでも【お前】に。 暗い部屋。俺は自分に良く似た子供に声をかけられる。 「ねぇ、君は誰」 「……ニーズ……」 「えっ?君も……ニーズなの?」 「……、そう、ニーズ……」 「……そうなんだ……」 小さな子供の夢。でも、つかまれた手はとても温かかった。 まだ忘れていないその感覚は・・・・・。 「同じだね」 子供は本当に嬉しそうに笑った。 同じだったのは、名前か、容姿か、手の温かさだったのか。 会いたいよ。 でも、もう会えない。 目が覚めたら、俺が「勇者」になっている。 お前が生まれた、記念の日。 |
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いきなりプロローグから長くてすみません。 最初から伏線も多いですが、本編にも読み進んでいただけたら光栄です。 賢者ワグナス、魔法使いシーヴァス、僧侶サリサのプロローグも番外編として置いてあります。 良ければそちらも覗いて下さいね。読んで下さってありがとうございました。 |