ジパング エピローグ 〜 ランシール プロローグ



 賢者ワグナスに送られ、私は数ヶ月ぶりに、その神殿の床を踏みしめる。
 世界最大の白亜の神殿には、国の者でも知り得ない隠された別館が結界の中に存在している。
 久し振りに帰った神殿は、変わらず、ひっそりと深遠を守っていた。

 孤独に下手すれば押しつぶされそうになるのを、私は胸をぎゅっと掴み堪えている。私の生活していた部屋に戻ろうと、賢者と共に歩き出す。



     そこへ、目の前の空気が光り始める。

 優しい光、優しい音楽が形になったようなお人でした。
 青緑の美しい髪に、心温まる微笑を浮かべた、私の師。

「…ルタ様……!」
 皮のコートのフードを静かに外し、にこりと笑いかけて下さる。
 私は無我夢中で、駆け寄り、両腕を伸ばして抱きつく。
「ルタ様…。申し訳御座いません。私の力足らず、地上に落ちてしまい…。ルビス様も、封印されたと訊いた時はもう…。悲しくて、申し訳がなくて」

「妹の事は、貴女のせいではありません。貴女だけならず、妹まで守れなかった、私の非力さを悔やむばかりです」
「ルタ様…。シャルディナ様を、危険な目に会わせてしまいました。申し訳御座いません」

 ルタ様に抱きついたままの、私の後ろで賢者ワグナスは深く謝罪にひれ伏す。
「貴方と、勇者達に感謝します。私の大切な弟子を守って下さいました」

 ルタ様は私の頭を何度も撫でて、身を屈め、そっと頬を温めてくれる。
「永い事、一人にしてしまいましたね。寂しかったでしょう。助けを出す事もできずに、許して下さい。けれど、一人地上に降りた貴女の事がずっと気がかりでした」
「もう、お会いする事はできないのではと、思っていました…。嬉しいです。お変わりなくて、ルタ様…」
 瞳が潤み、私は頬に口付けの祝福を受ける。

「貴女を、失う事など考えられません。貴女は私の大事な…。待っています。ラーミアが復活し、貴女が天界に戻る日を」
「……。はい。帰ります。ルタ様の元に…」

「ワグナス、彼女の事、お願いしますね」
「はい。必ず」


 心癒された再会、ルタ様の去ったすぐ後で、回廊の奥から静かな靴音が壁に反響を繰り返す。

「シャルディナ様…。戻られたのですね」
 それは二人組みの女神官、黒と白の対比した神官衣を纏う、ランシール神殿の聖女ラディナードとジード。

「ジード…。ごめんなさい、私…」
 私は黒い神官衣の聖女、顔を覆う黒いフードの奥の、紫の瞳に懐かしさと、罪悪感とを覚える。金のまっすぐな長い髪を揺らし、普段見せない、微かな笑顔を私だけにジードは見せてくれた。
「シャルディナ様、喜び下さい。『光』は消えず。オーブは集まり、必ずラーミア復活の時が訪れます」
「光…」

 ジードに案内され、私はこの日、初めて、『光』を垣間見る。
 一目見て、私は確信して頭を下げた。その「彼」こそが、遠く、遠く待ちわびた、求め続けた『光』であったとの確信に。

「お願い致します勇者様。地球のへそに眠る、ブルーオーブを持ち帰り下さい。私を助けて下さい」

「頭を上げて下さい。約束します。僕は、この力の限り」
 青い瞳を伏せ、黒髪の勇者は神に祈る。

「そして、弟を、導き下さい」


地球のへそ、その地底の奥の最も深い場所。
ずっと小さな青い光は、独り、差し伸べられる手を待って…。





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◆ジパング編後書き◆
気がついたら、恐ろしい長さになっていました。ジパング編。(イシスの次に長い)
やはり事件があると長くなるのですね…。ひたすらサイカに感情移入したジパング編でした。もう、すっかり、彼女は奥さんになって…(笑)
そして、連動して、ニーズとアイザック、シャルディナが動いたことx2。
作者の思惑も裏切った展開になっちゃって(笑)でも向かうところです。
作者も戦っております。
すぐにも、ランシールー!!と叫びたい所ですが、間に番外編が少しと、テドン編が入ります。
船旅って時間かかると思うんだな〜。陸路より。
数ヶ月経って、ランシール到着の流れとなります。
ジパング編は「みんなで恋愛革命」。
ランシールはすでに強いジャルとワグナス以外の面々が「強力パワーアップ」します。ランシールも長いかなぁ…。(ぼそ)

サイカの出番、まだありますv「おかえりなさいv私の勇者v」って感じですねvvv
読んで下さりありがとう御座いました(〃▽〃)

2003.10