元ニーズxフラウス学園版

2周年企画リクエスト 大島裕ニさまより
元ニーズxフラウスの幸せ絶頂…とのリクエストだったのですが、色々考えても「花祝い」以上の幸せものは書けないなと思い、絵で考えてみたのですが、それも迷い…。
絵1枚で幸せって難しいなぁ…と思った結果、思い切って学園版って手もありかなと考えてしまったのです。
これなら二人もラブラブできるし、元ニーズとニーズ、母親とも会話ができる。(←幸せじゃないか)
本編とはまた違うものですが、良ければ読んでみて下さると嬉しいです。
めちゃくちゃアツアツなのでご注意!

キャラクター設定は映画館のオリジナル絵なども参考に。

元ニーズ→古代 諭(こしろ さとし) 匡司学院3年生 首席の優等生 病弱(過去に病気を克服)
フラウス→高原 鈴子 S高校2年生 身寄りがなく、好意で古代家にお世話になっている
ニーズ→古代 仁(こしろ ひとし) S高校3年生 諭の双子の弟 やはりひねくれ者
母エマーダ→古代 恵麻 学者で研究に忙しく、あまり家にいない 離婚済みで相手は再婚済み



「僕の傍」


「おはようございます。諭さん。起きてますか?」
 いつも通りの声と、ドアをノックする音に僕は目が覚める。
 家には一つ年下の女の子が母親の好意で同居していた。お世話になっているからと言って、家事全般を担当し、毎朝家事の傍らに起こしに来てくれる。

「おはよう…」
 彼女はまだ眠そうに目を擦る僕を見てくすくすと笑った。
「また遅くまで起きていたのですか?体に毒ですよ?勉強も分かるのですけれど、ほどほどにして下さいね」
「うん…。気がつくと3時でね…」
 ぼんやりしながらベットから出ると、顔を洗いに僕は一階の洗面所へと降りて行く。
 エプロン姿の鈴子ちゃんは、そのまま隣の部屋のドアを強く叩く。
ドンドン!
「仁さん!起きてますか?入りますよ」
 うちの弟ははっきり言って、すぐには起きない奴だから。いつも彼女は起こすのに手間を取らされていた。

「仁さん!朝ですよ!ひ、と、し、さ、ん〜〜〜〜!!」(ゆさゆさ)
「う〜…ん…。うるせぇなぁ…。あと5分」
「……。いつもそう言って…。後で怒るじゃないですか」
 鈴子ちゃんはため息をついて、散らかった部屋の中を見渡してはまたため息をついた。飲みかけの缶ジュースや、脱ぎ捨てたままの服などを手に、また少ししたら起こしに来ようと、彼女はカーテンを開けて弟の部屋を出て行く。

「仁起きた?って起きるわけないか」
 部屋に戻った僕とまた会って、入れ違いで僕が弟の布団を剥ぐ。
「寒い…」
「いい加減に起きれるようにならないと、母さんも呆れてるよ」

 数分後、顔を洗ってしぶしぶと仁は台所にやって来た。
 朝はかなり機嫌が悪いので、無愛想に更に輪がかかる。朝は食べて着替えて、そっけなく出てゆくのみ。大抵弟の行動はパターンで決まっていた。

 今朝の朝食風景はさすがに僕も口数が少なめだった。
 それと言うのも、昨夜母さんに言われた事柄が頭を回るために…。



 あまり家にいない母親が、昨夜は珍しく帰って来て、おもむろに二枚の映画のチケットを僕に手渡した。
 最近公開された話題の洋画のチケット二枚。
 勉強してた僕の机の横に立つと、疲れているのか肩をもみながらおせっかいな話題を持ちかける。

「鈴子ちゃんが見たがっていたのよ。あなた誘って行って来なさい」
「……。また……。本当に鈴子ちゃんの事気に入ってるよね」
「お母さんはあの子が「本当の娘」になってもいいって、いつも言ってるでしょう。仁がいるとは言え、いつでも二人になれるのに、何をやってるのあなたは」

「何をって…。あのさ、仮にも人様の娘さんを預かってるんだよ?女の子がいきなり家に来て、何事もなくうまく暮らしてるんだから、逆に褒めてもらいたいよこっちは」
「別に問題起こしてもいいわよ。あなたが最後まで責任取れば」
 息子の部屋でくつろぎ始めて、上着を脱いで母親はとんでもない事を言う。

「…息子に不祥事を薦めないように」
「諭、ここへ座りなさい」
 じゅうたんの上に正座して、向かいに座るように呼ばれてしまう。密かに厳しい母親が説教する時は大抵こうだった。
 逆らうと理論勝負になるので、面倒くさいので従う。

「鈴子ちゃんはね、ここへ来る前から、子供の頃からあなたの事が好きだったと言うのよ。嬉しい話じゃないの。ご家族に不幸があって、身寄りが無くなってしまったと聞いて、親戚でもないあの子を引き取ったのはあなたと会わせたかったからなのよ。いい子じゃない。何が不満なの?」
「不満はないよ。でも考えてみてよ。やっと仁が戻って来たのにさ、また家を出て行ってしまうよ。家に居づらくなるじゃない」

「仁にも彼女がいるじゃない。大丈夫よ。二人とも彼女と仲良くしていて欲しいわ」
「……。映画には行くよ。それでいいよね」
「手ぐらい繋ぎなさいね。お小遣いも渡しますから」
「こんなにいらないよ。何処に行けって言うの」
「分からない子ね。買い物したり、食事をしたり、色々あるでしょう。すぐに帰って来たら子供の頃の恥ずかしい写真見せますから」
「もうアルバム見せてるの知ってるよ」
「まだ取っておきがあります。あとビデオも多数」
「……はいはい」

 夜に帰って、また早朝母親は仕事へ行ったようだけれど、さすがになかなかデートへ誘うには勇気がいった。

仁が朝食を終えて二階へ上がったのを見て、後片付け始める彼女に頭をかきながら声をかける。
「鈴子ちゃんさ、今週の土日どっちか空いてるかな?うちの母さんが映画のチケットくれてさ……。見に行きたいんだよね?」
「え……」
 食器洗いの手が止まって、明らかに彼女の頬が赤くなってゆく。
 自分も恥ずかしくて目を合わせられなかったんだけど。

「い、いいんですか……。え?諭さんと……?」
「僕でいいなら、うん…。あ、他に一緒に行く友達がいるなら友達と…」
「あ、その…。友達はもう見に行ってしまっていて…」
 こうして彼女がいつも照れるから、どぎまぎが移ってしまったりするんだよな。

「お小遣いも貰ったから、夏服でも買っておいでって言ってた。美味しいものでも食べて来なさい、だって」
「あ、そんな…。いいのでしょうか…。ただでさえ、置いて貰っているだけで嬉しいのに…」
「うちの母、本当に鈴子ちゃんが可愛いみたいだからさ…。ちゃんと接待しないと僕が怒られるんだよね。行きたい所あったら言ってね」
 照れくさいのでそそくさと、もうその話は流して僕は二階に着替えに上がって行った。



 日曜日、天気も良くて、僕と鈴子ちゃんは映画の時間に合わせて二人で家を出て行った。
「行ってらっしゃい。二人でゆっくりして来てね♪」
 玄関にはにこにこと、手を振って見送る母親の姿が長いこと見えていた。
 今日に至るまでに何点か言いつけられた事を思い出すけれど、果たして何処まで要望に応えられることか……。
 手をつなげとか服を買えとか。服を褒めろとか。あと…、何があったかな。

 隣を歩く女の子は、青いミニのワンピース姿でいつにも増して可愛く思える。
 頬も赤いし、目を合わせるのも恥ずかしいぐらいだった。

 デパートに夕飯の材料を買いに行ったり、その位ならした事があるけど、こう、いかにもデート風に外出するのは初めてなので、お互い緊張して会話がぎこちない。

 駅前の人ごみに押されて、はぐれがちな彼女の手を、何も言わずに僕は取って歩いていた。
 会話が弾まない分、せめてこの位はと……。
 照れが襲うのでなるべく自然に、意識しすぎないように……。
 とは言っても、繋がる指同士はひどく熱を帯びていた。


 映画館の席について、二人分の飲物を買いに離れた僕の指を、彼女は惜しそうに見つめたような気がした。

 映画を見終わって、近くのレストランでお昼ごはんを食べながら、僕たちは映画の感想に盛り上がる。母親に言いつけられた注文も考慮しながら、この後のことについて僕は恥ずかしいけれど提案しなければならなかった。

「今年の夏ね、母さん、鈴子ちゃんも連れて海水浴に行きたいって言ってるんだ。良かったらこの後水着見に行ってみない?」
 おそらく、一気に顔が赤くなった彼女のように、自分の顔も赤くなっているに違いなかった。
「あの…、私なんかが、いて、いいのですか…?海水浴なんて…。あ、あの、水着は持っていますから……」
 すっかり鈴子ちゃんは俯いてしまって、恥ずかしそうに三つ編みが揺れている。

「なんだか新しいの買ってあげたいんだって聞かなくてさ。母さん…。ごめんね、わがままで…。言い出すと聞かないからさ」
「…良く、似ていますよね」
 意外な事を言われて、食事の手もぴたりと止まる。
「そ、そんな事ないよ」(汗)
「自覚ないんですね」
 笑われてしまって、なんだか僕は二の句が告げなくなっていた。


 駅ビル内の水着売り場を覗き、試着室の前で待っているとタイミング良く母から携帯にメールが届いた。
〔水着ちゃんと選んであげるのよ。褒めてあげなさいね〕
 傍で見ているかのようなナイスなタイミングで、思わず周囲を確認してしまった程だ。取り合えず着いて来ている事はないようで、汗を拭く。

「諭さん、いいですか?」
 試着室に持って行った水着は三着。ワンピース型のが二着とビキニタイプが一着。カーテンが開く度にそれは胸を打って、コメントもしどろもどろになってしまった。
「に、似合うよ。…可愛いよ」
「そうですか…?…どちらがいいと思いますか……」
「えっと、…チェックの、かな」

 普段あまり肌を出さない子だから、いきなり水着なんかになられると本当に驚く。
自分に反応を聞く時も、腕で胸辺りを隠して訊ねる、恥らう仕草が逆にますますドキドキさせた。

 きっと、こーゆーのが母親の狙いだったんだろうけど……。
 悔しいぐらいに術中にハマっている気がして複雑だった。

 水着を買って、頼まれていた買い物などを済まして、夕方外に出た時には空はすっかり色を変えて曇っていた。
 強く雨が降って、傘も用意しているはずがないので暫く途方に暮れる。

「止みそうにないね。ビニール傘でも買ってくるよ」
 帰り道、一つの傘に二人で入っても、あまり近くに寄ろうとしない鈴子ちゃんは思い切り肩が塗れていた。
「…もう少し入って来ていいのに。遠慮しすぎだよね鈴子ちゃんは」
「え、でも……」
「風邪引いちゃうよ?」

 それでもくっつこうとしない彼女は本当に恥ずかしがり屋で……。
 どうしてそこまで意識するんだろうと不思議で仕方がなくなる。

 同じ姿なはずの弟と僕でも、相当に反応が違うから。
 弟が風呂あがりで上半身裸でいてもさほど動じないのに、自分の着替えに出くわすと慌てて彼女は逃げて行く。
 何が違うんだろう……?時々本気で訊ねたくなるんだ。

 言う事を聞かないでどうしてもくっついて来ない彼女は、家に帰ってから案の定くしゃみを繰り返していた。



 家に帰ると私は、すぐに薬を飲んで横になっていました。
 熱は雨に打たれたせいだけではないけれど、シャワーを浴びて着替えても尚、体のあちこちが熱を帯びて、火照って仕方がなかったのでした。

 一日が夢だったように思えて、ベットの中で思わず消えてしまわないように、今日の出来事を思い返していたのです。
 想っていた人がドアを叩いて、思わず体はビクリと飛び上がっていました。
「…起きてるかな?入るよ?具合どう?」
「あ…。大丈夫です。こほっ、こほっ」

「まだ熱あるね。ごめんね。風邪引かせてしまって……」
 急いで起き上がろうとした私をベットに戻して、額を押さえた諭さんは優しい声で何故か謝る。
「諭さんが謝る事は……。ひき初めですから、すぐに治りますよ」
 額に手を当てられたことに過剰反応してしまって、私はぱっと離れるとベットの中で小さくなる。
 反応の大げささに諭さんは、ついに私に尋ねてきたのです。

「訊いてもいいかな……。僕の何がそんなに特別なの?時々解らなくなるんだよ。仁と何が違うのかなって」

 私は、質問の意味に驚き、何も言えず……。
 このまま寝たふりでもして聞き流したい衝動に襲われていました。

「…意地悪言っちゃったね。ごめん。…もう、離れていかないようにしてね。もっと僕に近かったなら良かったんだよね、そしたら風邪も引かなくてすんだ。…反省したよ、さすがに」
「……?何の話ですか……?」

 不意に諭さんは腕を伸ばして、私の手を握りしめる。
「我慢しているだけ、僕一人馬鹿だったのかな。本当はまだ暫くは黙ってるつもりだったんだけど……」

 私の好きな、優しい声は、静かな夜の部屋にゆっくりと浸透してゆく。
「好きだよ。僕も君のことが。だから、もう、離れて肩を濡らさないようにしてね」
「…………」
 熱があるので、私は聞き間違えたのではないかと耳を疑いました。

「あの、………。これって、夢ですか」
 握られた手は嬉しさに震えて、信じられなくて私は瞳が潤み始める。
 私の反応に諭さんは吹き出して、私の右手を自分の頬に当てて大好きな笑顔を私にくれる。
「本当に可愛いね…。夢じゃないよ。目が覚めても、変わらないから安心して休んでね」

 眠るどころではなくて、真剣に私は頬を塗らして泣いていました。
 嬉しい言葉を聞かせてもらったのに、私から何も伝えられないのは余りに心苦し過ぎます。
 私は起きてベットから足を出し、自分の部屋にいる彼に向かい合い、初めて恋心を口にするのでした。

「諭さんは…特別ですよ?私にとっては……。ずっと特別でした。私子供の頃に諭さんを見たことがあるんです。病院でだったのですが……」

 初めて見た頃とは違って、もう彼は私よりも随分背が高くなっていました。遠くから見ているだけだった男の子が、今はこんなに近くにいてくれる……。

「私は親が入院していただけだったのですけれど、子供ながらに、子供なのに病気と闘う男の子の姿は印象に残って……。良かったです、本当に。手術が成功して。私ずっと祈っていました」

「………。母さんが推す訳だよね」
 告白に衝撃を受けたような諭さんは、暫く無言だった後、納得したように小さく呟く。
「恵麻さんには、気付かれてしまったんですよ。私が隠れて見ていた事を……。諭さんには迷惑ではないかと、ずっと不安でした。…嬉しいです」

「迷惑なんて言うはずがないよ。…ありがとう。知らずに死んでいたら、きっと後悔したね。長いこと気付かなくてごめんね。ありがとう……」
 ずっと憧れていた人は、もう大人に近くなっていて、私を抱きしめてくれる胸も広い。
「大好きです。大好きでした。ずっと……」

 薄闇の中、私を映す黒い瞳はとても綺麗で    
 初めて誰かと重なった唇は、忘れられない温もりを残しました。

 もう一度聞いても良いでしょうか。
 これは夢ですか……?



コンコン。ガチャ。
「おはようございます。諭さん」

 映画を見に行った日から、今日も同じように朝がやって来る。
 彼女の風邪は翌日には治っていて、母さんにも礼を言うとそれは満足そうに赤飯まで炊いていた。
「なんで赤飯?何かあったっけ……?」
 仁の突っ込みにそれはドキリとしたものだった。(当然今のところ仁には内緒なんだよね)
「さあ……。母さんの研究で何かいい発見があったんじゃないの?」
「そんな事で今まで赤飯炊いたことないけど」
 気付いているのかいないのか、仁は人に干渉するタイプでもないので、それ以上は何も言わなかったけれど。


「……諭さん?」
 返事をしないで布団の中でぐずぐずしていると、三つ編みの女の子が肩を叩いて覗き込んで来る。
 両腕を伸ばして捕まえると、ぎゅっと抱き寄せて朝から頬にキスをする。
「きゃっ……!」
「おはよう」

「あ……」
 真っ赤になって、更に何も言えなくなる、そんなところもやっぱり可愛い。


 同じ家に暮らす可愛い恋人。
 僕の傍で、気付かない所でも、ずっと僕を見ていてくれた。

「鈴子ちゃん、また今度、二人で何処か出かけようか」
「は、……はい」
 これからは、もう少し、もっと、僕の傍に。




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*後書き*
何故学園版かと言いますと、
学園版だと、二人をくっつけることができるんですよ。
これぞ幸せ絶頂かと思いまして、書いてみました。
本当は仁とも会話させたかったんですけど、どうにも奴が出てくると「幸せ絶頂」が崩れるんですよ。(苦笑)
学園版にも別に設定があったりしますが、幸せな恋人同士の二人に満足して貰えれば嬉しいです。お母さんのキャラが意外かも知れないですが、こちらは息子も一緒にいるので逞しく、明るいです。
本編の二人もこうなるよう祈って…。

リクエストありがとうございました!