太陽に近き、眩い陽光の存在を感じた。
【神の力】を、通してなお、
その身を保つ強靭な存在を。

落下する木の葉を私は掴み取る。
……そして願おう。雨雲の再来を。





「雨雲の賢者」



「ひああああああっっ!」
 バキバキ。ミシッ。ドサアアアアアアッ!

 ギアガの大穴から仲間達と手を繋ぎ、輪になって飛び込んだ。俺は女の子二人の間にホクホクと挟まっていたワケだけど、あろう事か突然の輪の崩壊。あれよあれよと風に揉まれ、俺は一人虚空に舞った。
 運よく木に落下して、一命を取り留めたワケだけど………。

 俺は見知らぬ世界にポツンと一人。ロンリーに涙した。(だぱー)
 あんなに一緒だったのに。待ってましたの元ニーズさんやペットのふにゅうちゃアドレス君も加わって、大賑わいの旅になるはずだったのに。


 アレフガルドの空は重たく暗く、異世界の迷子を全く歓迎してはくれなかった。乾いた山岳地帯が眼下に物寂しく広がっているばかり……。どうやら山上に町があるようで、案内の立て看板に従い、俺は独り坂道を登りつめた。



 ………なんだろう、この町………。

 訪れたメルキドの町は、思い描いた『町』の姿とは程遠く、戦砦のような高く殺風景な壁に覆われ、町の中も酷く装飾物に欠けていた。
 なんか、こう。もっと楽しい雰囲気があってもよくなぁい?(汗)

 どこの店も閉店。人が居ない。
 重苦しい壁を「すげえー!」と見上げる旅人に、「たいしたもんじゃないよ」と住人が背中を丸めて通り過ぎた。
「こんな城塞都市でも、大魔王にかかればひとたまりもない」
 見も蓋もない小言が、俺の気持ちを沈めてゆく。



 異世界だけど言葉は通じた。町の場所や状況を聞き、仲間を探したが手がかりは全く掴めない。夜が訪れ、飯と寝床を求めて宿に入ってみた。アレフガルドの金銭がなく、俺はつまみ出されて途方に暮れた。
 ……ど、どうするべ。住み込みの仕事を探すか、何か売るか。
 それとも親切な人に事情を話して、ちょっとだけ恵んで貰うか、貸して貰うか……。

 何件か当たってみたが、何処も人を雇うほどの仕事がない状況だった。



 まいったな……。非常食の乾いたパンをかじりながら、一人街角で座りごちた。
 空腹感は消えず、当てもなく、夜のメルキドを彷徨い歩く。
 下の世界、アレフガルドは終始夜に包まれた暗闇の世界。『夜』になると、一層空は黒一色へと変貌し、町は不気味な程にシンと静まり、歩く音さえ響き渡る。遠慮してなるべく静かに歩くも、途中から新たな目的に足が急ぎ、靴音が僅かに高く変わっていった。


 ポロロロロン……。
 歌が聴こえた。

 竪琴の音に惹かれて辿り着いた。
 殺風景な町の中央に残された憩いの泉。心地よいひんやりとした空気の流れに身を任せ、旅人は演奏家の前へと、おもむろに登場する。
 泉の向こう側に、男性とも女性とも見分けのつかない吟遊詩人が歌っていた。水面の色に近い綺麗な髪を風に揺らし、まるで泉の精霊が降臨したのかと聞き惚れた。
 銀色の竪琴が音を爪弾く。音色がホタルのようにフワフワ水辺を舞った。
 
 歌は、―― ラーの賢者の物語。



 パチパチパチパチ……!
 演奏が余韻を残し終わり、はっとして俺は一人手を慌てて鳴らした。吟遊詩人は竪琴を下ろし、柔らかく微笑む。思わず上気して、ふと、自分が慕う仲間の僧侶を思い起こした。 ……なんとなく、ジャルディーノさんに似てるんだ。

「こんばんは。私は旅の吟遊詩人、ガライです」
 口調まで、楽器が鳴るように、こちらを魅了する。やばい。俺ファンかも。(笑)
「すいません。お金持ってなくて……」
 ファンのくせに、おヒネリ一つも渡せない無一文の俺。
「お困りのようですね」
 路銀を何処かに落として、宿も取れず困っていると愚痴ると、あろうことか詩人は金貨を差し出した。初めて手にするアレフガルドの金貨三枚。うおおおおおおっ!
「すいませんっ!ありがとうございますっ!!」
 何度礼を言っても足りず、思わずその場でジャンピング土下座。絶対返すと心に決めた。吟遊詩人ガライは、俺の命の恩人となった。




 宿で数日、勇者を待つ日々が続いた。
 こういう時、多分動かない方がいいんだよね……。宿に人探しの張り紙を貼り、行商人にも配って貰うよう、頼み込んでは音沙汰がない。

 情報を求め、町を練り歩く間に、俺は一人の老人と親しくなっていた。


 城塞都市メルキドの変わり者。
 この町に【守護神ゴーレム】を生み出そうとする、熱き太陽神の老信者と。



 メルキドにて、ラーの賢者は力尽きた。
 神の生み出した存在ではなく、彼は人でありながら、太陽神に額冠を授かり、力の代行者となった者だったという。
 俺達の世界で言うところの、聖女ラディナードさんのような存在だね。

 大魔王ゾーマとの戦いに敗れ、このメルキドにて生涯を終えた。彼の神杖も額冠も行方不明だが、唯一遺された紅い宝玉     それがゴーレムの原動力とされている。

「スゲーよじーさん。一人でここまで造るなんてさ……。尊敬するよ」
 魔力を持った土を積み重ね、人型の人形が完成していた。レンガを組み合わせたシンプルな造形に目が二つ。胸の中央に紅い宝玉が埋まっている。
 目に光は無く、まだ動いたことは一度もない。

「ほっほっほっ。いつか必ず動かして見せるわい」
「俺にできる事なら何でもするよ〜!♪」

 じいさんの家に転がり込んで、研究や作業を手伝う毎日は楽しかった。アレフガルドの知識も少しずつ増えてきた。



 じいさんは、真剣な目で俺に語ってくれたんだよね。
 度々襲う魔物の目的が、ラーの宝玉にあるという事実を。
 逆手に取って、その力を【町を守る力】に変えようと決めた若き日のじいさん。
 ……感動するじゃん。

 脚立に上り、雑巾やブラシでゴーレムを掃除する手にも熱がこもる。バリアの結界に守られたゴーレムが、製作後「反応らしき反応」を示す事はこれまで無かった。
 俺が紅い宝玉に触れるまで      。

 事件は起こった。


==


「なんじゃ………!?」
 胸に嵌められた宝玉が閃光を放った。腕で光を遮り、研究者たるじいさんは像の足元にバタバタと駆けつける。
 紅の輝きはすぐに鎮まったが……。けげんに覗き込む俺を、歓迎するかのように宝玉は温かい点滅を繰り返してみせた。俺はおそるおそる脚立を降りて、まざまざと元凶を見張る、じいさんの眼前で苦笑い。
「ナルセスや!お前さん、一体何をしたんじゃ??!」
 泡くったじいさんが、ワナワナ震えながら俺を揺すった。

「別に何も……(滝汗)。雑巾で拭いたらピカーッ!!……と(滝汗)」
「………。まさか。お前さん、上の世界から来たと申していたな。一体何者なのじゃ?太陽神さまと何か関係がおありなのか?」
「いや………」
 老人の追及は鬼気迫る。えと、怖いから、じいさん。
「…えーっと、有るような、有るような。とっても有るような………」





 考えれば考えるほど、

 ありまくりでした



 いや、俺自身に何かが有るワケじゃないけど、友人であり仲間であり、崇拝するジャルディーノさんは【ラーの化身】なワケだからね。近い存在である俺を察知して、宝玉は光を発したのかも解からない。

「えっとね、じいさん。実は………。本当に秘密にして欲しいんだけど。まず信じないかも知れないけど、俺、太陽神様の化身とお友達なんだよね………(笑)。だからかも」
              

 暫くじいさんは、氷の彫像と化していた。
 …まぁ、無理もないか(笑)



 じいさんへの説明が始まり、イシスでのこと、商人の町でのこと、気付けば時計の針は昼へと位置を変えていた。興奮と、放心と、感動に打ち震える老人を残し、異界の旅人は買出しへと出かけて行く。
 平和な日常のはずだった。活気の無い町を買い物に歩くだけの。

 バサアアアアアアア。
 嫌な突風が視線を塞いだ。獣の臭いと、遅れて羽が周囲に舞った。開けた視界には、異様な殺気が満ち、俺は一気に顔が締まった。

「なんだ?魔物!?」
 バサアアアアアア!
 明らかに俺を狙った爪の攻撃。地面を転がり避けて、砂煙の中見上げれば、周囲の屋根に無数の紅い影がビッシリ並んでいるのに気が付いた。鳥類の魔物、メイジキメラが所狭しとこちらを睨み、奇声で威嚇してくるなんて。
「なんで……!いつの間に……!」

 メルキドは城塞都市。高い壁に覆われ、そう簡単に魔物の襲撃に晒されないはずであった。……だからこその鳥類か。壁を飛び越える鳥達の猛襲。
 メイジキメラは炎を吐き、すでにあちこちに黒煙が上がっているらしい。悲鳴を上げ、逃げ惑う町人たち。武器を手に、懸命に応戦する男達の姿も忙しく横切った。もう何度目だろうか、こんな襲撃に青ざめるのは。

 背中からホーリーランスを引き抜き、襲いかかるメイジキメラを叩き落とす。


「どうした、ナルセスや!」
 異変に飛び出した老人は、事態におののき、……すぐさま結論を導き出した。
「お前さんが狙いのようじゃ。中に戻るのじゃ!」
「え……!なんで俺!?」
 まさか、勇者一行の追跡か?みんな大丈夫なんだろうか。

 作業場のドアに俺を隠し、老人は口早に状況を語った。
「………。それはじゃな、 【雨と太陽が合わさる時、虹の橋ができる】。 ……という、伝承があるからじゃ!雨はこのメルキドに在ると言われておる。それが動き出したから、魔物たちが襲ってきたんじゃ」

 動き出した。
 ……そう、俺が、【動かした】。

 【雨】とは、ラーの賢者が持っていた雨雲の杖。宝玉はラーの賢者の額冠に、はまっていた物。


「魔物たちも感じたんじゃろうな、宝玉の胎動を。なんとしても阻もうと襲ってきたのじゃ。………。お前さんはここに隠れておれ。結界の中に居れば、なんとかなるはずじゃ」

「ちょっと待ってよ。俺、そうゆーの嫌なんだけど!」
 冗談じゃない。例え馴染みの薄い町だとしても、黙って隠れてなんていられるものか。
「戦うよ、俺。これでも勇者の仲間なんだ」
 いつからか固まった、戦いへの決意。いつまでも弱者のままでは居られない。そのための修行もダーマで終えてきた。多くの修羅場を越えて来たんだ。

 視界の先には黒髪の勇者。
 赤髪の太陽の化身。
 俺はあの人たちに恥じない【仲間】で在らねばならない。恐れはなかった。敢然と独り魔物に立ち向かう元商人。


 僧侶の法衣を整え、槍を片手に詠唱を始めた。
「バギマ……!」
 外に出て、突撃してきた数匹の応戦。城壁を越え、空より襲い来る飛行系の魔物たちは何処までも増え続ける。メイジキメラ、キメラ、ドラキーなどの総攻撃。城壁にも魔物が押し寄せ、門を破ろうと体当たりを繰り返した。
      ふと、『商人の町』の悪夢がよみがえる……。戦慄に足が止まり、膝が小刻みに笑っていた。


 あの時は、「メガンテ」の呪文でなんとかなった。好条件が重なり、奇跡的にも敵を追い払い、ジャルディーノさんに助けられ、こうして俺は生きている。     しかし、もう二度と使えない。今度こそ、俺の魂は崩壊する。
「…絶対、死んじゃダメなんだ、俺は……。太陽神様!力を貸して下さい!!」



「旅人よ     



 「……………!?」

 誰かが確かに呼びかけた。温かく柔和で、けれど決意に燃えた、真摯なる青年の声が俺を呼んだ。何故だろうか。俺にはそれが【誰】なのかがすぐに解かって振り返る。
       呼んでいる。俺を。

 声の元と踵を返した。扉を開け、研究室の中央をまっすぐに突き抜ける。脚立を昇り、ゴーレムの胸元に右手を伸ばし、玉を掴んだ。
 残っていた淡い光が、瞬間、爆弾のように破裂する。
 天井の高い研究室が紅に染まり、ラーの賢者の遺品はスルリと、俺の手の中に転がり落ちた。
 ドクン、ドクン。激しく全身が鼓動する。太陽が体内に生まれたかの様に、体中が燃えていた。
「じいさん!ちょっと借りてくね!」

 俺の傍で、誰かが微笑んだイメージが広がった。その存在感は、ふわりと俺の右肩後方に漂い、着いてくる。
 太陽神ラー様ではない。ジャルディーノさんでもない。
 俺を心より感謝して見つめる、温かい意識の固まり。

「………。賢者さん、すか」
 【彼】の意識が肯定的に微笑んだと理解した。


 外へ再び舞い戻ると、紅玉の光が集束し右へと伸びた。俺を何処かに誘うらしい。導かれ走ると、町の唯一の清涼所。吟遊詩人と出合った泉の前へと躍り出た。

 泉から、水飛沫が持ち上がり、宙に留まった清水は一振りの杖の形に姿を変えた。杖は露気を帯びて、フワリと俺の前へ降りて来る。
「なんだこの杖?くももっくー!」
 棒の先に雲をくくりつけたような、可笑しな形状の杖は、しっかりと俺の右手に収められた。雲はもくもくと静かに、生き物のように波を打つ。

おっしゃああああ!……って、貰ったはいいけど。どうやって使うんだ、これ?(笑)」



「ラーの賢者は後継者を待っていたのでしょう」
 歌が聞こえた。そう、まさに歌。
 いつの間にか、出会った場所と寸分違わず、あの吟遊詩人が座っていた。中世的な装いに、神秘をそのまま纏いながら、夢のように優しく微笑む。竪琴を爪弾きながら、彼の歌は過去を詠んだ。

「ラーの賢者は、このメルキドで力尽きました。ラーを庇い、ラーを守って倒れた、ラーの親友。ラーは、彼を賢者にしてしまった事を、後悔していました」

 ポロリン。ポロリン………♪

「その後、孤高であることを心に課していたラー。妹ラーミアとも接しようともせず。……けれど、彼は寂しかったのですね」

 孤高の太陽神様。そして重なる赤毛の少年僧侶。

「ラーは、人が好きでした。人とやはり、友達になりたかったのです。【従者】ではなく、【友達】です」
 優しい微笑みの裏に、見える彼の孤独。寂しさ。悲しみの影。
 それはずっと、出会った時から消えないもの。
 おそらく永遠に、消えないものなんだ。


「寂しいこと言うなぁ……。ジャルディーノさん……」
 振り返り、ラーの賢者と頷き合った。
 俺たちの心は、信仰は、思う友は【1人】だけ。

「貸して下さい額冠」


 賢者との波長は完全にシンクロしていた。
 もう、俺には吟遊詩人が「誰か」なんて解かってる。アレフガルドを巡るための偽名だ。この方は紛れもしない、夢の神。
 吟遊詩人ガライ=夢神ルタの手に窪みの開いた額冠が現れた。

「ラーより預かっていた額冠です。……正式には、放棄しようとしていた物ですが。貴方は、【賢者】になりますか」
「はい!」
 空いた窪みに宝玉を嵌めこんだ。

 電撃のような痺れが奔り、遠く離れた、ジャルディーノさんの意識に触れる。
 俺の状況を彼が知った。
 ……なんで、哀しそうな顔をするんですか?貴方だって、戦っているじゃないですか。
 少しは頼って下さいよ。
 信じて下さい。
 

 あなたは世界の太陽だ。とても強く優しい人です。
 でも、陽光を雲で隠して、時には泣いたって構わない。俺が雲だ。涙を隠す黒い雨雲。貴方を助け、休ませ、潤し、バランスを保つ役割なのが自分=賢者。


 「友情パワー!メーイクアーーーップ!!」


 紅い宝玉閃く、賢者の額冠を装備した。
 全身が光に包まれ、力の渦が上昇し、髪が逆立ちマントが暴れる。美しい蒼いマントがふわりと降り、白い飾り気のない聖衣に俺の姿は変わっていた。
 聖気が漲る。太陽の力が両手から溢れて止まらない。

「うおりゃあああああああ!!」

 シンクロする賢者の記憶が、呪文を導く。真空の呪文、火球の呪文。なんでも知ってる。なんでも使えた。
 複数の怪我人だって、同時に治せちゃうなんて♪

「この杖は、神に与えられたものではありません。私が望んで、神のために、神の力で生み出した神杖です。どうか太陽神さまのために、使ってください」


 俺に寄りそう、先輩賢者がそっと願った。
「わかった!ナルちゃんにお任せ!」
 杖を振り敵に突き出す。

「メラゾーマどっかああああああああーーーん!!」
 俺はとにかく絶好調だった。
 凄まじい火球を飛ばし、複数の魔物を炎上させる。しかし数の多さに閉口すると、賢者が【杖】の使い方を教えてくれた。

 雨雲が渦を巻いた。吹きすさぶ風が小さな竜巻たちを生み、嵐となり、メルキドの町を覆い守る。そう、嵐は町から異物を放った。
 雨に風に、闇に魔物は悲鳴をあげて瞬く間に霧散した。

 ラーの賢者の復活だった。


++


「ラーは、いい友を持ったのですね」
 魔物が去り、雨は優しく、シトシトと町を癒すように降り注いでいた。
 火災も見えない。怪我人を救助して回り、さすがに疲労で帰路についた、俺の眼前に吟遊詩人が出現する。
「ラーをよろしくお願いします」
 微笑みに、深く深く頭を下げた。いや、思い改めて、跪いた。

「私は、探し物の途中なのです」
 唐突に、夢神ルタ様は視線を流した。
「マイラという村に、行こうと思っています」
 確か、遥か北東の森の中の小さな村だ。温泉が出て、最近訪れる者が増えたとか。近くには妖精神ルビスの封じされた塔があると聞いている。

「一旦、夢の世界に戻りますね。勇者たちは、まもなくここへ着くでしょう」
「本当ですか!わかりました!」


 お言葉の通りに、勇者一行はその数日後にメルキドへと到着した。
 どうやら、俺が追い返した魔物の残党に遭遇していたらしい。……うん。また嵐で追撃しておいて正解だったね(笑)
「ナルセスさん……。賢者になったんですね」
 仲間達が俺の姿に驚く中、当事者ジャルディーノさんは独り、苦笑めいて俯いた。両手をがしっと握りしめ、後悔を吹き飛ばす勢いで、満面の笑みで歯を見せた。

「なりました!よろしくお願いします!!」


 見えるでしょうか。俺の後方の賢者さえも。
 彼もきっと笑っている。




「………………」
 俺とジャルディーノさんが談笑する中、ふと仲間の輪を外れ、神妙な面持ちで荷物に手を伸ばす少女の姿に気がついた。ポニーテールが目印の、快活僧侶のサリサちゃん。
 無事を喜び合い、賢者となった事へのお祝いメッセージ飛び交う中、彼女の心象は複雑なモノなのか。
 荷物の中に、何かがキラリと光りを放つ。
 厳格な聖光に包まれた、眩い宝玉の額冠だった。
 

 アレフガルドに、優しい雨が降り注ぐ。





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