「集束」 |
「おのれ、貴様っ……! 我を跳ねのけるとはぁぁぁ!」 「行こう、ニーズ。……力を貸して!」 【勇者】の肉体を失い、大魔王ゾーマは実体のない、闇(影)の集合体として蠢いていた。 未練がましく勇者のシルエットを残したまま……。 人外たらしく、その手やマントは、いかようにでも変容、伸縮する。巨大な「あやしいかげ」のようになり、勇者一行を追い立て始めた。 周囲は度重なる氷呪文や吹雪により、極度に寒く、床も壁も凍っていた。勇ましく吐く息は白く、前髪も凍っている。 震えては居られなかった。 僕に、もう、迷いはない。 隣に、信頼する弟勇者。反対側には、頼りになる賢者が僕を支えてくれる。 砕け散った刀身に替わり、光る刃と変容した吹雪の剣、改名、光の剣を手に、体を再度乗っ取ろうと伸びてくる、闇の手を何度も斬り落とした。 バスッ!……バシュ!ズシャアアアッ! 斬り落とされた影は、そこからも意志を持ち、単独でもマドハンドのように動き始める。 手だけで僕の足を掴み、腕を掴み、本体へ引きずり込もうと、強い力で引っ張ってくるんだ。 「…………っ!ぐああああああっ!」 「ニーズさん!」 幾らか引きずられている。すかさず賢者は杖で叩き落とし、「ニフラム」の呪文で、周囲の影を焼き払った。両断された闇の腕は、ゆるりと新たな手を生やし、執拗に迫り来る。 闇の狙いは、……【僕】一人に集中していた。 「コイツら、ニーズだけを狙いやがって」 青い鎧のニーズが間に入り込み、王者の剣で無数の腕を斬り払う。 増魔は、空間ごと、揺さぶるように低い声で提唱してきた。 「……逃げられると思うな。 お前は、私のものだ……!」 「消え失せろっ!」 そのまま、青き勇者が奔り込み、本体を頭から真っ二つに斬り落とす。 割れた体は、数歩下がった弟の目の前で、ぐにゃぐにゃと震えたかと思うと、再びくっついて元の姿に形を整えた。 ゾーマシャドウの口が、大きな穴を開け、吹雪の呪文が炸裂した。 「マヒャド…!」 腕で身構えて、押されて、後退。 加護のついた衣服でなければ、凍死していたに違いない……!燭台が、壁の装飾、紅い絨毯、全てが凍り付き、吹き飛んで、叩きつけられ、崩壊してゆく。 ひたすらに、冷える。魂から底冷えする。 朝の来ない世界の、光の無い世界の、更に地の底。濃い闇、深い深淵。 賢者が、効果は薄いが、魔法の光で辺りを照らし、散った僕たちを探して回った。 「よこせ。戻れ。 その身体を捧げろ……!」 「コイツ、しつこすぎるだろ!」 「元ニーズさん、下がりましょう」 空間が、この階層自体が、形成が危うくなって来ていた。増魔の塊が、壁や床を破壊しながら進軍する。 再度、呪文の気配に戦慄した。 「マヒャド…!」 「マホカンタ!」 弟は勇者の盾、賢者は呪文で氷魔法を反射する。 防いだものの、衝撃で後方へ。息を整え、回復呪文を受けて、前方を睨むと、言いようのない悪寒が地の底から振動してきた。 ズアアアアアアアアツ……! 「…………!!」 「……なんだ、今のっ!」 悪寒で全身を舐められたような、総毛立つ波長。今、何かが通過した? 賢者ワグナスは、すぐに察した。全ての呪文の効果が消されている。 「いてつく波動……。呪文の効果が消されていますね」 そんな事ができるなんて。聞けば、一度ユリウスも使った事があるらしい。 戦慄する間もなく、相手は次の呪文を詠唱し始めている。弟は再度盾を上げ、賢者は決死の高速呪文。 「マヒャデドス!」 「マホカンタ!」 「ぐあああああああああっ!」 聞いたことも無い、更なる強度な氷呪文。 誰の悲鳴とも解らず、かろうじて反射したにも関わらず、氷と吹雪にまみれ、錐もみして吹き飛ばされた。数秒、意識は消えていた。冷たいより痛い。痛い。寒い。 体が、動かない。 「元ニーズ!」 誰かに、受け止められて、痛みに身をよじって呻いた。溌溂とした逞しい声、僧侶を呼んで回復を促す、相手はアリアハンの戦士。 「大丈夫ですか、元ニーズさん」 温かい回復呪文に、視界を開いた。後方で戦っていたのだろう、戦士アイザック君と、僧侶ジャルディーノ君の二人が、心配そうに僕を抱え、覗きこんだ。 ああ、来てくれたんだね……。 弟だけじゃないんだ。助けに来てくれたのは。 ただ、ひたすらに感謝する。 僕はずっと、彼らに『壁』を作っていたのに。一人、勝手に闇に堕ちたのに。 「ありがとう。アイザック君。ジャル君。来てくれたんだね」 差し出された手を取り、立ち上がった。 僕を見つめる戦士の、所作が一瞬、硬直している。 「……。お、おう……!」 僕の恰好や、雰囲気が変化していたせいだろうか、少し驚いた表情。 彼は勇者の【変化】に、一瞬面食らった。 赤毛の僧侶、ジャルディーノ君は、目が合うと、いつものように微笑む。まるで、「信じていました」と、告げるような眼差しで。 こんなに、寒い、氷点下の世界なのに、 太陽神の傍は、ほのかに温かい気さえ起こるんだ。 「皆、無事かっ!」 横から、瓦礫をかきわけ弟が、賢者ワグナスを連れて駆け寄った。遅れて、後方に控えていたらしい、サリサちゃんが合流する。 彼女は、象徴的だったポニーテールを下ろし、額冠と外套という、ミトラ賢者の姿と変貌を遂げていた。その美しさに、一瞬目を奪われた。 ランシールで見た聖女とも見まごう、凛とした佇まい。 聖なる神々しさに、金の少女は満ち溢れていた。 「サリサちゃん、………。賢者になったんだね」 「あ、はい……。あ、アドレス君を救うためです!」 「皆さん、下がりますよ!」 仲間の合流に和みかけるが、会話は後退しながら。 僕は、自分が一人、宿を抜け出してからの、経緯を手短にサリサちゃんに教えて貰った。 僕を追って来たアドレスが、魔法使いシーヴァスを咥えて、飛竜の姿で飛んで来たこと。瀕死の彼を助けるために、賢者の力を求めたこと 「アドレス君は無事です。貴方の帰りを待っています。……本当に、本当に、良かった」 どれだけアドレスが、竜の生き残りの彼が、僕を大事に思っていてくれたか知っている。涙ぐむサリサちゃんを横目に。 あの勇ましく、豪胆な双眸が浮かんで、心の中で泣き崩れた。 ああ、アドレス、ごめん。ごめんね……。 後悔と、謝罪しか思い浮かばない。 「あのカバは倒したんだな?」 「ああ、リューの仇は取った!」 激しい戦闘の痕を横切りながら、弟と戦士の会話が耳をかすめた。 「……魔王バラモスが、居たの?」 それらしき、魔物の血痕を踏み越える。 「はい。私たちが倒しました」 大魔王ゾーマを守る壁として、復活した魔王バラモスが待ち構えていた。憎き、上の世界の魔王。ネクロゴンド崩壊の元凶。戦士アイザック、賢者サリサちゃん、僧侶ジャルディーノ君が撃破を果たした。 「……ありがとう」 リュドラル、君の仇を、仲間が倒してくれたよ。 「皆さん、上へ!もう、ここは崩れます!」 最後尾から、賢者の指示。地下に埋もれては戦えない。 闇の手や激しい吹雪、氷魔法に追い立てられながら、階段を駆け上る。 リレミト(脱出)の呪文もあるが……。まだこちらに向かって来ているであろう、二人の仲間が合流してから。シーヴァスとナルセス君、二人の姿を探しながら、フロアを戻る。 何度も反射魔法、吹雪防御の呪文をかけても、何度も何度も、かき消された。繰り返す追撃に、補助なくして耐えられる攻撃ではない。 「ごめんなさい。再度、保護をお願いします」 魔力も、無限ではないのに。 例えルビス神の賢者であっても、ミトラ神の賢者であっても、太陽神ラーの化身であっても。 気後れしていると、赤毛の僧侶は軽く応える。 「勿論です。そんな、気を使わないで下さい」 フバーハ2回と、マホカンタの呪文。 「何度でも、貴方たちのために、道を作ります」 ……ずっと。ずっと。 アリアハンで出会った頃から。 僕のために、見守ってくれていた。 「感謝します。太陽神ラー。ジャルディーノ君」 「あっ!ニーズさん達!戻って来たんですかっ!?」 地響きに揺れる廊下を駆けながら、モンスターと戦闘中の仲間に遭う。 商人→賢者となったナルセスくんと、エルフの魔法使いが大量の魔物に囲まれ、往生していた。大きな外傷等は見えず、ひとまずは、二人が無事で安堵する。 だが、どうやら魔物たちの様子が普通ではなかった。 明らかに凶暴化し、禍々しさが増している。迫り来る大魔王の膨張に、呼応しているのが明らかだ。 「元ニーズさんは取り戻しました!ゾーマが暴れてますので、一旦地上へ出ましょう。ここは崩れます!」 例によって賢者ワグナスが、しんがりより状況説明。 リレミトの呪文を唱えようと、皆を集合命令する。 周囲の魔物たちも、構うだけ消耗するばかり。 退避に気づいたか、地下からの、おぞましい雄叫び 「!?……っくあああああっ!」 身の毛がよだつ……!全員が跪き、身動きが出来なくなった。 完全なる全身マヒ。 骸骨の魔物や、ライオンのキメラの魔物が、仲間たちに襲いかかる。動けず、いいように攻撃されて、周囲の壁に滴る血飛沫。 その、魔物たちが、不気味に伸びて来た、シャドウゾーマの手の中に吸収された。声も無く、魔力の糧として呑み込まれ、シャドウゾーマは一回り拡大し、勇者の胴をわしづかむ。 「このクソ野郎がああっ!」 弟勇者の、ブチ切れ斬撃。マヒが解け、闇手を叩き落として、怒りに吼える。 どんどん、膨らむ。闇だけの塊。周囲の魔物たちを吸収し尽くし、もう竜サイズを超えていた。回廊に収まらず、建物を崩壊させながら進行する。腹から下がどうなっているのか、目視もできない状況だった。 まるで黒いマグマだった。 飲み込まれたら、養分とされる。 形を取るために必要な、『勇者』の肉体だけに固執する。 ガラガラガラ……! ズドドドドドドド……! 下の階層が、完全に崩れ落ちた。 全員、リレミトで、玉座へと移動した。 猛襲に満身創痍でも、冷静に賢者が呪文行使してくれた。 「…外じゃないのか」 移動先を、弟は確認。 「ええ。ここで迎え討ちます。…と、その前に」 忙しく賢者は動く。ナルセス君に、眠っていた竜たちのバシルーラを。他の周りのモンスター達も、全て飛ばすように指示。邪魔だし、ゾーマの魔力をなるべく増やしたくはない。 ついでにバシルーラによって、あらかた玉座の天井も開いた。もうこの城は要らない。天井もろとも魔物を吹き飛ばす。 暗黒の空を仰ぎ、来たる大魔王の襲撃を出迎える。 バシルーラ隊以外は、急いで、傷の手当て、水分の補給、作戦の伝達。 「無事で良かったです。お兄様」 準備をしつつ、エルフの魔法使いは兄の傍へ。 「ああ。こっちは問題ない。あの、竜はどうなった?」 入り口にいた、魔竜の姿が見えなかった。 「……。すみません。こちらは、救うことができませんでした」 「そうか。仕方ない。俺たちが遅かった。辛いことさせたな」 「……いいえ。いいえ。大丈夫です」 大魔王城、門前にいた魔竜は、死神の弟、魔法使いファラだった。 人と和解するよう、説得を試みたが、彼は呪いの果てに潰えた。 傷心の妹に、ニーズは気づかい、肩を抱く。 「…………」 時間は、ない。 「勇者様、ケガは大丈夫っすか?」 ナルセス君が戻って、様子を伺ってくれる。賢者となったサリサちゃんも、保護の呪文をかけてくれた。 「ありがとう、ナルセス君。サリサちゃん」 それは、呪文だけではなく。 作戦の数秒前、けれど、きちんと言っておかねばならなかった。 「ありがとう、みんな!…そして、ごめん!皆でゾーマを倒そう!」 皆に迷惑をかけた。全員に向き直って頭を下げた。 そして、協力を願う。 「おう!もちろんだ!」「はい!」様々な返事が返ってくる。 大魔王が近づいてくる。 戦闘配置に入りながら、僕は、エルフの魔法使いの横に並んだ。 「……ごめん」 小さく。彼女だけに、聞こえるような、一言。 今は、これだけ。後は、戦いの後で。 |
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「いいですね、力を集めますよ!!」 玉座裏の隠し階段から、シャドウゾーマが押し出されてくる。 賢者ワグナスの号令により、ギガシュラッシュ作戦が決行される。 サマンオサの市街戦しかり、光(雷)の力を剣に集め、打撃として打ち込む大技。 僕の横で、魔法使いシーヴァスは、いかづちの杖を掲げ、天より稲妻を呼び起こす。 続いて、自分も両手を掲げ、光を呼んだ。 「空を裂き、大地を貫け!竜と神との光の閃光よっ! 闇を屠る嵐となれ!」 「 空にて、光の嵐が渦を巻く。 何本も地を穿つ、稲妻の槍がほとばしる。 神の剣、三振り。王者の剣、隼の剣、ゾンビキラー。 携えた三人が受け止め、衝撃に足を踏みしめる。 バイキルトも二段階つき。スクルトもピオリムも、フバーハも二段階。 「うおらああああああっ!!] 玉座の床が押し破られ、ゾーマシャドウが姿を見せる。すでに巨大な闇のドロヌーバのように変貌していた。先陣切るのは隼の戦士。 その高速二連撃で、玉座一帯が弾け飛ぶ。 「えええええええっ!?嘘でしょおーー!?」 落ちながら、しかし、この力を無駄にする訳にはいかない、賢者サリサは意を決して、ゾンビキラーを振りかざした。 「……。もう、全て、浄化して下さい!消えてえええ!!」 邪悪なマグマに、刻む聖なる力。焼き焦げ、浄化されるように、更に地下まで抉られた。 波動で大魔王城が、ガラガラと崩壊を始める。 アレフガルドは、すでに世界中が、地響きに激しく揺れていた。ラダトーム城下で、対岸の荒れ狂う空に民が指をさす。勇者が戦っているのだ、知った民は祈りを捧げる。 「…………」 最後に落ちながら、剣を構える青い勇者は、雷を受けた時、重圧ではなく、剣の喜びに衝撃を受けた。王者の剣は、喜んでいた。 「…そうだな。これは、そのための剣だ」 過去には、折れてしまった。 もう、折れない。 凄まじい光雷を受け、ためても、一切の重圧がない。むしろ、ずっと待っていたんだ。 光=勇者をずっと待っていた。 「食らえええーーーーっ!!!」 大地に、刻まれる、亀裂。 おたけびとも、地響きとも、轟音とも感じる衝撃。反動。 地の底の底まで、アレフガルドの底辺まで到達する。 空は、裂けた。地も裂けた。 世界の裂け目に、落下してゆく。 落ちる。 ルーラや、バシルーラの呪文で地上へ戻る。 戻れない。 いや、呪文は発動しても、負けるんだ。出ようとする力より、引きずり込む力が強い。 「グゥオオオオオオオオオ……!!!」 巨大な、闇の穴。 ギアガの大穴のようだった。 いや、全てを飲み込もうとする、闇の【口】。呑み込まれる。 落ちる! 「くっ!ああああああああっ!」 ジャル君が、太陽神ラーとなりて、全員をバシルーラで飛ばそうと懸命に発光している。魔法使い陣は、誰もが呪文で抵抗していた。 けれど、負ける。 「くそっ!どうする…!」 最下層で、落下に耐えていた戦士は、隼の剣で、闇の波動を乱切りしながら、ふと、剣以外に、まばゆく輝く自分に気がついた。 自分じゃない。 (アイザック!今行くね!) 声が聞こえた。 お守りと、月の弓の欠片が輝いていた。この常闇の中で、あまりにも強く。 神の鳥が、光に包まれ、戦士を乗せて上昇する。 「ラーミア!来てくれたのか!?」 (ユリウスを倒してくれたから、力が戻ってきたの) …そう、彼女は、死神に翼をもがれて、ランシールに待機していた。 下の世界に勇者が旅立つのに、悔しい思いをしていたに違いない。ユリウスに奪われた力が戻るや否や、すぐに飛び立ち、駆けつけてくれた。 上昇しながら、他の仲間たちも拾ってゆく。 賢者サリサ、弟のニーズ、そして、僕を乗せて。 (それからね、お父様が) 戦士アイザックにのみ、思念で会話をしていたラーミア。 主神ミトラが、この決戦に助け舟を出してくれていた。 言われた通りに、戦士は、月の弓の欠片をポケットから取り出した。 月の弓の欠片が、再生してゆく。 弓の形を成し、それを行使する戦士まで。 「……………っ!!」 ラーミアの背で、驚きに言葉を失った。 「…ありがとう。欠片、持っててくれて。おかげで、戻ってこれたよ」 バラモスを倒したことで、あの日、失った「王子」が還ってきた。わずかな光に包まれて、弓と共に神鳥の背に降臨する。 「…リュー!!」 アイザック君が、しがみついて、喜びを噛みしめる。 僕も、わなわなしながら、泣くしか、なくなって。 僕には、リュドラルの方から、抱きついて来た。 「…すみません。離れてしまって。最後までお供します」 そんなこと、どうでも良かった。 良かった。もう、それだけで、良かった。 下方から順に、仲間を拾ってゆくが、さすがに全員は定員オーバー過ぎた。 背中の鞍、翼の上などに捕まりながら、上空へ逃げる。 見下ろしながら、ラーミアの横に、光の魔法陣が浮かび上がった。 「ミトラ神の陣です。こちらを足場にして下さい」 リュドラル王子は、ミトラ神より伝令を受けていた。 賢者ワグナスが乗って、その後に仲間も続いた。 下が透けて見える光の陣で、最初は怖いけれど、立てば安定している。揺れもない。 「ニーズさん達は残って下さい」 言われて、僕たちはラーミアの背に残る。 「あと、できればアイザック、いい?」 「了解!」 「僕が避雷針を撃ちます。そこに、皆さん、ありったけの【光】を撃ち込んでください」 ゾーマシャドウは、穴の中に巨大な影として形作る。角の兜と、襟の広いローブのシルエットのまま、竜のように肥大している。 口から猛吹雪を吐き、ラーミアは滑空して回避。ミトラ神の足場も揺さぶられる。 足場は、その場固定。移動はできない。 故に、攻撃の要はラーミアの搭乗だった。 「ミトラ様、感謝致します。ミナデイン作戦ですね」 全員で撃つギガデイン。命名ミナデイン(BYワグナス)作戦が始まった。 戦士アイザックがリューを支えて、避雷針を撃つ。 ゾーマの兜の、眼のあった部分に、月弓の矢が突き刺さった。 ゾーマシャドウは苦しそうに叫ぶ。アレフガルドに振動が響く。 「私の全ての力、お兄様たちに、預けます!」 魔法使いシーヴァスは、いかづちの杖を掲げ、雷を呼び、そして魔力の全てを注ぎ込む。 「もってっけーー!」 雨雲の賢者ナルセスも、空にたまる雷に、全魔力をつぎ込んだ。 「ミトラ様、ありがとうございます。私も、全て出し切ります!」 膝をつき、懸命に祈りをささげる、賢者サリサ。 「いきますよ!」 「はい!」 ルビスの賢者と、太陽神ラーの膨大な魔力も加わる。 「俺の魔力は、たいしたこと、ないだろうけど」 ニーズも、全ての魔力を僕に捧げた。 「……俺、魔力ないんだよな」 悔しそうな戦士に対して、 「僕もだけど、大丈夫」 魔法使えない組、相方は、意気揚々と微笑む。 「アイザックは、その溢れる体力を魔力還元しよう」 そんな事を、ミトラ神がしてくれるらしい。 「それなら!気合だああああっ!」 みるみる、僕にも力が湧いてくる感覚がある。リュドラルの力も加わって。 「……ありがとう。みんな」 ギガデインの呪文で、光を召ぶ。 大きい。あまりに巨大な、光の嵐を制御できない。体中の皮膚が、血管が、細胞が破裂しそうだ。 僕の両手に、青き勇者も両手を重ねた。 雷の制御法など知らなくても、竜の力なんて無くても。 それだけで、【力】になる。 ……そうだね、ありがとう。 僕らは、【二人で一人】だ。 鞍に引っかけた足を、落ちないように、しっかり抑える、アリアハンの友人二人。 ラーミアも、なるべく揺れないように、静かに旋回してくれている。 伸びてくる闇の手も、吹雪も懸命に回避する。 不意に、体が、軽くなる。 もう一人、僕ら二人の、肩に手を添えてくれたような。 激しく荒ぶる光の空を、マイラから見上げていたジパングの娘。 大魔王の城から振動し、ラダトームを越え、海を越え、マイラにまで、地の底の蠢動は伝わり来る。激しく空が、火花を散らしている。 その真下に、勇者たちは戦っている。 「二人のニーズ殿……。私が、二人を守ります」 「ミナデイン……!!!」 ラーミアも、ぎりぎりまで近くへ寄ってくれた。 放つ、全ての光。 眩しい、光の束。空を何度も迸り、光の槍の大群が、何度も地の底を叩きつけた。 闇が、全て消える。 衝撃に吹き飛ばされる。意識を失う。 光の嵐に、増魔は霧散し。 神の鳥も、光の足場も見えなくなった。 最終戦の外側から、全てを見守っていた精霊神ルビスは、勇者達の無事を確認後、そっと、その地に蓋をした。 そして、アレフガルドに、全ての浄化をもたらす。 |
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遠く。遠く。 残響のように、声は記憶に、くさびを残した。 「よくぞ、我をたおした……。 だが、光あるかぎり、闇もまたある……。 我は、闇は、必ず、……」 ああ、消える。フラウスも……。 闇は遠ざかる。もう、届かない。 こんな僕を、許す微笑みに、僕は気がついた。 「…いいのですか?」 「いいと思います」 …ああ、感謝します。 「僕は、闇も愛してしまったから。闇と共に、生きていけると思います」 どこかの土の上に、横たわっていた。 場所に、見覚えはあった。確か、勇者の盾のあった洞窟。 隣に、細いエルフの娘が倒れている。 軽く呼びかけると、彼女は瞳を開いた。 「おにい、さま……」 「……。そう。もう一人の、君の兄だ」 手を取って、共に立ち上がった。 一度は「兄」と呼ぶなと、拒絶した。もう、彼女を傷つけない。 手を繋いだまま、歩く。後方で彼女が、泣いている。 一番の罪人は、僕だ。 オルテガを殺した、その事実は変えようがない。 忘れるわけじゃない。 この罪を。胸に抱えて、僕は生きる。 母に謝ろう。父にも、謝ろう。 彼女も一緒に、墓参りに行こう。 仲間たちも、皆、全員無事だった。 洞窟から出て、世界は、とても静かだった。 やわらかい、風が吹く。まるで、歌っているようだった。 うっすらと、世界が明るい。 遠くの山並みから、朝日が差し込んだ。 上の方で、何かが閉じた音がした。 仲間たちは、皆くたくたで、座り込んでは、肩を抱き合って喜び合った。 一人、朝日に立ち尽くす賢者ワグナスは、感動に、流す涙を隠している。 朝日を受け、背中越しに、僕たち二人に敬服する。 「勇者ニーズ、心より感謝しています」 眩しい。 眩しすぎて。 言葉もなく、僕は輝く世界を見つめていた。 アレフガルドの全てが、人々が、草や、花や木が、 世界中が息をひそめて、朝日の訪れを歓迎していた。 アレフガルドに、朝が訪れた。 |