ふんばりの詩@
(TVアニメ最終回からです)







「遊びに来いよ」
そう葉くんが言ってくれたから。
僕は初めて日本の、葉くんの家に遊びに行った。

旅館だったところを借りたと言う話で、一緒にアンナさんもいるらしい。温泉もあるし部屋も余っているから気にせず来いとの事だったんだけど・・・。


「おう。よく来たな。リゼルグ」
あの戦いから数ヶ月、なつかしいゆるやかな笑顔にまた会えた。
「久しぶり・・・。葉くん」

玄関の奥、廊下の壁に寄りかかって腕組みするアンナさんに僕は一瞬ひるんでしまった。
「いらっしゃい」

・・・苦手なんだよね。この子・・・。
僕はかなり怯えながらも微笑んだ。

「後で竜も来てな。お前のためにすっげぇご馳走作るって言ってたぞ」
僕の荷物を運びながら、葉くんは竜さんの料理の腕前を説明してくれた。
「それは楽しみだよ」
「おいらも少し手伝うぞ。いつも飯作ってるからな。結構うまいぞ」

いつも?あの子じゃなくて葉くんが作ってるの・・・?ますますよくわからない子だと思ってしまった。

日本の旅館らしく、質祖で静かで、僕は葉くんに出してもらったお茶で一休みしていた。
「元気だったか?それからどうしてたんだ?」
「元気だったよ。探偵の仕事とか始めて・・・」
葉くんもちゃぶ台の向かい側で熱いお茶をすする。

「そうか。おいらは普通に学校行ってたぞ。勉強がわからなくてなー」
ちゃぶ台に顎をのせてぐったりした葉くん。シャーマンファイトのせいで勉強が遅れて困ったなんて愚痴をこぼす。
「英語とかなら教えてあげられるけどね」

興味があったので日本の学校の教科書を見せてもらったり。英語なんて簡単だったので読んであげたりした。
「おおっ!さすがになんだか発音いいな!リゼルグ」
「・・・あはは。当たり前だよ」
「おいら数学も駄目なんよ。そういえばプリントあったんだよな。いつもまん太と唸りながらやってるんだ」
「数学ね・・・。見せてみてよ」

「おおっ!すっごいなリゼルグ!頭いいぞお前!」
問題解いてる僕の横に来て大喜びしてくれる葉くん。
・・・なんか楽しいな・・・。
「この位なら解るよ。いい?良く聞いてね。簡単に説明すると・・・」
「おお。うん。なるほど。そうか!すごいなリゼルグ!」

僕の肩を揺すって葉くんは満面の笑み。
・・・こっちのほうが嬉しいよ。


「葉。買い物行ってきて」
いきなりふすまが開いた。アンナさんがお財布と買い物するもののメモを書いた紙を投げてよこす。
「リゼルグ、一緒に行くか。途中みやげものとか見に行こう」
「うん」
葉くんは慣れているのかすぐにメモとお財布を持って立ち上がった。すぐにアンナさんは何処かへ行ってしまう。

葉くんの住む町は素朴で静かな町だった。田舎・・・?と言うのかな。
葉くんは寄り道したおみやげ屋が好きなのか、何を見ても嬉しそうだった。
「やっぱキーホルダーかなぁ。リゼルグ何か買ってやるぞ」
「え・・・?」
たくさん下がっているキーホルダー。その種類の多さに僕は戸惑って口に手を当てて考え込んだ。
「・・・あ、でも、いいよ?自分で買うから・・・」
「遠慮すんな。せっかくお前が来てくれたんだから。記念だ。何でもいいぞ」
と、言いつつも、こっそり耳元で「アンナには内緒な」と頼み込んだ。
「あ、キーホルダーじゃなくても、耳掻きってのも定番だぞ。おいら耳掻きしてやるぞ」

キーホルダーの横に竹細工の耳かきなどもたくさん置いてある、そこに移動して葉くんは勧めた。
「み、耳かきって・・・」
思わずうっかり赤面してしまった。だって、み、耳かきだよ?!
お母さんがいなくなってから自分でしかしたことないよ。

僕はもう嬉しそうに勧める葉くんが嬉しいやら恥ずかしいやらで、結局両方買ってもらってしまった。もちろん安いものを。

小さな木彫りの葉っぱと、いい音のする鈴のついたキーホルダーと。
先に風車の飾りの付いた耳かき。

「温泉入ったらその後で耳かきだな〜。買い物行くかっ」
なんとなく恥ずかしくて目を逸らしがちな僕、手を引いて葉くんはどんどん歩く。

食品売り場でカゴを持って、メモの物を選んで持ってくる葉くん。僕がカゴを持ってあげると手の開いた葉くんは真剣に食材選びに没頭していた。
「なぁ、リゼルグ。今日の肉どっちがいい?」
「どっちでもいいよ。僕は」
「うーん・・・。悩むなぁ」
「デザートは?果物とか好きか?」
「なんでも好きだよ」
「なんでもかぁ・・・。迷うなぁー」

「葉くん、いつもここで買い物してるの?」
「そうだぞ」
この場所も、素朴で、なんだか「らしい」。気が付くと、葉くんは試食コーナーのおばさんに捕まっていた。
「うん。うまいな。このハンバーグ」
「新発売ですのよ。そちらのお客様もいかがですか?」
「リゼルグ、うまいぞ」
「・・・・・」
苦笑しつつも・・・。いいや、葉くんの流れに飲み込まれよう。
「美味しいですね」
「ありがとうございます」



買い物から帰ると竜さんやまん太くんが来ていた。
竜さんに泣いて歓迎された後で(笑)皆で一緒に夕食の支度をして、噂どおりの竜さんの腕前に驚いていたりした。

「よし!次は温泉だな。気持ちいいぞ!」
「竜とまん太は後片付けよ」
4人で行こうとするとアンナさんが二人を止めていた。

「葉は客の案内よ。今日は後片付けはいいわ」
「よし。行くぞリゼルグ」
案内されながら、僕は台所を振り返っていた。アンナさん、気を使ってくれてるのかな・・・?


小さいながらもお風呂はちょっとした露天になっていて、綺麗な星空が見えて僕は歓声をあげた。
「へぇー・・・。いいね。気に入ったよ」
「へっへっ。いいだろ」
温泉に浸かって、タオルを頭に乗せた葉くんの満足そうな顔を見つめる。
「ここで、皆と一緒によく入ったんよ。だからお前も来ないかなーって、思ってた」
「・・・・・」
皆、きっと蓮くんやホロホロくん達。僕が会う前から、ここで過ごした時間があったんだよね。少し、淋しい気持ちになる・・・。
僕は一緒にいた時間は少ないから。

「背中流してやるぞ。リゼルグ」
「ありがとう」
ふざけ合いながら背中を流し合って、悪乗りして頭まで洗い始めると、僕は泡を流すお湯の中に
涙が混じるのを感じていた。

どうしてこんな日が来たんだろうね。
ハオを倒すために君を犠牲にすることさえ承諾した僕に。勿体無いよ、葉くんの笑顔ひとつひとつが・・・。

「終わったぞ」
髪の泡を流し終えて、顔を上げた僕は気付かれないように、でも想いの限りを込めて囁いた。
「ありがとう」


でも・・・。本当に良かったと思ってるよ。
必死だった僕は大事な事を見失って。

ハオを倒せても、君がいなくなっていたのならその後に、僕に「心晴れる日」は無かったと思う。
一生後悔していただろうね・・・。

いつのまにか、また自分で大事な人を失ってしまうところだったんだよ。
・・・怖いね。





竜さんや、まん太くんが帰り、僕は借りた浴衣で部屋に戻っていた。
「布団これな。干しておいたから気持ちいいぞ」
「ありがとう」
「で・・・」
布団をひいて、葉くんはにんまりと意味ありげに僕を呼んだ。
「耳かきするぞ!リゼルグここ来い」
布団の上で足を伸ばしてもものところを手で叩く。

「・・・覚えてたの」
「忘れてないぞ。今日買ってきたやつ使うんだ。人のやるのは初めてだけど心配するな。おいら目はいいから」
「・・・・・」
・・・いいのかな。あの、痛くされたら嫌だとかそういう事じゃなくてね。
恥ずかしいというか・・・。

でも、僕は葉くんの前に正座していた。
なんでこんなことになるんだろう。甘えると言うか・・・。葉くんには普通なのかな・・・。

「ん・・・。じゃあ・・・。お願いします・・・」
「任せろっ。綿棒もあるしな」

葉くんの伸ばされた足の上に頭を乗せて、僕は緊張していた。
「痛かったらごめんな」
「ううん。大丈夫だよ」
買ってくれた耳かきの音が耳の中で気持ちよかった。

近いね。葉くんがとても近く感じる。
なんて、もともと葉くんの方には、僕を遮る壁なんてないんだけど。

日本に来てよかった。

「反対。楽しいな、耳かき」
「・・・・・」
体がどこかちょっとでも、誰かに触れることは緊張することだよ。でも、それを許してくれるのは、僕への好意の表れ、君の優しさだね。
僕は、・・・心が癒されるよ。

君がとても好きだから。





「よし。終了。綺麗になったぞ」
「ありがとう。気持ちよかった」

僕は体を起こして、葉くんにまっすぐに向き合った。
「ごめんね。本当はたくさん、謝らなきゃいけないことあるのに。あと、ありがとうも・・・」

「いいんよ。わかってるから。来てくれただけで、おいらは大喜びだ」
僕の真剣さに答えて、葉くんも真摯な瞳を見せてくれた。そして言葉の最後で思いっきり優しい笑顔を見せてくれる。

「大好きだよ葉くん。大事な友達だ」
「おいらも。リゼルグ好きだぞ」

素直に、僕は葉くんにしがみついて少し涙が流れた。

「心配だったんよ。一人で淋しくないかって。でも、離れてても忘れてないからな。ずっとリゼルグは友達だ」

僕も、笑ったよ。
君への気持ちが届くように。







日本での夜はどこまでも暖かく、やさしい歌が聞こえてくるみたいだった。

こんなに心温かい夜は、君のおかげだね。
ありがとう。葉くん。

















なんか更新したくて・・・。ほのぼのちっくな「ふんばりの詩」です。
これ、シリーズ化すっかも。ははん。
つかささん耳かき好きなので、こんなことに・・・(笑)




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