「ニ人の記念日」




静かな、ニ人の時間が流れていた。
二人がルイーダの酒場で出逢って、あれからどのくらいの時間が過ぎた・・・?
お互いに出逢ってから、毎日が楽しくて、ドキドキしていた。
いつも相手が気になって、時々不安で、寂しかったり、苦しかったり。

その裏側には、いつも思い知らされる「感情」がある・・・。





久し振りに、その部屋の窓は気持ちよく開けられて、僕は懐かしい外の景色に心踊らされていた。

「いい天気ね。オルガ」
「そうだね。懐かしいな・・・。すっごく久し振りに見た気がするよ。この窓からの景色」

アリアハンの小さな民家。
僕は数ヶ月ぶりに自宅に戻ってきていた。
ちょっとドキドキしたけれど、初めて僧侶のリックを自分の部屋にあげる。

旅に出る前に部屋はかたづけていたから、汚くて恥ずかしい、なんて思うことはない。お母さんのおかげでほこりも積もっていない。
でも、初めてのお客さんに、緊張はどうしても消せないでいた。


訪れた女の子は、振り返って僕に微笑む。
綺麗な長い髪を、窓から寄せる風に揺らして。
僧侶の聖衣を身につけた、僕の好きな人。

ルイーダの酒場で一目惚れしてから・・・。彼女も一緒に旅に出ている。

綺麗で、優しくて。
髪は長く、空のように海のように、透き通る青。
瞳が不思議な紅い色をしていて、いつも僕はドキっとさせられるんだ。

今日も、振り返ったその微笑みに、僕はまた息をのんだ。


「ここから、お城が見えるのね。見て、天気がいいからすごく綺麗なの」
「そうだね・・・」
窓辺に手をついて僕を誘った、彼女の隣で外を覗き込む。
「あとで王様にも挨拶に行かないとなー」
「うん。でも、今日はここに皆で泊まるんだもんね。オルガのお母さん嬉しそうだったもの」
「うん・・・」

暫く、過ぎた旅に思いを馳せ、二人は黙り込んだ。

僕は、顔が赤くなるのを感じながら、すぐ横のリックに目を合わせないようにぽつりと言う。
「リックと出逢ってから、半年が経ったね・・・」
「そうだね・・・。早いね・・・。でも、本当にあっという間・・・」
横の僕の鼓動は、どんどん抑えられなくなってきていた。

「初めて会った時は、本当にびっくりしたの。「勇者」ってもっと、強そうな、怖い人かと思ってたから・・・。オルガみたいなかわいい人が来るなんて、思ってなかったもの」
「あはは・・・」
僕は苦笑したけれど、そんなことは気にしない小さな事柄だった。
自分の外見が幼いこととか、弱そうなことは。

それでも、いいって言ってくれた人がここにいたんだから。

「あ、でも。僕だってびっくりしたんだよ。リックをルイーダさんに紹介された時・・・」
「どうして?」
「だって、こんな可愛い子が、って・・・」
「・・・・・」

黙ってしまったリックに気づいて、僕は照れ笑い。
「あ、ごめんね」
頭をかいて、僕はその後鼻もこすった。
リックは何も返さずにはにかんで首を振る。


「そうだね。あれから、色んなことがあったよね・・・」
話題を変えようとして、僕は窓縁に頬杖をつく。
旅の中でのリックとのやりとりを思い出して、僕は唐突にはしゃぎ出した。
だって、どれも楽しい思い出ばかりだったから。

「最初の頃は・・・。今もだけど、エルトートに怒られてばかりだったよね」
「ほんとね。だって、オルガが心配だから、私もMP無駄使いしてしまって」

「初めて・・・、リックが泣いたのって、エルトートに叱られて、MP節約してたせいだったよね。確か」
仲間の賢者エルトートは、無駄が嫌いな厳しい性格だった。
小さな傷でも回復してしまうリックに、いつも説教をするのが日課みたいになっていた。

「・・・。あれは、だって。MP使わないように、まだホイミしなくていい。まだいいってエルトートが言うから。でも、それでオルガが倒れてしまって・・・」
その時の悲しみを思い出して、リックの瞳が思いがけずに潤んでしまう。
「でも、それからは、エルトートもあまり厳しくなくなったから。良かったけど・・・」
「リックが泣いたら嫌だもん。リックにはいつも笑ってて欲しいもんね」

「オルガ・・・」
リックはこっちを見て可愛く笑った。

リックのことを、好きだと口にした日から、何回言葉を繰り返したかな・・・。
大事な彼女を目の前にして、人事のように僕は考えていた。

「ねえ?あのね、明日で、三ヶ月経つの、知ってた?」
「?なんの・・・?」
「・・・・」
彼女は恥ずかしそうに、横の僕に耳打ちする。
本当に小さな声で。

「私達が、お互い気持ちを言ってから・・・」


「あ・・・。そうか。・・・明日!明日だね!僕たちが両思いになって・・・!」
思わず向かい合って喜んだ僕は、次の瞬間にはハっとして固まっていた。
お互いなんとなく気恥ずかしくてパパっと視線を外す。


    そうなんだ。
リックは、初めて恋した女の子だから。
僕には初めてのことの連続だった。
初めて二人きりになったのは、ロマリアの買い物の時。
僕はアガってしまって、ヘマばかりしていた。

初めて、手をつないだのは、いざないの洞窟で穴に落ちないようにだった。
ピラミッドで怖がった時も、「大丈夫だよ」って手を差し伸べた。

初めて「好きだ」なんて言ったのも、
もう、完全にフラれるのを覚悟してのことだった。

ライバルだった武闘家ゼアに目の前で告白されてしまって、僕もいても立ってもいられなくなった・・・。リックが誰かのところへ行ってしまう、それがどうしても嫌だった。

いざ、想いが叶っても、実はまだ信じられずにいたりして。
いつも、いつも、一緒にいてくれるだけで胸がいっぱいになる。
「恋人」とかになっても、まだ緊張してドギマギしてしまうし。
恋人らしく、って言うのも良くわからない。

でも、そんな僕らでももう二人で数ヶ月歩いてきた。


僕は、まっすぐに立って、姿勢正しく彼女に向き合う。

「僕は、ずっと、ずっとリックが好きだよ」
男らしく、のつもりで、自分の素直な気持ちを伝える。
「初めて会った時から、ずっとリックが大好きだ。これからもずっと一緒にいてね」
「・・・・!」
恥ずかしさのあまり、カーテンに隠れた彼女を、僕は追いかけて紅い瞳を見つめた。

開け放たれた窓の外からも、もう僕達の姿は見えないだろう。

カーテンで顔を隠したリックは、静かに染まった頬を見せる。
鈴みたいな言葉と一緒に、僕にそっと寄り添って微笑むんだ。
「私も・・・。大好き。すごく嬉しい・・・!」

離したくないよ。
絶対誰にも渡したくない。

ぎゅっと抱きしめて、何度も何度も「好きだよ」って繰り返す。
だって、それしか言えなくなるんだよ。
君が好きでしょうがない。


初めて、君に出逢った日。

初めて、君に告白した日。

初めて、君と町を手をつないで歩いた日。
君を抱きしめたのは、カザーブの村だったかな。

君といれば、どんなことでも記念日になってしまうよ。
今日も、君が初めて僕の部屋に来てくれた記念日。


そして・・・。
ひょっとしたら、初めてキスした日になるの・・・?



毎日僕は、君に恋しています。








「これから先も、ずっと一緒にいようね」
「うん。一緒にいる」
「ずっと、二人でいろんな記念日お祝いできたらいいね」
「いつか記念日でいっぱいになっちゃうね」

二人の時間は、まだまだきっと続いてゆく。






■こちら、15000キリ番リクエスト、三枝様でした。
勇x僧SS、SSのリクは初めてでしたが、なかなか恥ずかしかったです(笑)
しかし、もう、勇x僧はたまりませんなvvv近くに人がいては書けないお話でしたよ。
リクエストありがとうございましたヽ(´ー`)ノ

勇x僧同盟にも掲載しています。(管理人)


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