静かに、静かに・・・。

優しい想いが降り注いでいました。






【海のように 花のように】






「海は、なんだか怖い・・・。大きくて、飲み込まれてしまいそう・・・」
小さな私は船の上で、現れた見知らぬ男の子に怯えて呟いた。

「怖くないよ?怖いときもあるけど、今日はすっごく綺麗だよ!」
男の子は船室のバルコニーに飛び出して嬉しそうに海を眺める。海に慣れているのか、気持ち良さそうに手すりに捕まって波打つ海面に指を差す。

「嵐は怖いんだよ。船が揺れて。でも静かな時はすごく綺麗なんだよ!ほら!」
「・・・・・・・」
光を受けて、キラキラと反射する波間を、宝石みたいに男の子は喜んで見つめていた。

「・・・・・?」
おそるおそるバルコニーに足を踏み出した私、男の子がじっと見つめているのに気がついて、私は何かと思って身をすくめた。

「青い髪、海の色だねー。一緒!」

潮風がカモメたちと共に舞って、それは私の中に吹いた風にも良く似ていた。

「ぼくもお父さんも真っ黒なんだ。いいなぁ」
「・・・・・」
黒い髪も綺麗なのに、思いつつも人見知りする私は声にならずに、黙りこくる。

男の子は元気で明るくて、風ひとつにも嬉しそうににこにこと笑っていた。

「あ、お父さんのところに帰らなきゃ!きみもお父さんとなんだよね?ぼくもお父さんと旅のとちゅうなんだ。これから帰るんだって」
「あ、私も・・・」
男の子は父親のもとに走り出して、何か忘れ物をしたのか部屋に戻った私の前に慌てて戻って来る。

「あのね、海、怖くないよー!」
そんなことを言いに戻って、手を振って男の子は駆けて行った。


船は港を出て・・・。
窓から男の子が父親と共に小さくなってゆくのが見える。

「・・・怖くない?・・・怖い・・・」
陸が離れてゆくことに私の体は震えていた。だって、もう帰れなくなるかも知れないんだもの。

「ふ・・・。え・・・っ」
やっぱり怖くて泣き始めて、帰りたくて見つめた港で男の子が手を振っていた。
そして、口に両手を添えて何かを叫んでいるように思う。
「怖くないよ」と叫んでいるのか・・・。

俯くことで、後ろから髪の毛が前に降りてくる、青い髪、海の色。

船室の窓からではなくて、船の最後尾となるバルコニーに私は赴く。
離れてゆく港、離れてゆく男の子、反射する波間が涙とまじってとてもキラキラ輝いていた。







カラ    ン・・・。カラ   ン・・・。

海辺の修道院では、今日も神聖なる鐘の音が鳴り響く。
私は教会上の鐘つき堂より眺める海がとても好きでした。
静かで、優しくて、風が心地好くて、何故か心が神聖さを帯びるように思えてきます。

そしていつも、初めて海を見た時のことを思い出していました。
どうしてあんなに怖かったのだろうと、不思議に思うのです。

こんなにも優しく美しい海のことを・・・。


「怖くないよ」
明るい笑顔の男の子のことも、思い出しては自然と笑みがこぼれました。

あれから彼に会った事はないけれど、どこかでまた旅をしているのか、今も「海が怖い」と言えば励ましてくれるのでしょうかと・・・。
   海を見れば彼のことを考えることが多かったのです。

「フローラさんは熱心ですね。今日は何をお祈りしているのですか?」
シスターに訊かれ、私は答えます。
「この世界で、・・・私の知らない場所で、苦しんでいる方々がいるのです。少しでも、その苦しみが消えるようにと・・・」

臆病だった私は、今も決して強いとは言えません。
けれど、なにかに怯える人に、今は手を差し伸べることができるのです。

誰かを励まし、勇気づけること。
誰かを「祈り」でもいいです、守れるのなら、私はいつまでも祈り続けるでしょう。


「神様、どうか、尊き人をお守り下さい。いつも心穏やかであるように。いつも傍に温かさがありますように。道にいつも花が咲いていますように・・・」

勇気を教えてくれた彼のこと、一日中祈る日もありました。
・・・時々、とても不安に襲われるせいなのです。


彼に「怖いもの」はあるのでしょうか。今・・・、彼を脅かすものは・・・?
どうか、あの日に言えなかった、言葉を言える日がくるまで、神様・・・。


「フローラさん、お父様からお戻り下さるよう、サラボナから連絡があったそうですよ」
長くお世話になった修道院を離れる日、私はまた鐘を鳴らして祈っていました。


カラ    ン・・・。カラ   ン・・・。

いつか言わせて下さい。
口にすることができなかった「ありがとう」を・・・。

そして、返すことができなかった、笑顔をあなたに贈ります。

「どうか神様、彼に祝福を・・・」







カラ    ン・・・。カラ   ン・・・。

数日後、鐘の音は彼の耳に届いていました。
浜に打ち上げられていた壊れかけの樽、気がついたシスターは慌てて彼らを保護します。





海は、怖くはないですね。
幼かった子供の自分に私は微笑むことでしょう。
優しき流れは、あなたを守ってくれたのですから・・・。

静かに、静かに・・・。
光を、あなたに。







邑瀬岐悠さんからキリ番リクエストで頂きました。なんとこのSSをイメージして描いて下さったとの事で!感涙ものです!(><) 綺麗過ぎ、可愛すぎvvv ありがたくも飾らせて頂きます。


後書き

PS2版を見てから、初めてフローラSSなどを書いてみました。
フローラ好きのクセにあんまりお話は書いていないんですよね。(機会がなかったというか)

今回数時間でさらっと書けたので、またゲーム進行によって書けるかも知れません。
(ってゆーかここまで書いたら当然出会い編が書きたいですよ)
ヘンリーも書きたいんですよ〜。でもこちらは別場所(アンソロジー)で漫画にできたらいいかなとか思っています。
しかし、フローラ可愛いですよ。愛しいです・・・v(ぽっ)