「共鳴」 |
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「悪いけど、一人にしておいて・・・。弱いところは誰にも見せたくないの・・・」
俯く横顔に、僕の胸は締めつけられた。
君は知らないんだ。そうやって、人を拒む事で、周りがどんなに悲しんでいるかを。
「マリア」
退室を求められても、まだ僕はふてぶてしく彼女の部屋、
彼女の座る椅子の背中に手をかける。
「聞こえなかったの?一人にしてって言ったのよ」
ディプロの船内、仲間達の誰もが憔悴し個室で休んでいた。彼女、クォークリーダーのマリアも例外ではない。
疲れから、それとも僕が苛立たせたのか、マリアの語調がいつにもましてキツくなった。
彼女の部屋の前で往生していたリーベルなら、ここですぐさま逃げ帰ったのかも知れないけれど、生憎と、彼女に睨まれても僕は一行に怖くなかったんだ。
「聞こえたよ。・・・でもね、一人にできないよ」
「・・・・。どういうつもりなの。私は疲れているの。出て行って」
強気に出て、椅子から立ち上がったマリアは、精一杯の虚勢を見せた。
・・・わかるんだ。いつも。
マリアが虚勢を張っているってことが。
だから、僕の瞳は寂しさから翳ってゆく。
「どうして、誰にも弱さを見せたくないの。辛いこと、悲しいこと、何でも一人で解消する必要なんてないんだよ?今皆で戦っているみたいに、誰かと共に考えたって、解決していったっていいと思うんだ。恥ずかしいことじゃないよ、マリア」
本心は、本音は、こんな理屈とかはどうでも良くて、ただ目の前のマリアを抱きしめたかった。悲しいことを言ってしまうマリアが苦しくて、解ってあげたくて。
最初に、彼女を見た時から、いつも彼女の一挙一動に視線が動かされた。
溢れてしまう感情の名前に、僕はすぐに気が付いた。
マリアが可愛かったんだ。
本当に綺麗で、強くて、弱くて。
ただの普通の女の子で。
言いたくて。でも、言えなかった。
こんな時に、不謹慎だって、言われる気がしていた。
「不純な動機」って、言われてしまうのかな、僕も。
「雪が冷たい」と感じるように、自然なことじゃないの?
マリアはいつものように、鋭い反論を口にすることができないで硬直していた。
初めて、覚束ない手で僕はマリアを抱き寄せてしまった。
「一人になろうとしないでよ。・・・悲しくなる」
「・・・・・・。離して・・・」
「・・・。ごめん。できない」
余りに重いものを背負わされ過ぎた、でも細すぎる彼女の身体、小さな肩。小刻みに震える背中。・・・離したくないよ。離せない。
「離して・・・。お願いよ」
お願いなんてしないで、得意の足技で僕を吹き飛ばせば良かったんだ。
でも、動けないのか、マリアは腕の一つも上げられない。顔も見えないように下げて、徹底して隠そうとする。
「気持ちは、嬉しいわ。でも、ごめんなさい」
「・・・・・・」
あっけなく、僕も振られたかと思った。
「・・・私は、クォークのリーダーなのよ」
「でも、ただの女の子だよ」
「最終兵器よ。実験道具だったのよ」
「・・・それを言うなら僕もそうだね」
多分、断る理由、挙げられたものはたいして重要じゃなかった気がした。
一呼吸、息を飲み込んで、マリアは続く言葉を躊躇う。
「あなたには、ソフィアがいるでしょう・・・」
「ソフィアは・・・。どうしてソフィアが出てくるの?僕は・・・、マリアが好きだよ」
「・・・・。嘘よ。聞きたくないわ」
首を振って否定されて、僕は証明したくて腕に力を込めて、更にマリアを抱き寄せてみる。
「あ・・・。離して。離しなさい。離して・・・」
嫌がるのは言葉だけだった。だだをこねる少女みたいで可愛かった。
「私に構わないでよ。お願い・・・。離れて。ソフィアの所に行けばいいじゃない。可愛い子だわ、素直で。あなたを慕っているわよ。私なんてほうっておいて」
「できないよ・・・。できない」
ちゃんと顔を見たくて、僕は肩を掴んで素顔を覗いた。
意志の強い緑の瞳が、綺麗に潤んで光っていた。
「わ、たしは、・・・・・・。君を不幸にしたくないのよ・・・」
意外な本音に 、僕は驚いて時を忘れる。
「・・・。私と一緒に居ない方がいい。君は。君だから。近付かないで」
「・・・・・・・・・」
「君は、幸せでいて貰いたいの。私のために。君は私には・・・」
「君が、大事なのよ・・・」
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「初めて、泣いたね・・・。嬉しいよ」
再び抱き寄せて、ようやく聞けたマリアの心に感動に震える。
「そんな言葉が聞きたいんじゃない!」
父に君は珍しく叫んだ。感情を剥き出しにして。
じゃあ、どんな言葉を聞きたかったんだろう。
どんな言葉を求めていたの。
「不幸になんてならないよ。一緒にいよう。一緒にいたい」
だって、ほら。
どうしても共鳴してゆく鼓動が止まらないから。
「優しくしないで。弱い女になりたくないのよ」
「今だけ、弱くてもいいよ。僕は笑わないよ。むしろ、その方が可愛いな」
「か 、・・・。もう、・・・君は・・・」
初めて、腕を伸ばしてお互いの身体を引き離すと、髪をかき上げてマリアは視線をそらす。
「出て行って。出て行かないなら私が出て行くわ」
巧妙に隠そうとするけれど、もしかしたら照れていた・・・?
扉に向かうために、背中を向けた、小さな手をぎゅっと握る。
握るしか・・・。繋ぎとめる手段が思いつかなくて、情けないと思った。
どうしたら、伝わるんだろうか。
どうしたら、君の心を開けるんだろう。
どこに行ったら、本当のマリアに会えるのか教えて欲しい。
「一人で考えて来て・・・。答えはずっと見つからなかったんじゃないの?マリア。これから先もずっと一人で考えて、ずっと先に進めずにいる・・・?」
自分の存在意義。存在理由。
創造者。データ。AIプログラム。自然なもの。人工なもの。
ゲームのキャラクターって、そんなに無価値なものなのかな。
神が創った。人が創った。どこに差があるのかなって思っていた。
ゲームのキャラクターは、生きてはいない?
創った存在、生まれた状況。
「大事なのって、『どう生まれたか』じゃ、ないよね。『どう生きるか』だよね」
手を取ったままの僕を振り返る、マリアはそれは凛とまっすぐに立っていた。
僕の言葉を真っ向から受け止めるために。
「マリアとも、一緒に暮らしてきたかったね。一人で頑張ってきたんだよね。辛かったよね、きっと・・・。これからは、絶対に一人にしない。背負ってきたもの、少し分けて。全部のマリアに逢いたい」
「フェイト・・・」
マリアの表情が少し和らいだから、僕もにこりと微笑う。
「・・・・・・。後悔、しないでよね?」
馬鹿な男に呆れた風に、マリアは腕を組んで顎を上げる。
でも、すぐにどきどきするようなしおらしい顔で、視線は外して僕に告白してくれた。
「・・・君は、特別だったわ。同じ想いを共感できると思った・・・。でも、それだけじゃないの」
自分の両手を見つめて、強く握りしめると、マリアは自分を強く慰めるように抱いた。
「どうしてこんなに会いたかったのか、自分でも良く解らないのよ。幼心にも、ずっと君の存在は憧れのようになって。それだけで自分が救われるようで。君自体が、幸せの象徴のようになっていたのよ」
言葉一つ一つに、鼓動が音を鳴らす。
「勝手な思い込みだわ。君に押し付けたくなかった。君には君の幸せがあるのだから。何処までも遠いまま、ずっとずっと想っていられれば良かった。この戦いが終われば、離れて行くんだもの」
「・・・・。行かないよ。・・・やだなぁ」
「こんなに近くにいるよ。絶対に、一番近い場所に必ずいるから。だから、マリア・・・」
手を離さないで欲しい。僕からは絶対に離さない。
真摯な気持ちの全てを込めて見つめる、先の彼女が微かに笑ってくれた瞬間、
僕は舞い上がって、折れるぐらいにマリアを抱きしめた。
「・・・。近いのね。本当に・・・」
背中に細い腕が触れる。触れた指先から痺れる感覚さえ起こす。
「そう言えば、そうだったわ・・・」
マリアは、聡明な彼女は、一つの答えを見つけたらしく、呟く。
星が落ちる瞬間、閃くようにとても尊い言葉。
「人って、空に手が届くのよね・・・」
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「雪は、冷たいわね」
君は、呟いた。
「私は、兵器なんかじゃない」
悩む君が、すでに「生きている」って叫んでいた。
「ずっと、君に逢いたかった」
そう思う君の、何処に価値がないのかな。
誰かが君の存在を認めなくても、「命」と認めなくても、
僕は、「命」以上にマリアの意思を尊いと思ってる。
「ありがとう・・・。不思議ね。自分がどんな言葉を望んでいたのか、本当は、自分でも解っていなかったの。でも、ただ、君だけで良かったのかも知れないわ」
息が届く距離で、マリアがとても嬉しいことを言ってくれた。
「好きだよ・・・、マリア。何でも言って。何でも聞きたいな」
「・・・・。温かいわね。君の手は」
至近距離で、二人は額を重ね合わせながら笑顔も重ねる。
「・・・の、笑顔が好きなの。・・・それだけで、救われる」
「そんなの、簡単だよ」
僕は、にこにこと、繰り返す。
恋してる女の子のために。
「フェイト・・・」
微笑うと、ますますマリアは可愛くて、好きでたまらなくて、
また触れてしまうから、二人の存在は共に響いて、銀河の海で一つの星になる。
君だけに反応する。
それは、僕が選んだ、大事な『想い』
君だけに、ずっと響いて拡がる ・・・
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初めて書いたフェイマリSSです。クリア前に、どうしても書きたくて。
(クリアしたら、また見解が変わるかも知れないし)
本当にマリアが好きです。愛しいです。そして、当の私は、「データでも、AIでも、別にいいじゃん?」と思ったのが本音だったので、フェイトにも言わせてみました。
私はゲームのキャラも、生きていると思っています。価値を低く思っていません。
なので多分こう思うのでしょうね。
ああ、マリア、抱きしめたい・・・(うるさい)
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