あらすじ

物語の舞台は、1992年。主人公は、アメリカのフィラデルフィアに暮らすユダヤ人の女性フリーダと息子のエミールである。このふたりは移民であり、もともとはポーランドのグリブニヴ(現在のウクライナ)出身である。第二次世界大戦中は、ナチスのユダヤ人迫害のために、あるウクライナ人の家に匿われていた。現在のエミールの職業は内科医で、心理学者の妻テイマーとの間には17歳の娘ヘザーと13歳の息子ダニーがいる。家族は母フリーダを含めた5人で、表面的には、何不自由ない生活を送っていた。

ただしフリーダとエミールは戦争中のことを忘れたことはない。ナチスの兵士やウクライナ人の密告におびえながら隠れ住んだ恐怖の日々。特に、フリーダにとっては夫であり、エミールには父であったダニエルがナチスに惨殺されたことは、二人にとっては拭い去ることのできない苦しい記憶だった。

ここに二つの事件が起きる。ひとつはヘザーが高校の課題でホロコーストについて調べることになり、祖母のフリーダに聞き取りをしようとすること。もうひとつは、かつてこの母息子をかくまったウクライナ人オレスコ夫妻(故人)の娘アラが、両親の遺品の中にフリーダの結婚指輪を見つけ、それを彼女に返すために、フィラデルフィアに現れたことである。

こうして昔の記憶を生々しい形で呼び覚まされた母と息子に、戦争中のさまざまな光景がフラッシュバックすることになる。6歳と55歳のエミール、32歳と81歳のフリーダが、代わる代わる舞台の上にあらわれて過去を再現する中で、「かくまわれた側」と「かくまった側」の複雑な事情が浮かび上がってくるのであった…


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