宗教食べあるき
第10回
文/麻野一哉
あさの・かずや
本業はゲーム開発者。幼少の頃、阪急電鉄芦屋駅前にてキリスト教の布教に疑問を感じ、以降、「信仰とはなにか?」「宗教はアヘンなの?」と、常に、厳しくも、おもしろおかしゅう自分に問いかける毎日を送っている。
「パーフェクト・ハーモニー2」

会誌「アビエルト」を読むと、「とにかくTDIの能力を持て」とある。どうやって持つのか? 会長がエネルギーを込めたCDがあるので、まずはそれを買う。それをラジカセか何かで流すだけで、能力が身につくらしい。会員用には「エルビードヌエボ」、非会員用には「エルビードヌエボスタート」と2種類あり、前者は後者の64倍の能力がつくとのこと。ただ、本当の能力を身につけるには、CDを聞くだけでなく、集会に出て、オートロードというのを受ける必要があるらしい。とはいえ、まずはCDだけでいいらしい。
私は、これともうひとつ、「パパベル」というCDも買った。それぞれ1万円ずつで計2万円也。他にも、「ハイパー酵素」とか「PCフォー不随意筋」、「テープ太助ジュニア」、「セントラル下丹田」などという、面妖な名前のCDが山ほどあったが、今回は2枚だけにしておく。
CDが届き、ドキドキしながら、「エルビードヌエボ」を聞く。なにやら、喜太郎や宗次郎みたいな癒し系の音楽が流れる。私は馬鹿なので、すっかりその気になって、癒され気分で聞いていたが、音楽は関係ないらしい。エネルギーがはいってることが大事なので、音はしぼってもいいとのこと。そういえば、村上龍も、睡眠中無音でCDをまわしっぱなしにしていると書いていた。そのおかげで体調がよくなったとか。曲は、便宜上、はいってるだけなのだ。しかし、説明書には「ヘッドホンで聞くと、効果倍増」とあって、よくわからない。
効果はというと、実はよくわからなかった。なんとなく落ち着くが、特に何かの能力が身についたとは思えない。続けて、「パパベル」をかけると、同じ曲が流れ出したのでガッカリする。曲は関係ないとはいえ。そしてこっちも、効果がよくわからない。体の緊張が解けて肩こりにいいとかという効能のはずだが、静かな音楽聞いてじっとしてたら、ふつう、緊張は解けるわなあ。
まあ、漢方薬みたいなもんで、すぐには効かないのかもしれない。折をみて、ときどきかけるかと思って数ヶ月ほったらかしておいたら、ある日、会誌に「CDバージョンアップ」の記事がのった。そうかなるほど、パソコンソフトみたいに、バージョンアップでお金をとるのかと、その商才に感心しつつ、反面、嫌な気持ちになりかけたが、「新たにCDの購入や交換は必要ありません」とある。どういうこっちゃと記事をよく読むと、「より効果的にエネルギーを伝える仕組みを、先日会長が体得しました。今後のCDはもちろん、すでに買われたCDも、すでにバージョンアップ済みなので安心してお使いください」とある。なんかよくわからんが、すでに私の手元にあるCDもバージョンアップされていたらしい。
いつ? どうやって? 魔法?
不審に思いながらも、少しうれしくなった私は、久しぶりにCDを取り出してかけてみる。あたりまえだが、同じ曲が流れる。そして効果はというと……やはりよくわからない。
そのまま1年以上たった。何度かバージョンアップがあったらしいが、もうCD自体もなくしてしまい。さっぱり、やる気なしになっていた。会員の期限も切れた。これではいかんと、新たに会員に入りなおし、東京の中野で催された集会に臨んだときのことは、次回で。
●数々の宗教団体に加入してきた筆者のとっておきをじっくりと披露中。「モルモン教」「統一教会」も大好評でした。
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