「どうしたよ、しゃがみこんで」
揶揄の声が聞こえた時、恋次はただその刀を凝視していた。刀の名を斬月といい、巨大な出刃のような始解状態を、常に保っている化物刀のはずだった。
独特に着崩した死覇装がはためくたび、血臭は濃くなりまさる。深手を負っているのだ。それでも、その刀はぴくりとも動かずに鏡花水月を受け止めていた。
――これが、
恋次の脳裏から、ひととき、対峙する藍染は消えていた。
――これが……卍解した斬月……
腕の中のルキアの存在さえ、恋次は気遣う余裕を喪っていた。眼前の刃は黒檀のように光を飲み込んで黒く、氷のように冷ややかに静まり返っていた。
禍々しさと品格を兼ね備えたその刃。
――ああ、こいつは。
砕けて地面に散った、蛇尾丸の残骸が目に入る。脊椎のような、グロテスクな結節と組織を剥き出しにした己の刃。
――こいつは、隊長を……斬ったのか。
月をも斬ると書いて、斬月。
空彼方の月へまで飛び、自在に振り回される刃――


「随分ルキア、重そうじゃねえか」


存外に甘い声であった。負傷と疲労に低くかすれてはいたが、笑いの残滓は消えていなかった。
吐かれた単語に、しびれた腕がやわらかな手触りを思い出させた。腕の中のものを、恋次は意識した。それはかつて、自分が手放したものだった。幸せを願って手放したのだと、自分に言い聞かせてきた――だがその実本当は、抱えつづけることの重さに手放したのかもしれない、彼の唯一の宝だった。
そしてもう片方の手に、彼が固く握りしめていたもの――


『獣には』
魂の奥底から、その声は甦る。
『――獣には――獣の戦い方がある――』
それは卍解の修行の際に、彼の半身たる化生が彼に囁いた言葉だった。


――そうだな……
手伝いに来たと笑う少年の、その背をじっと凝視した。
――獣には獣にふさわしく、みっともなく足掻くしかねぇ。
かつての上司と、その先に広がる残酷な青空。
陽光を受けて、醜く砕かれた脊椎の欠片は、それでもチカリと輝きを返したようだった。