カヅたん、じゅーべーをもらう――第7話





「これ?吃驚したでしょ。僕、今日から女の子になったんだよ」

は?
何だって?

呆然としている十兵衛をよそに、花月はきてみてさわって♪とばかりにくいっと自分の胸を持ち上げる。
おわんを伏せたような形の良い胸が、きゅっと谷間を作るのをぼんやりと眺める。

「本物か…その胸は……?」

おそるおそる手をのばすと、花月は失礼なことを言うなぁと、十兵衛の手をとって自分の胸におしあてた。むにゅっと柔らかな質感が返って来る。
次なる当然の疑問として、下は──と見ようと思ったら、

「あっ!そっちは明るいトコで見ちゃイヤ!!」

花月は勢いよく布団を引き寄せ顔を真っ赤にし壁際に逃げる。

「す、──すまなかった」

その恥ずかしがる様が本当に女の子のようで、いや、本人が女の子だと言ってるんだから女の子なんだろうが、いや、だがしかし本当に女の子なのだろうか…
花月には編曲の法という秘技がある。
ちょっとした可愛いいたずら心を敢行中で、そっちを見せるとバレるから逃げているのか、本当に女の子だからこの反応が当然なのか、どちらも非常にあり得そうな話で、はっきり言って十兵衛にはどっちが正しいとも見当がつかなかった。

とりあえずカレンダーを見てみる。
8月14日。
決してエイプリルフールなどではない──ということは本物の女の子か?

オレの場合はどうだった?
確か─…ばっちり見られていた気がする。いや、オレの場合は参考にならんか。最初、女の子であることを受け入れられなかったんだから。
じゃあ花月の場合は?

普段、考えることは花月任せの十兵衛は、花月の為にと一生懸命なまった頭をフル回転させた。

─今日から女の子になったんだよ──

ああ言ったということは、花月は女の子になりたくてなったのだろう。さらに花月によると女の子の夢は『素敵なお嫁さんで可愛い赤ちゃん』だった。
そしてオレが女の子になったのは花月が赤ちゃんを欲しがっていたから。

隣で大人しく自分の反応を待っている花月を見る。
花月と目が合うと、花月はいかにも『その通りだよ』と言わんばかりの愛らしさでにこっと笑った。

そう、そうか、やはり花月は赤ちゃんが欲しかったのか。
そうに違いない。
ではなぜオレが女の子のままではなく花月が女の子になった?オレでは子育てに向かないと思ったのだろうか。

寝起きと夢と現実の区別がすでに入り乱れ、恐ろしいほどの短絡思考の激しい思い込みを得意とする男はさらに考えた。

オレが女の子だった時のことを振り返ってみよう。
服を作ってもらって、プロポーズされて、結婚式を挙げ、晴れて新婚さんで初夜でベッドで心を込めて赤ちゃんつくりに励むという事態に…なると。

赤ちゃん…赤ちゃんか。
きっと可愛い赤ちゃんが生まれるに違いない。
花月に似た、可愛い女の子がいいなぁ。一姫二太郎というし。

──十兵衛はすでに風鳥院家の跡取りを生んでみせると決意したことをすっかり忘れていた──

いや、だからと言ってここでプロポーズしたあげく、花月がベッドの縁に頭をぶつけるなどということになっては!!
ベッドを使わなければいいのか?布団にするとか?
いや、そんなことは根本的解決にはならない。

そう、これは夢だ。
きっと夢だ。
ここで寝て、目が覚めたらなんら変わらない日常が待っているに違いない。
いや、この順番でいくとオレと花月が両方女の子になっているとか、そんなエキセントリックな夢再びになるかもしれんが、それでも花月が頭をぶつけるよりマシだ!!
たとえ夢でも、花月、貴様の頭にたんこぶを作るなどという事態になることはオレの誇りが許さん。

「花月」

十兵衛は改めてもう1度花月を見た。
花月は、今度こそ何か言ってくれるかな、とまたニコリとする。

「花月……」
「なに?真面目な顔して」
「もう1回寝る。すまないが1時間経ったら起こしてくれ」
「は?」
「何も聞いてくれるな。おやすみ、花月」
「あ、うん。おやすみなさい、十兵衛」

律儀にも、今度はおやすみなさいのキスが降ってきた。ぷにゅっと肩に柔らかい胸があたる。
少し、いやかなり惜しい気もするが、さようなら、母なる胸。起きたらきっとそれは幻に変わるに相違ない。
布団をひっかぶると、花月が静かにベッドから抜けて寝室から出る気配がした。





─すまない、花月。

もし本当に女の子になっていたんだとしたら、下げる頭がないくらい申し訳ない。こんなそっけない対応をしてしまって。
傷ついたに違いない、せっかく可愛い女の子になってオレを起こしてくれたというのに……起きてやはり本当だと分かったら、気が済んだというまでお前の望むことをいくらでもしてやるから。どんな無理も聞いてやるから。お手製じゃない結婚指輪の購入でも赤ちゃん作りでも何でも。

だがしかし、お前が男になっていようと女になっていようと、まずはお前の健康第一。
お前の秀麗な頭にたんこぶを作るわけにはいかないんだ。

おやすみ、花月。

必要な時に自分の意志で自由に睡眠が取れるよう修行した甲斐あって、寝る、と決めた十兵衛はあっという間に眠りについた。





一方寝室の外、さらに部屋を抜けてここはマクベスのマシンルーム。

花月がガチャっとドアを開けて入ると、そこには銀次を初め、マクベス、朔羅、笑師、その他VOLTS幹部メンバーのうちおふざけ好きな面々だった。

「おはようございます、銀次さん」

とりあえず挨拶は銀次のみに、あとは目線で朝の挨拶をして中央に入る。

「ちゃんと絃電話、つながってました?」
マクベスがバッチリというように親指をあげる。

「ねー。カヅッちゃん達、朝はいつもあんな感じなの?」
「何がですか?」
「おはようのキスとか」
「だいたい。銀次さんにもしましょうか?」
「あはは、十兵衛に悪いから遠慮しておくよ。それにオレ、やっぱり女の子のキスがいいよ」
「そうですか…ちょっと残念です。───で、どんな按配でしょう」

人数分の折られた紙片を、花月は1枚1枚めくってその紙面に書かれた内容を読んでいく。

「『見たとたん鼻血を出して倒れる』─少年漫画みたいだね。外れ。『プロポーズする』─十兵衛、そんなにすぐに割り切れる性格じゃあないよ。これも外れ。次は…『貴様が女になっても、オレは貴様のことを守ることに生きるのは変わらない、と誓う』…これ、朔羅さんでしょう」
「ええ、十兵衛ならまずこう言うかと思ったのだけど…。いきなりふて寝するとは思わなかったわ」
「あれってふて寝だったのかなぁ?」

花月は次々を紙をめくっていく。

「ちーー、せっかく朝から濃厚なラブシーンを聞ける、思うたんになぁ!」
「笑師…──悪いけどそういう展開だったら遠慮なくこっちの絃切ったよ」

にっこり笑って、君は何に賭けたのかな…と、箱を探す。

「あ、これだね…『心を込めて赤ちゃん作りをしようと言い出す。そして着床完了!─3倍賭け』──笑師、僕、本当に女の子になったわけじゃないんだから着床は無理だって……」

「──僕の計算も間違うことがあるんだな…」
「マクベスって何に賭けていたんだっけ?『これは夢に違いないと言って自ら壁に頭を打って倒れる』。なんか酷いなぁ。──確かに十兵衛らしいかもしれないけど」

しかし心理として1番当たっていたということは知る由はない。

「うーん、結局、誰も当たってない、ってことか」
花月は最後まで目を通し、ばらばらになった紙を集めてトントンと整える。
「ふふ、じゃあ賭けの元締めである僕の勝ちですね」

含み笑いをしながら箱に入っていた賭け金を集め、参加料を差し引いた後に残ったいっぱいの1000円札を慣れた手つきで数え始めた。
普段お金には殆ど頓着しないと言ってもいい花月が、こんな賭けを提案し、さらにやたらと嬉しそうにしているのを全員が不思議に思う。
まさか、単純な余興として自らを切り売りするようなこんな賭けを提案したわけでもなかろう。

そしてその全員の疑問を代表し張本人に投げかけたのは笑師春樹だった。

「花月はん、その金どないすんや」

すると花月はまさに天使の微笑みで聞いてくれてありがと♪とばかりにニッコリと返事をした。

「うん、あのね!もうすぐ十兵衛の誕生日だからね、誕生日プレゼントを買うつもりなのv」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」

あまり、と言えばあまりの答えにその場にいたものは誰も言葉を返せなかった。



そ……そんな、誕生日のプレゼントごときで巻き込まれたんですか……私達は………



「20歳の誕生日だし盛大にお祝いしてあげたくって。よぉし!これで豪勢なのが買えるぞ〜〜」

萎えて後ろに倒れ伏す他のメンバーには気が付きもせず、花月は手をグーにして決意を新たにする。

「──もっとも、十兵衛カッコいいから何贈るか迷っちゃうんだよね…どうしようかな〜」

さらなる追い討ちをかけながら、花月は約束の時間だからと十兵衛を起こしに部屋を出て行った。











──筧十兵衛。
彼が己の実力で手に入れた、「形になった何か幸せなもの」が手元にやってくるのはこれから1週間後の出来事である。