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------13.Death------
「君にこんなことを頼むのは筋違いだろうが、人をひとり、殺さないで連れてきて欲しい」 それが、一人の男が写る写真を渡された時の言葉だった。 昼に彼を見た所為なのか、痩躯の黒衣の手捌きが冴え 遊ぶように男を追詰めながら、思考だけが他へと飛ぶ ――あのひとは 道の向こう側から気づいた―― 獲物とされる目の前の男と、誰かと比べるように 比べたことを可笑しがるように、瞳が一瞬甘い憂いを帯びる ――一瞬の あの殺気立つ視線―― 僅かに絡んだ視線を思い出して閃く刃に自然と勢いが乗る その場を彩るのは血の匂いと鮮やかな赤 闇に潜む黒と指を幾つか落とされてしまった哀れな獲物の悲鳴 ――あのひとの瞳が………―― 強張って声が出ずに唇だけで助けを求める男を眺め 飽いたように傾いた帽子を指先で直して武器を仕舞い 付いて来るよう小さく顎を動かすと衣擦れの音も微かに踵を返す ――………………―― 中断した思考は言葉の羅列にはならず 長く遠く靴音を響かせて歩きながら 男から見えない口元に微かな笑みが浮かぶ 死なずに済んだことを喜んだ男は 他の人間によって依頼者の元に届けられた。 ------13.Death------ |
------15.Satan------
「蛮ちゃん………?」 本日数度目の呼びかけに、片眉を上げながら言葉を返し 「珈琲に砂糖いれてたっけ?」 手元の珈琲カップを示されて胡乱気に視線を向け 「や、だって………」 視線に怯えるように言葉を切る相手を眺めながらカップに口をつける ――物騒な面 してやがった―― 思いがけず口の中に広がった甘さに眉間に皺を寄せる 珈琲の追加注文をしつつ、カウンターにだれている銀次に 砂糖入りの珈琲を売りつけ ――相変わらず……―― 一瞬絡んだ視線を思い出しながらシャツから煙草を取り出し 少し下を向いて隠れる表情の中、口元に自然と笑みを刻み 血色の瞳が脳裏にちらつき、像を払うようにして咥えた煙草にマッチで火をつける 燃え殻を灰皿へ落として深く煙を吸い込み ――……………―― 俯いた顔にかかる髪の間から覗く唇が 昼間と同じように音無く言葉を綴る ――『ヨ・ル・ニ――』―― 新しい珈琲カップを受取りながらまだ新しい煙草を灰皿に置き ブラックの珈琲を口に運ぶ 銀次が珈琲を引っくり返した事により 蛮の物想いはあっさり中断されることになる。 ------15.Satan------ |
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