カヅたん、じゅーべーに乗る



ふわふわ布団にくるまって隣りで幸せそうにしていた花月が、ぽつりと言った。
「─ねぇ、僕、今度は上がいいな」
「は?」
あまりの直接話法に凍ったのか、その内容に凍ったのか十兵衛は間抜けな声をあげる。
「う…上?」
(そ、それはオレが受ける、という事だろうか…)
「─ダメですか?」
まっすぐに十兵衛の目を見て聞いてくる。冗談でも何でもない、というのがその真剣な顔で分かる。
花月の頼みとなると否といえない十兵衛は、しばしの逡巡のあと覚悟を決めて頷いた。
(サムライたるもの、潔くなければならぬ!)
「いや、貴様がそうしたいというなら構わない」
「そう?嬉しいな」
花月はにこっと笑う。
(嗚呼、グッバイ、オレの貞操…)
「これだ!って思ったんだ。ええと、騎○位っていうの?」
(な…なんだ○乗位のことか……………………………ええっ!?)
「花月!一体どこからそんな!!」
思わず声が荒くなる。一体どこからそんな言葉を…!!
純情で、いつまでも可憐だと思っていた。オレのような男とこんな関係になってさえも汚れを知らないエンジェルと思っていたのに一体いつの間にそんなすれっからしな知識を…。
「本を読んで勉強したんです。いつも十兵衛がしてくれるのを待っているだけなんて十兵衛に悪いと思って」
な…なんて健気な心根、と十兵衛はひとしきり感動するが、ちょっと待て。本を読んだって一体。
「な…なんて本だ」
「『明るい○婚生活のすすめ』」
「どどど、どこからそんな本を…」
「MAKUBEXのパソコンを借りてインターネット通販を頼んだんですよ。黒猫ヤマトのブックサービス。安くて早いんだ」
「そ…そうか」
花月はベッドのサイドボードから1冊の本を取り出す。
「すごいね、この本。僕、こんなにやり方があるなんて全く知りませんでした。四十八通りなんて」
「……」
「あ、これとこれ──あ、これもしてくれた事ありますね」
花月は楽しげにページを繰る。
元より勉強家な花月のこと、新しい知識となるとそれへの興味の程は高く、またその吸収も早い。
「あ、これも覚えてますよ。あのまま、おかしくなっちゃいそうで…気持ち良過ぎて怖いくらいだった…──にしても凄い名前だなぁ…」
花月は次々と説明書きを読み上げる。三文官能小説にしか思えないそれらは恥ずかしくて聞いていられない。いや、それを恥ずかしいと思うオレがすでにダメなのか……。
「十兵衛」
「何だ」
「これ。こんなアクロバティックな感じで本当に気持ちいいのかな?──ねぇ、試してみない?」
「──これは無理だ」
「えー、どうしてー」
駄々をこねるように、ねーどうしてーと聞いてくる。
「どうしてって、貴様は男なんだからどうやっても出来ないことがあるんだ」
「体のやわらかさには自信あるよ」
ひょい、と長い脚をあげる。
布団をかぶっているとはいえ一糸まとわぬ姿でそんな事をやられても…思わず目をそむける。
「そんな事、分かっている……」
「じゃあ」
「それでも出来ないんだ」
「つまんないのー。十兵衛の意地悪」
じゃあ〜と再びページをめくり始めた花月の手から本をとりあげる。
「あっ」
「本なんか、読まなくていいから…」
まだ何か言いたそうにしている花月の口をキスでふさぐ。
しっかりと、濃厚にくちづける。
「は…ぁ、…いきなり……」
「貴様が、さっきからそんな話ばかりするから」
「僕のせい?」
「ああ」
「ずるい…。急に、あんなキスしたら──さっきしたばかりなのに──僕、…」
「いいじゃないか─してみたいんだろう、その……」
さすがに言葉に出せない。だけど花月には分かったようでぱっと顔を明るくする。
「うん!」
がばーっと飛びつくように抱きついてきた花月を受け止めた十兵衛は

ごんっ。

ベッドの縁に思い切り頭をぶつけた。


目の前にキラキラ光る星が綺麗だ……花月も綺麗だがな…ぼんやりそんな事を思いながら、十兵衛の意識は闇に吸い込まれていった。







終。