HOLD




「赤屍さんって・・・綺麗な顔だね!」
それはふと近くを通りかかって寄った喫茶店『Honky−Tonk』で、赤屍が温かいコーヒーを口にしていた時だった。
そこでバイトをしている少女、水城夏美がカウンターごしから赤屍の言った言葉にマスターの波児は、
口にくわえていた煙草をポロッと落とした。一方、赤屍はキョトンとめずらしく間抜けた表情を浮かべる。
「・・・綺麗、ですか?」
「うん!だって肌だって白いし、顔も整ってて・・・それに・・」
夏美が満面な笑顔を見せて、赤屍の顔を更に間近から覗き込んだ。思わず赤屍の方が後ろに退く。
(・・・『怖い』という感情は無いのですかね・・・)
「・・・何ですか、夏美さん」
「綺麗な紅の瞳・・・、まるで宝石。ルビーみたい!」
夏美の言葉に一瞬赤屍の思考を真っ白にさせた。目の前にある夏美の笑顔に眩暈すら覚えて、
片手で顔を押さえる。
「・・・そんなことを私に言えたのは貴方が二人目ですよ、夏美さん」
「んにゅ?」
可愛らしく首を傾げて、夏美は困惑した様子で猫のような声を漏らした。
赤屍は自嘲気味な笑みを零して、ふっと金色の光を称えた少年を思い出す。
(一人目は・・・貴方でしたね、銀次君・・・?)
『雷帝』という名を欲しいままに、無限城で生きてきた、純粋な少年。時に優しい、他と変わらぬ普通の少年。
そして、時には残酷なほど、私を追い詰める金色の獣。
「・・・銀次クン」
「銀ちゃんがどーしたの?」
「えっ・・・」
びくりと身体が跳ねる。我を忘れて物思いにふけっていた自分を自覚して、赤屍はハァと吐息を漏らした。
(いつから・・・こんな)
「赤屍さん、大丈夫?」
夏美の小さくも温かい手が赤屍の額に触れる。ささやかな温もりが伝わってきて、赤屍は安心感に満たされた。
紅い瞳を伏せてしばらくそうしていたが、すぐにその手を離れさせる。
「大丈夫です」
「う・・・うん・・・」
自分をこれほど心配してくれる夏美に赤屍はニコリと微笑んだ。その綺麗な微笑みにつられたように夏美も
嬉しそうな笑顔を見せると、カウンターごしから思い切り赤屍に抱きついた。赤屍は驚いて焦りの色を見せる。
「な、夏美さん?」
「赤屍さんて、銀ちゃんが好きなんでしょ!」
「私が・・・ですか?」
「私も銀ちゃん好きだよ。同じだねっ!」
(・・・・す、き)
そんな感情、今まで持った事が無い。
赤屍は紅い瞳を揺らがせて、抱きついている夏美の小さな肩に顔を埋めた。
(知らない・・・・そんなの・・・)
「赤屍さん・・・あったかーい・・・」
「・・・・可笑しな女の子ですね」
赤屍の口元にふんわりと穏やかな微笑が浮かべられる。
かつて誰も見た事の無いであろうその微笑みはまるで女神のようで優しさすら感じられた。
「・・・・・・すぅー・・・」
「・・・夏美さん?寝て・・・ますか?」
カウンターごしから抱きついているこの体勢でよく眠れるものだ。
赤屍はそっと夏美を起こさぬように身体を離れさせて、歩み寄ってくる波児に夏美を抱かせた。
自分は椅子から立ち上がり、カウンターの上に乗っている愛用の黒い帽子を被る。
「ごちそうさまでした」
「あ、あぁ」
赤屍はクスと微笑を零し、波児に抱かれて眠っている夏美の額に軽くキスをした。
そっと頬にかかる黒髪を撫でて、淡く微笑むと顔を上げ、ゆっくりと店を立ち去った。
あっけにとられた波児は言葉も無くしていたが、やがて浅い溜め息を漏らすと店の奥のソファに夏美を寝かせた。
「・・・アンタはすごいな。夏美ちゃん」
波児はそう言って窓の外を見た。赤い夕日の光が差し込んでくる店内で、一瞬笑みを浮かべる。
「・・・さぁーて、GBのお二人さんは今日の仕事は上手くいってんのかねぇ・・・」