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(03/8/29作成)

(03/9/30掲載)


グルーヴ(英:groove) 
 1対1で付き合うのは恥ずかしいので、他の人と一緒に遊びに行ったり食事に行ったりすること・・・は「グループ交際」ですね。シャイな私は、こんなものしか連想できません。
 それはさておき、今の私たちが「グルーヴ」と聞けば、「グルーヴ感」とか「グルーヴィング」といった関連語も含めて、音楽を演奏する上での「ノリ」とか「ハマリ」といった意味が頭に浮かぶことでしょう。ちょっとへそ曲がりのライターがクラシックで使ったりもしますが、基本的にはジャズやロックで使われる言葉です。「黒人独特のグルーヴ感」みたいに。

 しかし、本来「グルーヴgroove」とは、「溝」という意味、特に音楽関係に限れば、かつてのアナログレコードの音信号が刻まれた溝を指し示す言葉でした。1948年に、それまでのSPレコードに代わってLPレコードが登場したときには、長時間の演奏を実現させるためにこの溝の幅を三分の一程度に細くして、同じ面積でもより長い溝を掘ることを可能にさせました。これが「マイクログルーヴ」と呼ばれるもの、以後、LPレコードの代名詞として使われるようになります。
SPの溝
LPの溝
 さらに、1963年には、アメリカのRCAが「ダイナグルーヴ」という技術を開発しました。これは、溝を刻む(カッティング)前の電気的な処理技術で、直接「溝」には関係はないのですが、「従来のものとは一線を画した素晴らしい音が溝に刻まれている」ぐらいのイメージで大々的に宣伝を行ったのです。下のようなロゴを懐かしく思い出される方もいらっしゃることでしょう。
 さて、この「溝」と、冒頭の「グルーヴ」とは、おそらく全く無関係なものだと思っている人が殆どではないでしょうか。事実、日常的にLPレコードを手にしているクラブDJなどでも、この2つの概念は別物だと思っているそうですし、ましてや溝のあるレコードなど見たこともない人にとっては「溝」そのものが死語ですから、そもそも関連づけようがないわけです。しかし、「グルーヴ」というのは、まさにレコードの「溝」に由来した言葉なのです。

 そもそも「グルーヴ」とは、「イン・ザ・グルーヴ in the groove」という言い方を縮めたものです。これは、レコードプレーヤーの針が、レコードの溝をきちんとトレースしている状態をあらわします。レコードプレーヤーなど手に触れたことのない世代も増えている昨今では、なかなか具体的なイメージを持つことは困難になっていますが、ミクロン単位の溝を細い針(というか、石)でなぞっていくのですから、針やレコードの状態によってはきちんとトレースするのはかなり大変なことだったのです。それが、きちんと調整されたものでは、レコードの溝と針が一体となって音楽を再生するという、まさに「ノッ」て「ハマッ」ている状態が生まれるのです。もちろん、現在ではそんな語源などは忘れられて、「グルーヴ」が完成した言葉として独り立ちしていることは、言うまでもありません。

 話は変わって、最近「タイムスリップグリコ・青春のメロディーチョコレート」というのが大ブレイクしています。
 オマケに8pCD(シングルCD)が付いたチョコレートなのですが、もちろんお目当てはチョコレートではなくこのCD、60年代から80年代にかけて実際に発売されたシングル盤を、シングルCDの上に忠実に復元したものが、今や社会の中核として働く世代の「大人買い」を誘って、とてつもない売り上げを呼んでいると言うことです。何しろ、今年7月のCD生産枚数が、このオマケのおかげで前年同月比で13%も増加したというのですから。最近は殆どマキシシングル化しているために、新譜では殆ど生産されていないシングルCDにいたっては生産が6倍(!)ですと。
 このCD、まるで本物のシングル盤(ドーナツ盤というやつですね)そのもののような、凝りに凝った造りはまさに称賛に値するものです。なにしろ、真ん中に穴の開いた中袋や、歌詞カードまでもが忠実に再現されているのですから。
 そして、何よりすごいのは、今まで話してきた「グルーヴ」までもが、きちんと印刷されていること。もちろん、本物の溝はもっと細かいものですが、雰囲気は良く出ています。何よりも、いわゆる「無音溝」という、最も外周に近い部分とレーベルに近いところに刻まれている、幅の広い溝まできちんと再現してあるというのが、感激ものです。最近はなかなか現物を見ることは出来ないでしょうが、一番内周にある溝は丸く閉じられていて、演奏が終わっても針がはずれないようになっている様子まで、よく分かりますよ。
 ところが、です。良く見てみると、音が入っている部分からその内部の無音溝に入るところが、ちょっと変なのです。
 当然ですが、レコードの溝というのは、最初から最後まで1本で書かれた「一筆書き」になっています。ところが、この部分、線路のポイントみたいに二股に分かれていません?これに気が付いてよくよく調べてみたら、この溝の印刷は、このように模式化されることが分かりました。
 なんということでしょう。音が入っている部分の溝は、「同心円」だったのです。これでは、いつまで経っても音楽は終わりませんね。さらに、最外周の無音溝は、向きが反対。これでは、針を下ろすと外側に飛び出してしまいます。
 オタクというか、マニアックというか、このような「揚げ足とり」をついつい行ってしまう自分の性には、ほとほと嫌気がさします。しかし、これほどまでに細かい神経を使って作られたものが、こんな初歩的なミスを犯しているなんて、肝心の所で担当者の「グルーヴ」が不足していたのでしょうね。

(9月3日追記)
数日前、江崎グリコのサイトから、「お客様相談センター」宛のフォームでこのページのことを教えてあげました。そうしたら、今日になって担当者から次のような返事が届きましたので、ご覧下さい。
お知らせいただきましたサイトを担当者にて拝見させていただき、以下のような返事が戻ってまいりましたので、ご案内させて頂きます。

同心円についてにつきましては、溝がスパイラルでなく同心円なのは、ミニュチュア化した際にこちらの方がイメージがよかったので、ディフォルメした形で「同心円」を採用しました。

外周の向きの件は、ご指摘の通り、向きが反対になっております。おもちゃの生産はかなりの部分を既に終了しておりますため今回の企画での修正は困難な状況でございます。次回の企画においては、今回のお申し出を参考にさせて頂き、「外周の向き」の修正を検討し、より高い完成度の商品作りを目指したいと考えております。

貴重なご意見ありがとうございました。今後ともご意見やご感想がございましたらお知らせくださいますようグリコの商品をご愛用くださいますようお願い申し上げます。

江崎グリコ(株)お客様相談センター
 

2004年3月7日追記)
「青春のメロディーチョコレート」の第2弾が発売になりました。
早速「溝」を見てみましたが、外周の無音溝の向きは、確かに正しい向きに直されていました。しかし、「同心円」であることには変わりありません。前述のグリコからの回答が、そのまま反映されているようです。もちろん、私の許へ新しい製品が送られて来るというようなことは、一切ありませんでした。
(3月8日再追記)

 昨日は気が付かなかったのですが、良く見ると内周の無音溝には「マトリックス番号」が打ってあるではありませんか。これは、第1弾にはなかったもの、「お見事!」としか言いようがありません。ここまでやっておきながら、なぜ「同心円」に拘るのかが、イマイチよく判りませんが。


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