

(02/3/16作成)
(02/4/7掲載)
エンドレス・オクターブ(英:Endless Octave)
挑発的なファッションで(艶ドレス)合コンに行き、遊びなれた女のふりをしたら(演ドレス)、やはり一番男の目を引いて、それが縁で結婚できたのはいいけれど(縁ドレス)、相手はとんだ浮気者で、愛人を作りまくり。結局、出会いの発端となったドレスのことを怨みながら分かれてしまう(怨ドレス)ものの、「落ち込まないでね」と応援されれば(援ドレス)、さらに挑発的なファッションで・・・
そんな、いつまでたっても終わらないどろどろした世界から、一気に話はバッハへと変わります。有名なオルガン独奏用の曲に、「トッカータ、アダージョとフーガ
BWV564」というのがあります。出だしはこんな曲です。
最初のフレーズ、楽譜ではこうなっているのですが、
もしかして、こんな風に聴こえている人はいませんか?
そう、最近私のまわりで、この曲が下の楽譜のように聴こえると訴える人に数多く出会ってしまったのが、こんなコラムを書くきっかけとなったのです。この現象について考えてみると、原因として2つのことが浮かんできます。
(1)メロディーへの思い入れ。
このテーマは、かなり変わった形をしていて、「ド・ミ・ソ」と上昇した後、いきなり6度下の「シ」に下降します。普通「ド・ミ・ソ」と来れば、次の音はさらに上へ行くだろうと予想するのが、普通の人のパターンです。
(2)倍音の認識
オルガンのような楽器の場合、音色を作るために、楽譜に書かれた音のパイプだけではなく、1オクターブや、2オクターブ、あるいはさらに5度上の音など、自然倍音に含まれる音のパイプも同時に鳴らしています。したがって、例えば「シ」の音は、実際にオクターブ上の音も鳴っているわけですので、耳の方が選択的に高い音を認識してしまい、メロディーが変形して聴こえるのです。
このように、人間の耳などというものは、かなりいい加減なものであるのかもしれません。そんな、ある種の「錯覚」を利用したものが、今回のテーマ、「エンドレス・オクターブ」です。
まず、このMIDIを聴いてみてください。
ピアノによるハ長調の上向スケール、しかし、確かに音が高くなっているはずなのに、いつの間にか元のところに戻ってきてしまう、ちょうど、オランダの版画家M・C・エッシャーが描いた「無限回廊」のような世界が展開されてはいませんか?
このMIDI、楽譜にしてみるとこうなります。
つまり、9オクターブから10オクターブにわたるユニゾンで、音階を鳴らしているだけなのです。そうすると、パソコンの再生範囲などは、ピンクのラインよりもずっと内側でしょうから、さっきのバッハの場合のように常に音階は上へ向かっているように聴こえるというわけです。
もちろん、これは私が考え出したものではなく、1972年ごろにアメリカで考案されたもの、最初は7インチLPで出ていたようですが、私が入手したのはその7インチLPを正方形のシートにプレスした「ソノシート」です。
A面はこの上昇スケールに加えて、下降スケール、B面には連続音(グリッサンド)での上昇、下向のパターンが録音されています。これが作られた当時は、原理がわかっていても実際に音を作るのには相当の時間と機材が必要とされましたが、今ではパソコンがあれば2、30分でいとも簡単に作れてしまいます。そんなこともあって、最近ではそんなに騒がれなくなったのでしょうが。
