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(03/3/3作成)

(03/3/25掲載)


アルバム(英:album) 
 「子供の頃のアルバムを懐かしく眺める」とか、「卒業アルバムを開く」とか、ふつう「アルバム」と言うと、私たちはたくさんの写真が貼ってある、あるいは印刷してある本のようなものを思い浮かべます。ページの一枚一枚は厚手のボール紙で出来ており、とてもがっしりした造り、表紙も、高級なものは皮張りに金文字などという、凝った装丁のものもありますね。それこそ、一人の人間の思い出を包み込むのにふさわしいような、厚みと重みを持ったものです。
 ところで、私たち、音楽愛好家は、「アルバム」という言葉を聞くと、もっと違った物を連想したりしませんか?そう、それは、「アーノンクールの新しいアルバムどう?」とか、「このコンピレーション・アルバムは、良く売れてますよ」という言い方で使われるもの。そこではけっして、目玉と額の大きい指揮者の写真集について感想を聞いたり、いろいろなところで使われた写真を編集(コンピレーション<コンパイル)して作られた物の売れ行きの話をしているわけではありません。もうお分かりですね。ここでは、「アルバム」というのは、「CD」と同じ意味で用いられているのです。
 では、なぜ「CD」のことを「アルバム」と言ったりしているのでしょう。「アルバム」に写真が入っているように、たくさんの曲が収録されているから、なのでしょうか。それは、ある意味で当たっていると言えるでしょう。特にポップスの場合、「アルバム」に対して「シングル」という概念があって、「シングル」とは、文字通り1曲しか入っていない(大概カラオケとかおまけが入っていますから、実際は4曲ぐらいになりますが)CDのことを指し示します。だから、「アルバム」と言えば、12曲ぐらい入っているCDのことになるわけですね。でも、待ってくださいよ。ポップスの場合はそれで分かりますが、クラシックでは、確か、「マーラーの交響曲第5番」みたいに1曲しか入っていないものでも「アルバム」って言いませんでしたっけ。「ラトルの、ベルリン・フィル就任記念アルバム」と、確かに言ってましたよね。もっとも、この曲は楽章が5つあるから、5曲と考えるのでしょうか。それならば、「ストラヴィンスキーの春の祭典」はどうです。でも、最近はこれ1曲だけだと損をした気持ちになりますから、誰でも納得できる「ラヴェルのダフニスとクロエ全曲」なら文句ないでしょう。実際、1時間以上休みなしで演奏されるこの曲のCDで、トラック・ナンバーが全く付いていないものを、かつて見たことがありましたよ(「夜明け」まで頭出しをするのが大変でした)。どうです。1曲しか入っていなくても「アルバム」と呼ばれるものが、確かにあるのですよ。

 「アルバム」の語源をたどるためには、今のCDの前の前のフォーマット、「SP」の時代までさかのぼらなければなりません。もちろん、「SP」というのが「Secret Pornography」の略語でないことは、先刻ご承知のことと思いますが、これは「Standard Playing」の略。のちに長時間の再生が可能なフォーマットが現れた時に、それが「LP=Long Playing、(けっしてLive Pornographyではありません)」と名づけられたため、今まであったものが「SP」と呼ばれるようになったのです。これが、「SP」の現物です。直径が10インチ(25cm)と、12インチ(30cm)の2種類があります。
 これは、毎分78回転という、かなりの高速で回転しているターンテーブルの上に乗せられ、鉄や竹の針で表面の溝から音を取り出して再生を行います。1面全部再生するのに、せいぜい3分か4分しかかかりません。つまり、切れ目なしに音楽を演奏できるのは、長くても4分間ということになります。クラシックの場合、小品でしたらこれでも何とかなりますが、交響曲のような長いものだとそうはいかず、当然、1曲のために何枚ものSP盤が必要になってきます。
 ところで、SPの場合、のちのLPのジャケットというものに見られるような、盤面全体を覆うパッケージは普通は用いられず、このように、真中に穴が開いて、レーベルを直接見ることが出来るような紙袋が使われていました。
 長い曲で、何枚ものSP盤が必要なものでも、基本的には、その包装形態は変わらないのですが、やはり、1曲を一まとめにしたい場合とか、全集のようなものの場合、その紙袋を束ねて、本のように開いて、中身のSPを出し入れできるようなものが作られました。
参考:「証言 日本洋楽レコード史(戦前編)」(歌崎和彦編著:1998年音楽之友社刊)
 これが、「アルバム」です。どうです、外観はまさに、最初に書いた写真集としての「アルバム」そのものですね。

 SPと同じ外見でも、回転数を遅く(毎分33 1/3回転)溝の幅を細くして、長時間の再生が可能になった「LP」が登場した時(もちろん、再生音の格段のグレードアップもなされています)、それは、まさにSP時代の「アルバム」に相当する分量の曲を1枚に収録できるものでした。したがって、この時点で、LPのことを「アルバム」と呼ぶ慣例が出来、それは、LPからCDに変わった時にも、そのまま受け継がれたのです。
 ちなみに、ポップスの場合は、1曲がきちんとSP1枚に収録できていましたから、LPとほぼ同時期にSP1枚分の曲が収録できる新しいフォーマットEP(Extended Playing何度も言いますが、けっしてErotic Pornographyではありません)を重用することになります。これは毎分45回転の7インチ(17cm)径、ジュークボックスで使えるように、真中の穴が異様に大きく、その形から「ドーナツ盤」とも、1曲(正確には表裏で2曲)しか入らないので、「シングル盤」とも呼ばれました。
 この時点で、ポップスの世界にもLP=アルバム、EP=シングルという新しいコンセプトが生まれることになったのです。

 余談ですが。SPからLP、EPに移行しつつあった1960年代には、レコード盤を再生するプレーヤーには、それぞれのフォーマットに合わせて、SP用の78回転、EP用の45回転、LP用の33回転、そして、誰もその実態は知らなかったという「16回転(なんでも、カーオーディオのはしりと言いますが)」と、回転数を4段階に切り替えるスイッチがついていました。「そうそう、それに、ストロボスコープという、縞模様もあったっけな〜」などと遠い目をしている人を見かけても、怖がらないで下さいね。害はないのですから。
左下のものは、EP用のアダプターです。


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