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「惑星」に登場する不思議な楽器

98519掲載)


10月のTCCで演奏することが決定したホルストの「惑星」には、とても珍しい楽器が登場します。
バスオーボエ

バリトンオーボエ ヘッケルフォーン
 バリトンオーボエ   ヘッケルフォーン 

 正式には「バリトンオーボエ」(向かって左)と呼ばれる楽器で、音域は通常のオーボエの1オクターブ下です。もともとはファゴットのように2本の管を束ねた曲管でしたが、フランスのオーボエ製作者フランソワ・ロレの手によって1889年にこの形に改良されました。
 しかしこの楽器には音色に均一性がないなどの欠点があったため、ファゴット製作者として有名なヴィルヘルム・ヘッケルは、R・シュトラウスの依頼を受けて改良を試み、1904年に「ヘッケルフォーン」(向かって右)という楽器を完成させました。これはR・シュトラウスの「サロメ」や「エレクトラ」といった大編成のオペラや「アルプス交響曲」の中で使われましたが、残念なことにそれ以後の作曲家が好んで使うほどの大衆性は獲得できなかったようです。ホルストもスコアには「バスオーボエ」と指定しています。ちなみに、ヘッケルはこのときF管の「ピッコロ・ヘッケルフォーン」と、Es管の「テルツ・ヘッケルフォーン」という同属の楽器も作っていますが、それらは現在では完璧に忘れ去られています。
 バリトンオーボエとヘッケルフォーンは、管の太さやテーパーのつけ方など外見がまったく違っていますが、なかでも特徴的なのはステープル(リードと管体をつなぐパイプ)の曲がり具合です。「バリトン」は一部ヘアピンになっていますが、「ヘッケル」はストレートに曲がっています。また色も、黒(バリトン)、赤(ヘッケル)と異なっています。
 どちらの楽器も、基本的にはハーモニーの中で使われるためあまり目立つことはないのですが、「惑星」では5曲目の「土星」と7曲目の「海王星」にソロで現れますので、CDなどでこの楽器の音色を確認することができます。「土星」では冒頭のフルートとハープのオスティナートに乗って各パートが交代でテーマを歌い継ぐ部分、コントラバス、ヴァイオリン+ヴィオラ、オーボエ、チェロに続いてわがバスオーボエは5番目に登場します(145秒付近)。「海王星」では420秒付近、女声コーラスが出る直前にコントラバスの上向テーマを受けて登場、オーボエ族に引き継ぎます。


「土星」のソロの部分でバスオーボエがアップになっている写真を集めてみました。

バリトンオーボエの写真その1 バリトンオーボエの写真その2 ヘッケルフォーンの写真
 秋山和慶指揮/N響(86・3・7)  P.スタインバーグ指揮/N響(92・10・1) 井上道義指揮/京都市響(90・7・27)

 これでみると、N響ではバリトンオーボエが使われていますが、京都市響はヘッケルフォーンを使っているみたいですね。アップの写真はないのですが、N響は96112日の「惑星」でもやはりバリトンオーボエを使っています。
 これは決してN響にヘッケルフォーンが無いというわけではなく、曲の指定どおりに使い分けているということなのです。現にR・シュトラウスの作品ではヘッケルフォーンを使っているのが確認できました。(92416日の「アルプス交響曲」、93421日の「サロメ」)


アルトフルート
 「土星」と「海王星」にだけ登場する低音用のフルートです。下の図を見てください。上段がアルトフルート、下段が普通のフルートですが、長さが約3割増になっています。そのため、同じ運指で普通のフルートより4度低い音が出るので("G管"といいます)、楽譜は4度上に移調して書いてあります。「惑星」のスコアでは"Bass Flute in G"という表示になっていますが、これはアルトフルートのことです。ちなみに、「バスフルート」というのはアルトフルートのさらに5度下、つまり普通のフルートの1オクターブ下の音が出る楽器です。アルトフルートは近代のオーケストラ曲ではかなり頻繁に使われており、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」やストラヴィンスキーの「春の祭典」などでは堂々としたソロも披露しています。
 「惑星」では、フルート族だけで形成するハーモニーの最低音を受け持ち、幻想的で神秘的な響きの立役者としての仕事にひたすら専念しているように見えます。しかし、曲の最後の最後には、女声合唱の「アルト」のパートをなぞってオケの中ではただ一人メロディーを奏でるという晴れ舞台も待っているのです。

フルートとアルトフルート


 次はアルトフルートのアップの写真、向かって左の方が吹いている楽器がそうです。

アルトフルートの写真
シャルル・デュトワ指揮/N響(98・4・2)

 右手と左手の間隔を向かって右の普通のフルートと比べれば、違いがお分かりになるでしょう。この方は神田さんとおっしゃる若手のフルーティストで、体が大きいので楽に構えていますが、普通の人が吹くと右手が不自然に遠くてとても大変です。ちなみにこの神田さんは金太君に伝言板で「待っている」といった神田さんとは、もちろん別人です。


■参考文献


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