オスカルは、床に入ったがなかなか寝付けなかった。
仕方なく、寝台から抜け出して明かりをつけた。
暫くぼんやりと考え、本でも読もうかと明かりを持って書斎へ向かった。
その時、ふと衣装部屋の扉が目に入った。
オスカルは暫くその扉を見つめていたが、結局扉を開けて衣装部屋へ入った。

明かりを照らしてあたりを見回す。
そして今日半日着ていたドレスを見つけた。
ドレスは侍女のナタリーの物であったが、オスカルが着る為に直さなければならなかったのでオスカルがナタリーに新しくドレスを買うという形で譲り受けて・・・つまり今ではオスカルのドレスとなっていた。
オスカルはドレスを見つめた。
侍女達に無理やり押し切られた形で着たが、当初考えていたほど悪いものではなかった。
勝手が違って不自由ではあったにせよ、気分的には普段と大差なかったのだ。
アンドレと一緒だったからだな。
オスカルはクスリと笑った。
わたしがもし女性として育っていたとしてもアンドレとはこんな感じだろう。
何も変わらないのだ。
そう考えて・・・
オスカルは、そうではないことに気づいた。

“もしわたしが女性として育っていたら?”
15になるやならずで嫁がされる、見ず知らずの男の元へ・・・

そして・・・・

わたしの側にアンドレはいない。

明白な事実。
しかし、それは恐ろしいほどの違和感だった。
まるで身体の一部が・・・いや、半分がないような・・・そうだ、あるべきものが無い感覚。
オスカルは部屋の空気が急に重くなったような気がした。

「ゾッとするな。」

オスカルは呟いて・・・思わず苦笑した。
アンドレはいるのだ。
何処へも行かない。
ずっとわたしの側にいるのだ。
たとえアンドレが結婚したとしても・・・・

愛しているよ。愛する女はおまえ一人だ。おまえだけを愛している

昼間の言葉が不意に浮かんで、オスカルの胸に刺さった。
アンドレは・・・いつか誰かにするのだ。
あんな風に・・・今日、わたしにしたように。
そして、わたしをエスコートした時のように優しいまなざしを注ぐだろう。
否、愛している娘ならもっと優しいまなざしを注ぐのか?
バルコニーで、わたしを抱きかかえた時見せたように大切に・・・否、それ以上もっと大切に扱うのだろう。
アンドレの腕の中にいる黒髪の女の姿が思い浮かぶ。
胸の痛みと、何故か・・・腹立たしかった。
オスカルは自嘲した。
もしアンドレが結婚したら・・・やはり今まで通りにはいかなくなるだろう。
だが!アンドレがわたしの元からいなくなるのではない。
ただ、一番大切な女性が出来るだけだ。
そして・・・

アンドレはその女性を一番大切にする、わたしではなく。

オスカルは溜息を付いた。
アンドレが結婚するなら一番に祝福してやらねばならぬのは、幼馴染で友人であるわたしなのだぞ。分かっているのか?
オスカルは自問自答して・・・首を振った。
「酷いな。これほど我侭だとは思わなかったぞ。」
そうだ、分かっているのに・・・それなのに、わたしは嫌なのだ。
わたしは誰にもアンドレを渡したくない。
理性と感情の折り合いが付かない・・・・

オスカルは小さく溜息をついた。
いくら考えても堂々巡りだ。
それに、アンドレは結婚しないと言ったのだ!
オスカルは自分に言い聞かせた。
オスカルはドレスを見つめた。
それからあたりを見回して・・・布袋に目を留めた。
服をその布袋に入れると衣装箪笥の扉を開けて、奥深くに・・・・それをしまいこんだ。
扉を閉める。
そして明かりを持つと部屋の扉の方へ歩いて行き、扉を開いて部屋を出た。