オスカルの部屋は、主の趣味を反映して華美にはならない趣味の良い調度品のみが置かれていた。
たった一つのものをのぞいて。
くたびれかけた何故か細長いテーブル掛けである。
しかしそれは彼女にとって捨ててしまう事は出来ない品物だった。
何故ならそれは彼女の姉、オルタンスがオスカルの為に作った手作りの品、テーブル掛けであるからだ。
(作った本人は断固テーブル掛けだと言い張ったのでテーブル掛けである)
それは、長年置いてあるからくたびれたのではなく、作られる過程でそうなったのであった。
透ける様に薄い布は上質であったが、刺繍が施された事によりその質は随分落ちて見えた。
刺繍は、懸命な事に布と同じ色であったので目立たなかったのだが・・・・
はっきり言うとこれは、テーブル掛けとしては・・・見栄えは非常によろしくなかった。
テーブル掛けとしては・・・・・

「裾をほどいてもう少し伸ばせばいいわね。」
「ウェストがリボンで縛って調整できて良かったわ。」
「それにしてもくすんだ青の花柄だからちょっと地味かな?と思ったけれど・・・」
「そうよね〜」
「何だ?やはり問題があるのだろう。」
オスカルは不機嫌そうに言った。
「とんでもない!」「そうですわ!」
「オスカル様の白い肌がより一層目立ちますわ!」
「透けるようですもの。」
「私どもでも思わず溜息が出そうですわ。」
「殿方がご覧になられたら・・・もう!」
「もう?」
オスカルは聞き返した。
「オスカル様に視線が釘付けですわ!きっと!」
「すぐにでも抱き寄せてしまいますわ!」
「きゃー!」「やだ!ナタリーたら!」「きゃー素敵!」

「・・・・脱ぐ!」

侍女達は慌ててオスカルの機嫌を取った。
「オスカル様!大丈夫です!相手はアンドレですから!」
「そうですとも!」
「彼がオスカル様にそんな事をするとお思いですか?」
「・・・しない。」
「そうでございましょう。ですから何も問題は・・・・」
侍女達はオスカルの姿をまじまじと見つめた。
襟ぐりがかなり開いている。
いつもは軍服と胸を目立たないようにする特別製のコルセットのおかげで分からないが、こうやって見ると予想外に華奢でそのわりに胸が・・・・
「オ、オスカル様、少しお待ちください。」
カトリーヌはそう言うと同僚を部屋の隅へ呼び寄せた。

「どう思う?あれ。」
「ちょっと・・・開きすぎ、かな。」
「うん、あの胸はちょっとまずいわ。」
「あたしが男なら絶対触るわよ。」
「でも・・・アンドレよ。」
「そうそう、ばあやさんも一緒だし。」

「甘い!」

アンナがきっぱりと言った。
「何が甘いのよ?」
「最強最悪のライバルを作り出すつもりなの?」
一同はオスカルを見てそれから顔を見合わせた。
「えーと。なんだわね。」「何かで隠した方がいいかしら。」「そうそう付け襟とか・・・」

「おい!わたしはいつまでこうやっていればいいのだ?」
オスカルが不機嫌そうに尋ねた。

「申し訳ありません、オスカル様。」
「今皆で話し合っていたのです。その・・・」
「何かつけ襟でもした方が・・・」
「もっと素敵になるのでは?と」
「考えていた所なのです。」
「それで何か大きめのレースか白い布でショールぐらいの長さの物があればいいのにと・・・」
「考えていたのですけれど・・・いいものが浮かばなくて。」
オスカルは尋ねた。
「母上とばあやがわたし用に作ったドレスの中に何か良い小物があるのではないか?」
「オスカル様それは無理でございます。このドレスとでは釣り合いが取れません。」
「そうか・・・・」
オスカルは考え込んだ。
「あれを使えば?」
その時、侍女のサラが口を開いた。
「あれって?」
サラは指差した。
サラの示した先には・・・例のテーブル掛けがあった。
「あのくたびれ具合がいいかもしれない。」
「そうね、あたしもいいと思う。」
「それは姉上の作った・・・テーブル掛けだぞ・・・一応。」
オスカルは不安げに言った。
侍女の一人がそれを持って来てオスカルの肩にショールのように掛け胸の前で交差させて端をうまく隠した。
「どうでございますか?」
鏡に映ったそれを見て一同、感嘆した。
本来の用途から外れて違和感すらあたえていたのに、それはそのドレスにしっかり馴染んだ。
「あつらえた様ですわ。」
「ああ、そうだな。」
オスカルも驚いたように答えた。
「あとは髪を結って・・・」
「髪を結うのか!」
「サイドの髪は編み込んで、後で一緒にまとめてシニヨンにするだけですから。」
「5分とかかりませんわ。」
「もうこれで準備は万全ですね!オスカル様。」
楽しげな侍女達とは反対にオスカルは鏡に写った自分の姿を不機嫌に見つめた。

*オスカルの着たドレスに白い襟が付いていた理由です。侍女達はすでにオスカルが最強最悪のライバルである事には気づいていません。テーブル掛けについてはいつかまた(って何か書く気か?)