「で?何処で見つかったんだい。」
「上野駅。」
「上野!あんな所まで行ったのか。」
「歩いて行ける所まで行って、それから缶の貯金箱にあった・・・ほら1円とか5円玉しか入ってないあれよ、前の事があるからお金は隠してあったでしょう。それで電車に乗って行けた一番遠い所が上野。本当に!あのばか!」
「とにかく無事に見つかったんだから、あんまり怒らないでくれ・・・・・って言っても、もう遅いか。」
「当たり前でしょ!!これで3回目なのよ!3回目!今回は学校からいなくなったのよ!警察では“またですか!”って言われたし、学校は・・・・・学校で私が何を言われたか判る?“カウンセラーを紹介しますから一度相談されてみては?”よ!!私がどんな気持ちだったか・・・・」
「ああ、判った。判ったから・・・・冴子さん落ち着いて!でも・・・“カウンセラー”か。まあ普通はそうだろうなあ。」
「なに暢気に納得してるのよ!大体あなたがあの絵を勇から取りあげなかったのが一番悪いのよ!あんな絵さっさと処分してしまえばよかったのよ!」
「そんな酷い事出来る訳ないじゃないか!それにあれは元々勇の絵なのだからぼく達が勝手に・・・・」
「その話はもう結構!生まれ変わりだろうとなかろうと私には関係ないの!今は私達の息子よ。とにかくこれじゃあまたよ。これから先どうなるの?いくら探したってオスカルはいないのよ。」
「でも、絶対いないと決まった訳ではないよ。もしかしたら・・・意外とすぐ側にいるかもしれないし。」
「惣さん!!!!」
「わかってるよ、冴子さん。ところで、勇はどうしてる?」
「泣いてるわ。絵を取りあげたから・・・」
惣一郎は溜息をついて言った。
「絵をかして。」
「渡さないなら、渡すなら駄目よ。」
冴子は言った。
惣一郎は困った様子で冴子を見つめた。
それから目を伏せると・・・静かな口調で話し始めた。

「勇は・・・・昔からずっと、青いものが大好きだった。青なら何でもいい訳じゃない、絵の・・・瞳と同じ色の青だ。お気に入りの綿毛布がそうだね。それから金色、メッキじゃない・・・本当の黄金色。」
「・・・私のゴールドのネックレス、細い鎖が幾重にも連なった・・・無くなってさんざ探したら、勇がおもちゃ箱の中に大事にしまってあったわ。取り上げたら怒って手に負えなくって・・・」
惣一郎は冴子の言葉に笑って頷いた。

「あと桜の花、花の時期はいつもその窓から飽きもせず桜の花を見ていたね。」
「そして花が散ったあとは、いつも泣き通してしばらく手が付けられなかった。落ち着かせる為にお気に入りの綿毛布を抱えさせて・・・ああ、もう!結局、昔からおかしかった事にかわりがないわ。」
「でも今年の春は大丈夫だった。それから前みたいに青や金のものにも執着しなくなった。」
「絵を見つけ出したから。」冴子は小さく溜息をついた。
惣一郎は微笑んだ。

「勇にはオスカルとの思い出も・・・そして記憶もない−色の事を除いては−彼女が持っていた、色というかすかな記憶ではあるけれど。ぼくが思うに、覚えていれば・・・・・出会った時わかるからじゃないかと思うんだ。会いたいんだよ、オスカルにね。」
惣一郎は続けた。
「絵はね、冴子さん。今となっては本当に・・・・たった一つの思い出だから。 勇は、絵を見つけ出した事で手がかりを得た。だから何とかしたいんだよ。誰なのか?何処にいるのか?そして・・・どうして会いたいのか?解らないから焦燥感は余計ひどい・・・・まだ子供だから感情の赴くまま行動あるのみ!だから探しに出かけた。すごく単純だろう?」
「本能の赴くままね・・・・でも、このままでいいはずがないわ。」
「だから話そうと思う。ぼくが知っている事を全て。」
「話すって・・・そんなの話しても理解できないわ。それに、辛い話よ。」
「そうだね、辛い話。忘れた方が楽なのに・・・・でも、忘れたくないんだ。どんなことがあっても・・・・」
惣一郎は少し悲しげに笑った。
「その記憶は・・・いつも彼女との思い出と結びついているから。」