「愛している」

愛する人に自分の気持ちを伝える、一番大切で簡単な言葉。
できるものなら
とうの昔に告げていた言葉。
ずっとずっと昔、きっと10代の頃、まだ子供だった頃に・・・・・

いつも、いつも、いつも・・・・
喉元まで出掛かったその言葉を飲み込んで、目を伏せた。
そうすることしかできなかった。

その言葉は、命と引き換え。
資格のない者にはそれほど重い。
なのにその言葉には何の意味もない。
その上その言葉を伝えれば、おまえを困惑させて傷つけるだけ。

それでも気づいてくれたら!と、
神に祈るような気持ち。
絶望の中に微かな期待。
だけど思い知らされる、それすらないことを・・・
おまえの心は他の男のもの。
取り返す術など皆無。
おれがおまえの目に男として写ることはないのだから。

分かっていた、知っていた。
どうしようもない事なのだと、割り切れていると思っていた。
何もかも承知しているはずだった。

暗闇の中、
いつもなら自分の気持ちを縛り付けているはずの戒めは
あっという間、その中に消えてしまった。

暗闇の中、
分かりきっていた筈の、おまえの気持ちすらも見えなくなった。

暗闇の中、
無理矢理くちづけして抱きしめた。

暗闇の中、
見えたのは自分の気持ちだけ。
本当の気持ちだけ・・・・
そう、本当は誰にも、何一つ渡したくなかったんだ。
それどころか・・・・・・・

愚かだろう?
欲しかったんだよ。
おれは、おまえの全てが欲しかった。
一つとして手に入りはしないのに!
拒絶しかないのに!
暗闇の中、そんなことすら見えなくなっていた・・・・・・

結局のところ
おれにはこんな形でしか伝える術はなかったのだ。

もっときちんと! こんな風ではなく!
望んだところで何を言えるというのだ?
おれには理性の箍を外さなければ告げられない。
こんな酷い形で告げることしか出来ないのだ。

「愛している」

どれほどわかって欲しくて!伝えたかったか!
だけど・・・
告げたくはなかった!
こんな形では伝えたくなどなかったんだ!