気づかないふりをしていた
見ないようにしていた
おれにはおまえを決して自分のものにはできない
だけど他の奴はおまえを自分のものにできるのだという現実を

誰のものにもならないなら我慢もできる
おれだけじゃない、ほかの奴も同じなんだ!
誰もおまえに触れることはできないのだと
そう思えば耐えられた。
そう考える事でバランスを取っていた
そうでもしなければ耐えられないから
自分を騙していたのだ

だって、そうだろう?
どんなに愛してもおれの思いは届かない
おれのものにだけは絶対にならない
おれがおまえを愛する事自体が無意味だという、残酷な現実を

確認などしたくない
思い知らされたくない
認めたくはなかった
認めるのは、自分を否定するのと同じ事

嫉妬でがんじがらめ
おれが触れることのできない、愛する人の手に口付けした
おれが命と引き換えにしなければ言えない、愛の言葉を易々と口にした
おれが決してすることのできない、愛する人へのプロポーズを正式に申し込んだ

渡したくない
・・・だけど渡さなければならない

渡すくらいなら死んだほうがまし
・・・ならば死ななくてはならない

死んでも渡したくない
では・・・どうすればいい?
どうすることも事もできやしないじゃないか!

欲しいものは一つだけなのに
たった一つだけなのに
それは他の男の腕の中へ
おれにはおまえが全てなのに?
失うだけ
それを黙って見つめるだけ

そして空っぽの腕の中
一つのものが手に入る
欲しくもないものだけが
腕の中、絶望だけ