Your French is terrible!

 彼ら二人は、店に入った瞬間から注目を浴びた。
1人は、金髪碧眼で長身の尚且つ足がやたら長くて映画俳優かモデルのような―実際そうかもしれない―とにかく信じられないような美形のクールなイケメンだ。きっと落とせない女などいないに違いない。案の定、この人物と視線の合った女性はこの人物から目を離せず、ずっと追いかけている。
そしてもう片方は、金髪よりも更に10pほど背が高くて、金髪とは対照的な黒髪で優しげな感じの―容姿は金髪に比べるとかなり劣るが、それでも日本人にしては顔立ちがはっきりとした―やはり見栄えのする若い男だった。
二人はレジでコーヒーを頼み、それを持ってカウンター席に座った。
店内には“きれー”とか“すごいよね”とか“美形!”などという感嘆の声があちこちで囁かれたが、二人は気にする様子もなく(たぶん慣れっこなのだろう)会話をしていた。
そのうち周囲も少しずつ落ちつきを取り戻し、誰も彼らに注意を向けなくなった。
しかし暫くして突然金髪が叫んだので、再び店内の人々は彼らに注目することとなった。



「アンドレ、おまえ少しも分かっていないだろう。」
優李は気まずそうに勇に言った。
「うん、まったく。」
勇は優李の言葉に何のためらいもなく答えた。
それを聞いて彼女は口を開こうとしたが周囲の視線を感じ、コーヒーカップに口をつけてコーヒーを一口飲んで心を落ち着かせるてから彼に尋ねた。
「もう一度聞くぞ。だから!おかしいとは思わないのかそのフランス語は!」
「文法的に?発音が?」
「いや、それはない。珍しく正しい。」
「そうか!よかった・・・」
「ではない!少しも良くない!」
優李は叫んで、またしても周囲の注目を浴びたので気まずそうな顔をしたが、すぐに勇を睨みつけ小声で言った。
「・・・おまえの所為だぞ。」
「だから何が?おれにはさっぱり・・・」
彼女が声を潜めたので彼も思わず声を潜めて答えた。
「よく恥ずかしげもなく!おまえという奴は・・・」
「なんだ、それか!心配ないって。大体この店の中で何人が分かると思う?」
勇はコーヒーショップの窓側のカウンター席から後を振り返り、それから優李に笑いかけた。しかし彼女は、彼の言葉に反論して答えた。
「一人くらいいるかもしれないだろう?それより、問題なのは・・・」
「なんだよ?まだ何かあるのか?」
「だから聞いているだろう?何故それだけあんなに流暢に、発音も、文法もまともなのかと。いつもは・・・“このコーヒーショップには来たことがあるのですか?”フランス語で言ってみろ!」
「え?えーと・・・ヴヴネスバンス・・・セカフェ・・・じゃなくて・・・・ヴヴナスバンスセカフェ・・・でもない?」
優李は冷ややかなまなざしで彼を見つめた。それを見て勇は慌てて言った
「だからおれは!フランス語は苦手なんだよ〜」
「では、さっき言ったあの言葉はなんだ?」
「フランス語。」
「・・・あれをもう一度言ってみろ。我慢して聞いてやる。」
「Je suis heureuse,Oscar,tellement heureuse. Ma chere Oscar,Si tu savais a quel point je t'amie. Je t'amie. Je n'aime que toi. Je veux vous donner une etreinte serree immediatement maintenant, et au baiser actuel de 1 million dans le doigt rose et la levre rouge, et le corps. Mon sentiment devrait savoir il est. Je t'amie. Ma chere Oscar」

おれは幸せだ。最高に幸せだよ、オスカル。愛しいオスカル、おれがどんなにおまえを愛しているのか!おまえは分かってくれるだろうか?愛している。おまえだけを愛しているよ。今すぐに腕の中におまえを入れて抱きしめてその赤い唇にばら色の指1本1本にそれどころか身体中に百万のキスを贈りたいおれの気持ちがおまえに分かってもらえるだろうか?愛しているよ、おれのオスカル。

勇は言ってから優李を見た。
優李はまたしても赤くなりながら、だがそれを隠そうとして不機嫌そうな顔を作ると彼に尋ねた。
「何故それだけちゃんとしたフランス語なのだ!」
「他にも言えるけど・・・言っていい?」
勇は嬉しそうに尋ねたので、優李はもっと赤くなって、それでもキッと睨みつけて 「駄目だ!」 というと 「それより理由を話せ!」 と命令した。
「フランス語は、昔一生懸命練習した。」
「昔からずっと習っているのに!一向に上達しないのはよく知っている。それなのに何故ああいう文句だけすらすらと出てくるのだ?」
「えーと、だからそれだけ練習した。それはもうしっかりと。」
「それだけ?何故それだけ練習したのだ?」
優李の問いに勇は苦笑して、それから優しく微笑むと、「伝えたかったから。」と一言だけ言った。
彼女はそれを聞いて少し考え込むとすぐに彼から目を逸らした。
「・・・悪かった、変な事を聞いて。」
「いや、別にいいけど。」
勇は答えて、それから彼女の様子を見つめた。今度は勇が考え込んで・・・彼は慌てて叫んだ。
「ちょっと待て!おまえ何か勘違いしてないか?」
「わたしは別に・・・そんな事は気にしていない。」
目を逸らしたまま優李は答えた。
「オスカル!おれは、おまえ以外の誰にも言ったことはない!」
「別にいい。おまえが昔誰を好きだろうとわたしには・・・」
「だからおれは!おまえ以外の誰も好きになったことなんてない!」
勇が叫んだのを聞いて優李は勇を見た。彼は真剣なまなざしで彼女を見返した。
「それでも他の誰かに言う為に一生懸命練習したのだろう?」
彼女はそういうと黙り込んだ。
勇は彼女の様子を困惑げに見つめた。それから苦笑すると、彼女の顔をのぞきこむようにして今度は優しく微笑みながら言った。
「おれ、おまえにしか言ってない。他の誰にもだよ、オスカル。」
「では何故だ?何故昔、練習したのだ。」
勇は優李に見つめられて少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
「おまえに言う為。」
だが優李は彼に冷ややかな目を向けた。
「初めて会ったのは1年半前だぞ。」
勇は笑った。
「いや違うよ。会ったのは12年前だ、おれが6歳の時。」
優李は怪訝そうに彼を見つめて・・・それから彼の言わんとする事をようやく理解した。
「オスカルの絵か?だけどおまえ、あれは・・・・絵だぞ?」
彼女は呆れたように彼を見て言ったので、彼は慌てて答えた。
「仕方ないだろう!絵しかなかったんだから。どこかにいると思って何度も探しに行ったけど・・・」
「何度も探しに行った?」
勇は視線を逸らすと目を伏せて 「・・・絶対いると思って、探せば見つかると思ったんだよ!でも会えなくて、それで死んだ親父が・・・フランス人だから日本語は通じない。まずフランス語を勉強しないと伝えられないからと言われて・・・」
彼は口篭った。
「それでフランス語を習い始めたのか?つまりそれは絵に言う為に?」
「絵に言いたかったんじゃない。」
勇は不満げに言った。
「あ・・・そ、そうか。い、いや・・・・そうか。そ、そうだな。」
真っ赤になって俯く彼女を愛しげに見つめ、それから勇は顔を近づけると少しだけ声のトーンを落とした。
「オスカル、おまえだけだよ。他の誰にも言ってない。Je t'amie. Je pense a toi,nuit et jour.Viens dans・・・」
「も、もういい!」
言いかけた言葉を優李は慌てて遮って叫んだ。勇は少し不服そうに彼女を見た。
「り、理由は分かった。だが、わ、わたしは・・・日本語の方が使い慣れているぞ。わ、わざわざフランス語を使う必要はない!」
「でも・・・さっきのを日本語で言われたら?」
勇の問いに優李は暫く考え込んで彼を見た。
「・・・殴るな、多分。」
彼は頷いた。
「だろう?おれもさ、日本語で言うのは躊躇するんだよな。恥ずかしいというより、言っちゃうと寒い〜みたいな?」
「その通りだ、普通は引くぞ。」
「だろう?だけどフランス語は違うと思わないか?いくらでも言っていい気がしないか?」
「それは言葉の問題ではなく、フランス語を母国語とする国民性がそうであってだから・・・・つまり、そうなのか?」
彼女は考え込んだ。
「そうだろう?ほんといい言葉だよな、フランス語って。もう一回言っていい?」
「だ、駄目だ!」
「どうして?」
「人前だぞ!」
「誰もいなければいいのか?」
勇が尋ねた言葉に優李は彼の顔を暫く見つめた。それから俯くと
「Le mot est juste en raison de moi, si est, quand je suis baiser embrasse, dedans juste vous permettrez probablement cela de la meme maniere avec beaucoup de, personne ou je suis cher. mon amour Andre. Mais est juste a l'heure de deux exercices, vous comprenez Andre? 」

その言葉がわたしの為だけにあるのなら、わたしを抱いて口づけするのと同様におまえだけにはいくらでもそれを許そう、わたしの愛しい人。だけどそれは二人きりの時だけだぞ、分かっているか?アンドレ。

早口のフランス語で囁くように言って、顔を上げて不機嫌そうに彼を見た。
「わたしが何を言ったのか分からないだろう?いいかアンドレ、中途半端なフランス語を使うくらいならそれは使わない方が・・・」
優李はそこまでしかいえなかった。カウンター席に当然だが隣り合って座っていた彼女の肩をいきなり抱き寄せて彼女の頬にキスをすると勇は嬉しくて仕方ないといった様子で言った。
「sereeとembrasse だけはわかったよ。勿論mon amour Andreも!おれ・・・嬉しい。おれもだよ、人がいなければもっとちゃんとしたキスを・・・」
「だ、黙れ。そ、それ以上言うな。」
優李は真っ赤になって俯いた。勇は肩を抱いた腕を緩めると、そんな彼女の様子を見て幸せそうに微笑むと彼女の耳元で囁いた。
「それじゃあ・・・Je t'amie. Ma chere Oscar Viens dans・・・」
「黙れ!な、何が分かっただ!ひ、人前で・・・よくもおまえは・・・ぜ、全然分かってないじゃないか!お・・おまえのフランス語は・・・フランス語はなあ、なってない!なってないぞ!この・・・」

「バカヤロー!」

優李はあたり構わず大声で叫んだ。



 2人はそれから少ししてから席を立った。
金髪の方はすぐにサングラスをかけたが、恥ずかしげな様子―自業自得とはいえ、これだけ注目を浴びれば仕方あるまい―を隠す事は出来なかった。
一方、黒髪の方は周囲の様子など少しも気にも留めない様子で、それから彼は平然と金髪の方の手を取るとしっかりと握りしめて、嬉しそうに金髪に笑いかけた。
金髪の方は見る見るうちに真っ赤になって俯いた。そのクールな容姿と俯く様子のギャップの差があまりにも激しくて、周囲の人間には金髪の彼がそれはそれは可愛らしく写った。そして、そういう風に見えたのは勿論周囲の人間だけではない。
誰もが黒髪の彼氏の次の行動を推測できた。
 “これはまたしても抱きしめるかキスだな”
しかし、金髪の彼にもそれは分かったようだ。サングラスをかけていたのではっきりとは分からないが上目遣いに黒髪の彼を見たのだろう。早口で何やら話しかけたので彼氏は仕方なく、それでも手は離さず幸せそうに金髪の彼に微笑むに留まった。
そうして2人は仲良く手をつないで店を出た。

恋人達が何をしようとそれは他人の知ったことではない。
でも!である。
『二人共、女には不自由しないだろうに。そういう趣味とはいえもったいないよな。』
店にいた男の客は誰もが思った。
『いい男はただでさえ少ないのに同性でカップルなんてあんまりだわ。』
店にいた女の客は誰もが思った。





昔の彼は、沈黙しか選択できなかったからそうしたのであって、本来は人前であろうと平然と恥ずかしげもなく言葉で態度ではっきりと示す人だと思っております。そう、本当は彼にとって日本語もフランス語も関係ないのです。一方彼女は、人前ではダメな人だと思います。そのかわり二人きりならそりゃもう・・・・(^_^;)あくまで推測ですが。
彼でない(^_^;)普通の日本人にとっては日本語もフランス語も恥ずかしさには変わりないでしょう。が、やはり日本語は論外です。口に出して言ってはいけません。まったくもってベタですね、恥ずかしいですね。という訳で、日本語訳は“→”以降をドラッグしてご覧ください (^_^;) なお、仏文は自動翻訳機と仏会話の本からそれらしき(^_^;)文を見つけて書きましたので間違っています。<(_ _)>
baisers(キス) embrassez(抱擁) mon amour(愛しい人) Je t'amie(愛している)
おまけ→St. Valentine’s Day

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