1.at eleven years oldドライヤー

「そろそろかしらね。」
母親は時計を見た。
「マリア、まだ20分だよ。あと5分ぐらいはがんばるんじゃないかな?」
父親は言った。
「でもそろそろ限界よね・・・・そうだ!昂!わかってるわね?昨日みたいな事は・・・」
姉はすぐ下の弟に念を押した。
「姉さん、わかってるさ。」
弟は返事をした。
「僕思うんだけどさ、なんで前みたいにママンがやってあげないの?」
その下の弟は母親に聞いた。
「だめよ!もうすぐ6年生なのよ。いい加減自分で・・・」
「でも、フランの髪は・・・・」
「きたわよ!」
会話はそこで打ち切られた。



部屋に入ってきたのは、金色の髪を持った少女であった。
そりゃもう見事な金髪であった。
本物の金で出来ているかと思わせるような金色であった。
見事な黄金の髪である。
他の意味でも・・・見事ではあったが・・・・
彼女の名はオスカル・フランソワ・優李という。
家族は彼女をフランと呼ぶが、ここでは便宜上オスカルと呼ぶことにする。
石井家の5人きょうだいの3番目である。

「ママン・・・・」
オスカルはいかにも自信のなさげな顔をして言った。
「まあ、フラン!今日はなかなかうまくできたじゃない?」
母親は驚いた様子で言った。
「全然。」
オスカルは機嫌の悪い声で答えた。
「そんな事ないわよ!ねえ、あなた?」
「ああ、随分上手になったよ。やっぱり女の子だなあ。フランも。」
「・・・そうかな。」
多少の不信感。
「パパ当たり前でしょ!だんだん上手になるわよ!ねえ、昂もそう思うわよね。」
「ああ!がんばってるよな、フランは。」
「そう・・・かな?」
「僕も!僕も!フラン上手になった!」
「ほんと?」
「勿論!」「うん!」「仕上げをママンにしてもらえば完璧よ!」「がんばったなあ。」
皆、口々に言った
「昨日より・・・少しだけ・・・・うまく出来たような気はしたんだ。」
オスカルはちょっと恥ずかしそうに俯いて返事をした。
その時、足元で声がした
「ふーたん、ふーたん。」
もうすぐ3歳になる、一番下の弟である。
“ふーたん”というのは“フラン”のことのようだ。
いくら訳のわからないちびでも、周囲の空気は察するものである。
自分も姉になにか言わなければならない!
そう思ったに違いない。
「誠、なあに?」
オスカルは聞いた。
「ふーたん、あんまね・・・・あんまね・・・」
あんま?まさかあの子・・・・
母親は急いで末息子を呼びとめた。
「誠!ちょっとこっちへ・・・・」
しかし・・・時すでに遅し。

「くるくるね!くるくる!あんま、ね!」

一瞬にして凍りつく空気。
「あっ!フラン!」
走り去るオスカル。
「隠れちゃうわ!捕まえて!また “学校行かない” よ!急いで!!」
母親は叫んだ。
父親と子供たちは慌てて彼女を追いかけた。
残されたのは母親と末息子。
母親は息子を見た。
「あのね・・・・あなたはまだわからないだろうけど・・・・」
そして、大きくため息をつく。
「物事にはね〜言っていい事と悪い事があるのよ〜」
その言葉に、末息子は笑って答えた。

「ふーたん、あんま くるくるね!」

母親はガックリとうなだれた。

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