Unforgettable remembrance1 −Continue−

 子供部屋のドアを開けると、電気が消えていたので惣一郎はスイッチを入れた。
明るくなった部屋を見回すが息子の姿はなかった。
しかし、よく見ると・・・勉強机の下から青いものが出ているのに気がついた。
惣一郎は苦笑しながら机の側へ行くと声を掛けた。
「勇?約束したろう?それは寝るときだけだって。」
返事はなかった。
「出ておいで。怒らないから。」
しかし、逆に机の下の狭い空間に入り込まれた。
といってもそれ以上奥へ入り込むスペースがあるはずもなく、身体を今以上に小さくしただけだったが、出て来る気がないことだけは十分伝わった。
仕方なく、青い毛布を引っ張ってみたが、びくともしない。
やれやれ・・・
惣一郎は溜息をついた。
「そうか・・・でてこないのか。仕方ないな・・・それじゃあこの絵は・・・・」
勇は脱兎のごとく飛び出てきた。顔は涙と鼻水でべとべとという情けない状態で・・・・・
「返して!返してよ!ぼくの絵だ!ぼくの絵なんだ!返せ!」
惣一郎は泣きたいような笑いたいような、複雑な表情をした。
「君の絵だよ、勇。だけどその前に涙を拭いて、それから・・鼻をかんでおいで。そうしたら絵は返すよ。」

「よし、きれいになったな。それじゃあこれは・・・」
そういって惣一郎は息子に絵を渡した。
彼は絵を急いで受け取ると表紙を開いて中身を確かめるとほっとした様子で絵を抱きしめた。
「・・・・・好きかい?」
「うん!すき。大好き!すごく好き!一番好き・・・・・とうさん、ぼくね、ぼく・・・・」
惣一郎は床にぽろぽろと涙が落ちるのを見て・・・悲しそうに笑った。
「勇・・・・・会いたいんだね?天使に・・・・」
「・・・・うん。」
「でもね勇、今はまだ会えないよ。いくら探してもね。」
勇は父親の顔を見た。
「どうして?」
「勇?この子はいくつに見える?」
「13さい。」間髪入れずに勇は答えた。
デュランの日記によると確かにその絵は13歳の時のものだと書かれてあった。
普段は母親と中学生の年の区別もつかないのに・・・・
「残念だけど・・・・16歳、16歳だよ。」
「ちがうもん!13さい!」
やれやれ・・・・
惣一郎は苦笑した。
「君がそういうならそれでもいいけれど・・・・本当は16歳だから、それまでは絶対に会えないんだよ。」
「・・・・・16さいになったら、会えるの?」
「君のほうが誕生日が早いから・・・君が17歳になったらだよ。」
「17さいになったら会えるの?絶対?」
勇は父をじっと見つめた。
「すぐには会えないかもしれないよ、探さないといけないからね。だけど・・・・」
あの時、桜の花を散らして君を助けてくれたのは・・・オスカルだ。
だから・・・絶対にいる。
君に会う為に・・・きっと待っている。
ぼくの勘も、ぼくにそう告げているから・・・・・
「大丈夫!絶対に会えるよ。」
惣一郎は勇に笑いかけた。
「あとね、フランス語を勉強しないとね。天使はね、フランス人だから。フランス語が話せないとお話できないよ。」
「話せないの?ぼくが話すことわからないの?」
「ああ、そうだよ。話せないと・・・・“すき”って言えないよ。いいのかい?」
「べんきょうする!ぼくいっしょうけんめい覚える。ぜったい話せるようになる!」
「それがいい。それから・・・約束して欲しい事があるんだ。大切な事!絵を学校に持っていってはいけない。この絵はね、ずっと大昔に描かれたんだ。だからね、外へ持って歩くと痛んでしまって絵がなくなってしまう。無くなってしまってもいいのかい?」
「やだ!だけど・・・」
勇は情けない顔をした。
「絵が大切なら・・・我慢しないといけないよ。」
惣一郎は優しく言った。
「うん・・・・・・・・」
勇は頷いた。
「よし!君ががんばるばら、これから・・・・・君が17歳になるまで、それまでは父さんが天使について知っていることを君に話してあげよう。それでどうだい?」
「ほんと!うん、それでいい!」
「よし、それじゃあ・・・まず何が聞きたい?」
「天使のなまえ!」
惣一郎は笑った。
「天使の名前はね“オスカル”というんだよ。」

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