気になることば 第二回

「国際化」

     
いまさら国際化か、という向きもあろう。あまりに氾濫してしまったために、現在もっとも人の関心を引かない言葉の一つになってしまった。

かつて、日常生活で「国際」という言葉は、XX国際観光ホテルというようにしか使わなかった。その国際観光ホテルであっても、たいてい下足は玄関で脱いでいたし、部屋も和室に蒲団というところが多かった。強いていえば、洋式便所が客室ごとに完備しているところが国際観光ホテルの国際たる所以であったろう。

そもそも国と国の境、国と国の際(きわ)は、ぞっとしない場所である。そこは鉄条網が張り巡らされていたり、潮の流れの速い海峡であったり、あるいは一本の立木すらない砂漠であったりするものである。番外地であり、無法地帯であり、一般人が気軽に立ち入ることを許さない場所である。日常の場所ではないのである。

従って、幾多の戦争を経て、主権国家同士の間に秩序ある関係を作り上げようとする努力が始まったとき、それは日常の外での、いわば番外地における取り組みであったし、現状でもそれは変わっていない。国際公務員は特定国の利害のために働いてはならず、その見返りに身体の安全を保証されている。

「国際化」が流行りだした日本で、XX国際大学とか、国際日本文化研究センターとか、「国際」の二文字を関する組織が増えたが、日本語名称は良いとして、英語にはどのように訳すのか、当事者ならずとも心配になってしまう。お節介かもしれないが、Internationalと言ってしまうと、複数国の拠出によって設立された組織を意味してしまう。外国人の教師・研究者も働いているよ、という意味なら、明治初期の日本国の大学では多くの外国人が働いていたが、べつに国際大学とは言っていなかった。

米国英語から日本語に直輸入された国際保健という言葉も分かりづらい。国際保健の正しい意味は、次のうちのどれでしょう?
 

a) 国際公務員の健康管理を取り扱う学問。
b) どの国の領土・領海にも属さない公海上で病気になった人を手当てすること。
c) 各国の保健のうち、他国の保健にも共通する要素だけを抜き出したもの。
 
 


(2000年5月15日)