JICA研究会資料 4月20日

   アレクサンドリア青年スポーツ局 水泳 メイヤメイヤ

右の写真はプールの上司(?)ウマーサと。
このウマーサって悪人っぽい顔してますよね。

現在の活動内容

 午前中は私立のSt.マルコカレッジ(幼稚園から高校まである)内にあるダウンしょうを中心とした知的しょうがいしゃのセンター(以下マルカズという)で6歳〜18歳ぐらいまでの生徒を対象に体育を指導しています。そして、午後は一番大きいクラス(14〜18歳ぐらい)の職業訓練の手伝い(日本で例えると、中学校の時にした技術家庭の授業のようなもの)をしています。
 活動時間は学校の休みである金曜日、日曜日を除く9時30分頃から午後2時30分頃までです。
 ここのマルカズは私の活動とはまったく関係ないところなのですが、ここにアレキに18年住んでいる日本人のシスターがいらっしゃって、シスターと話す機会があったところ、もし午前中空いているなら体育の専門の先生がいないので、子供達に体育を教えて欲しいといわれ、私は、体育の専門ではないのですが水泳を指導した経験はあるので、もし、お手伝いが出来るのならということでお手伝いさせていただくことになりました。と、いっても私はやはり専門ではないので指導しているというより、子供達と一緒になって遊んでいるといった方が正しいかもしれません。

 そして、夜に本来の活動である水泳を指導しにいっています。水泳指導は夏休み(6〜9月末)以外は夜の練習が中心です。夏は、海や、屋外プール(50mのきれいなプール)で練習をして、大会も主に遠泳(海で1,2,3,10キロとか泳ぐ)ですが、この休み中に去年は3回程度ありました。
 夏以外は屋内のプールが練習の中心になります。一応アレクサンドリアには屋内プールが私の知る範囲では2つあって日本と比べるととてもきれいとはいえないのですが、そこで練習を行っています。
 しかし、基本的に彼らは遠泳で速く泳ぐことが目標で、日本のプールで短距離選手を専門に教えていた私にとっては海での指導というのはまったく未知の世界です。と、いうのも私の最初の任地は実は「イスマイリア」というところでそのときの要請内容というのも短距離の選手とコーチの指導とあったのですが、任地変更にともない活動内容も180度変わってしまって、今でも遠泳指導というのは少し手に負えないところがあります。
 ただ、選手以外の初心者クラスの指導は日本でも経験があるのでその経験を生かして指導を行っています。この初心者クラスというのも後で話させていただきたいと思っていますが、日本で培ってきたやり方が他のコーチや保護者にはなかなか理解してもらえず大変なところもあります。
 アレキには数多くスイミングクラブがあって中には民間のスポーツクラブ(カイロで言うとゲジラのスポーツクラブのようなもの)もあり、アレキのコーチに聞くと、やはりおよぐのが速いのはそこに通っている子供達ということらしいです。
 私は民間でない地域のスポーツクラブの中の2つのスイミングクラブで指導を行っています。

 と、これまでが私の簡単な活動内容なんですけど、ここで私がこれまで見てきて思ったエジプトの水泳のレベルについてお話させていただきたいと思います。
 

私が思う一般的なエジプトの水泳選手のレベル

 としては私は選手のレベルは決して低くないと思います。彼らは体力もありますし、身体能力も高いと思いますし、水泳の競技人口も少なくないと思います。難を挙げれば体の柔軟性に乏しいというところは一般的に見受けられますが、これは毎日しっかりストレッチや柔軟運動を行うことである程度改善されていくと思います。
 それなのに、皆様もご存知かとは思いますが、エジプトの水泳選手が海外などで活躍しているという話は聞こえてきません。世界レベルで見るとまだまだといったところが正直なところでしょう。

 それならばどこをどういう風に改善していけば、エジプトの水泳レベルが底上げされていくのかという事で、私の私見を少し述べさせていただきたいと思います。
 

今後のエジプト水泳界 (こうすれば、、、)

 まず、最も大事だと思うポイントは指導者の意識改革です。私が知り合ったコーチというのは基本的に効率的なトレーニング技術の知識というのを持ちあわせていない人が多いです。選手のトレーニング法というのは、勿論年齢や泳力によってさまざまなので、一概にこのトレーニングが正しいとは言えないのですが、例えば私が教えているクラブでは遠泳大会でいい成績を出したいというのが目標なので、当然練習では持久力を高める指導を第一に心がけるべきだと思います。持久力を高める指導というので一番に考えられるのはインターバルトレーニングというトレーニング方法です。

 インターバルトレーニングというのは、泳ぐ距離(例えば100とか200とか400とか)、スピード、反復回数、休息時間の4つを組み合わせて行うトレーニング法です。例えば、400mを泳ぐ距離とする場合、レーススピードの80〜90%の力(例えば400のベストが4分の人だと4分半から5分程度)で、2〜3分の休憩を取りながら、4〜8回繰り返すといったトレーニングを組むことが出来ます。このプログラムはあくまで一例に過ぎませんが、こういったトレーニングを組み合わせていくことによって持久力を向上させることが出来ます。

 しかし、私のいっているクラブではインターバルトレーニングを行う以前に、ストップウォッチを見ることすら滅多にしないのです。

 たとえば、練習中もサイクルタイムを決めているわけではなく、例えば100mを10本泳ぐとしたら、2分サイクルで10本行くとか普通は決めるのですが、コーチたちは一応ストップウォッチを見ながらも、決まったサイクルで選手をスタートさせるのではなく、1本目はすぐ出したり、2本目は他のコーチと話してて間隔が開いちゃったりと、とにかくいい加減なのです。そういう練習が今まで続いているために、選手たちもタイムに対する意識がとても低く、速くて上手に泳げる選手にベストタイムを聞いてもはっきり答えられなかったりします。

 私も何回となくコーチに「こういう風なトレーニング法もあるんだけど、どうですか?」とは言ってはいるのですが、私より、20以上も年上のコーチが2年だけ日本から来ている若造の私の言うことなんてなかなか聞いてもらえないというのが残念ながら偽らざる実状です。

 選手に対する指導以外でも、そのような面は見られます。例えば、初心者指導の面でも、一番大切なのは基礎練習です。これは何も水泳に限ったことではなく、サッカーなどの他のスポーツもそうですし、スポーツに限らず音楽などにも当然当てはまることだと思います。基礎がきっちりできるようになってから難しい練習をしていくのが重要だと思います。でも、ここでは基礎練習というのは重視されていません。例えば、私の持っているクラスでも初心者のクラスではビート板キックなどを中心に簡単な練習を多く行っています。はじめは面白くありませんが、こういった積み重ねが上手になってから必ず生きてくるのです。サッカーでだとインサイドパスを始めはうんざりするほどやるのと一緒です。

 しかし、私がそういう方法で教えてくると、他のコーチ、保護者、そして生徒までが文句を言ってくるのです。他のコーチ、親は「クロールを教えろ!」とか勝手なことを言ってきます。そんな、、、まだビート板キックですら上手に泳げないんですよ。それどころか生徒まで「クロール泳ぎたい!」って言ってきます。私は一切無視していたのですが、みんながあまりにもしつこいし、他のコーチも勝手にクロールとか泳がせようとするので、一回泳いでもらったら出来ないのが分かって私の意見も分かってもらえるだろうと思ってクロールを練習にいれました。すると、案の定泳げないのですが、親も保護者も子供も満足そうなのです、、、。出来てないんですよ。ちっとも、、、

 この基礎練習の重要さってのも分かって欲しいのですが、、、

 と、言うように、私はエジプトの水泳レベルを上げるには選手の方よりもコーチの方に問題があると思うので、まずは良いコーチを育てていくことから始めることだと思います。例えば、水泳先進国である日本やヨーロッパにコーチを連れていってコーチングの研修を受けてもらうとかしてトレーニング技術などについて学んでいくと、きっとエジプトの水泳レベルは上がっていくと思います。

と、エジプトの水泳のレベルについてのはなしをさせていただきましたが、次に私が活動中で最も悩んでいることについてお話をさせていただきたいと思います。
 

活動中で最も悩んでいること

 と、いえば体罰の問題です。
 

エジプト人の一般的な指導方法

 として、言うことを聞かない生徒には体罰を行います。これが、指導中には何回となく、しかも現地のコーチは思いっきり生徒を叩いたり、靴で踏んだりするのです。もし、日本で私がそのようなことをしたなら即刻プールを辞めさせられるところでしょうが、こちらでは辞めさせられるどころか、ギャラリーで見ている親たちも体罰には肯定的なのです。生徒たちにしてもひどい体罰をコーチから受けてもけろっとしています。

 私が教えているクラスの中でもある程度泳げるクラスというのは水泳そのものに関する興味が高まっているので生徒たちもそれほど遊ばずに泳いでいます。しかし、初心者というのは興味がすぐ他のことにいってしまうものです。

 私の受け持っている初心者クラスでも、子供のやる気も今イチ低く、私の言葉が足りないこともあり、隙があればすぐ遊び出して収拾がつかなくなることがよくあります。生徒の保護者や他のコーチからも「なぜ体罰をしないのか?」とよく言われ「体罰をしろ!」といわれるのですが、私は体罰をするのはいやなので、体罰をするからいうことを聞いてもらうというのはいやなのです。子供だって、ちゃんと話せば分かると思うし、実際今まで日本では体罰をせずに指導をすることが出来ていました。

 ですので、私は他のコーチや保護者の意見は聞かずに体罰なしで指導していたのですが、日毎に生徒の態度はもうどうしようもないほど悪くなるし、外部からのプレッシャーも強くなってきました。私一人の力ではどうにもならずに周りのコーチが体罰をしに来て何とかクラスが平静を保っているといった状態になっていったのです。

 私自身ももどかしい気持ちで指導をしていた時に、またいつものように生徒たちがふざけ出して、練習がまったく出来ないようになったのです。

 その時私はそのふざけている生徒たちに向かってカーっとなってしまって手に持っているビート板を思いっきり投げつけ怒鳴りました。そうすると、それまで遊んでいた他の生徒まで一瞬で静かになり、みんないうことを聞いたのです。

 でも、その後に私はとてもいやな気持ちに襲われました。私は、先程からいっているように体罰には否定的なのですが、体罰でも本当に心から相手のことを思って行う愛情を持った体罰ならまだいいと思っています。しかし、その時に私が彼らに対して行った体罰は決して彼らのことを思ってしたものではありません。自分のイライラを子供にぶつけた自己満足の体罰だったのです。

 そのクラスが終わった後、他のコーチや親は「良かった」といってくれましたが、私にとってはちっともいいことではありませんでした。結局自分のスタイルでは教えきれなかったということです。
 

日常的に行われる体罰

現地コーチと親からの要求


 その後、私は私の取るべき方法について考えました。

私の取るべき方法(どうすれば円滑に活動できるのか?)

 勿論、体罰に関して言えば、私はしてはいけないと思うのですが、それならどうやったらうまくみんなに認めてもらえるのでしょうか?

 しかし、私は親や、他のコーチに認めてもらうために指導をしてるわけではなくて、子供達に分かってもらえればいいと思うのです。勿論、保護者や、他のコーチに認められれる方法で行けば活動はずっとやり易くなります。しかし、こういったコーチが一人ぐらいいてもいいかな?と勝手に思うことにして、私は私なりの方法でやるしかないのかなと最近特になんですけど思っています。

 それでも、もうこちらに来て2年経とうとしていますが、何が正しくて、何がいけないことなのかというのは赴任当初に比べると余計分からなくなってきたというのが本音です。体罰に関してもそうなのですが、教育の面でも皆様の中でも何かいい意見がありましたら是非お教えいただけるとありがたいと思います。

 以上で、私の発表を終わらせていただきたいと思います。


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