Balthus

Balthasar Klossowski de Rola

バルテュス


 バルテュスについては、もうかなり有名な画家であるため、改めてここに紹介するまでもないだろう。
 
 彼は今日、日本人のもっとも好む画家の一人となっている。更には、「今世紀最後の具象画の巨匠」という、あまり本人が気に入るとは思えない枕詞まで持つに至っている。
 
 そんな彼の画風の流れを一言で言ってしまうと以下のようになるだろう。
 
 いくつかの未熟な習作を経て、緻密な構図(その多くは実験的でさえある)の人物画(主に思春期の少女の静的なポーズ)をイタリアの伝統的な絵画の色調で描く(構図、主題、技術の3要素のアンバランスが彼の作品の魅力である)。やがて構図は開放的になり、色調も明色調になってゆく。主題は、同じく思春期の少女をモデルにしながらも、彼女らからは見事に「性」へのコノテーションが剥ぎ取られてしまう。絶頂期に人々を魅了した魔力をもはや見出すことはできない。
 
 彼の崇拝者(私もその一人であるが)の多くは、言葉には出さぬとも上記のような認識を持っていると思われる。近年日本で開かれた個展の際には、最新作「鏡と猫 3」(Le chat au miroir III)を傑作と誉めそやす論評も見られたが、私はそのような意見にはくみできない。
 
 あくまでも私見ではあるが、彼の絶頂期は1930年代末から1950年代末までである。一部の評論家は、彼の画家としての下降線を、彼の一種の貴族趣味そして1961年に始まるローマでのフランスアカデミー勤めと結び付け、その時期的な一致を指摘する。
 
 しかし、彼の作品の変化(開放的な構図、しばしば平面的でさえある、及び彩度の高い色調)は1950年代中期より明確になっている。言い換えるならば画家のそれまでの全てを集大成した1952−1954年の大作「サンタンドレ街」(Le passage du Commerce Saint-Andre)以降である。ここで指摘しておかなければならないのは、彼のもう一つの代表作である大作「部屋」(La chambre)が全く同時期(1952−1954年)に作成されたことである。これらの作品を時代順に追ってみてゆく時、この2枚の大作、それも素晴らしい傑作を書き終えた画家にとって、その後の構図上の変化は必然であったと感じる。
  
 むしろ、絶頂期を過ぎて40年経ちながら、その間魅力的な作品(「画家とモデル」(Le Peintre et son modele)は1981年)をいくつも作成してきた画家に驚嘆するしかない。


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