twelve leaves
leaf#7

■キレのいいグルーヴで踊ってもよし、奥行きのあるホーンアレンジをじっくり聴き 込んでもよし。宇田川寅蔵が自分ひとりでサクソフォンの多重奏にチャレンジした『leaf#7/SAXOFINITY』は、彼が持つ「プレイヤー」「コンポーザー」「アレンジャー 」という3つの資質を同時に、しかも一番リアルかつストレートな形で伝えてくれる 快作になった。 アルト、テナー、バリトン。寅蔵がいつもはステージで吹き分けている3種類のサ クソフォンを重ね合わせたバックトラックをあらかじめデスクトップ上で作成しておき、それにライブでソロ演奏を加えていく。このアイデアがとにかく秀逸だ。「構成」と「即興」のせめぎ合いとでも言えばいいだろか。多重録音を用いた静的なサクソフォン・アンサンブルに、あえてインプロヴィゼーションという動的な要素を持ち込むことによって、寅蔵というミュージシャンが自分の音楽に対して抱いているビジョンがより鮮やかに浮かび上がってくるのだ。 複数のサックス・パートでガッチリと組み立てられた中低域の伴奏に乗って、寅蔵 はいつも以上に熱っぽく、奔放なメロディーを紡ぎ上げていく。そこでリスナーが出会うのは、作曲家・寅蔵のイメージをもっとも忠実に反映したアレンジであり、それと同時に、着地点も決めないでどこまでも走っていく演奏者・寅蔵の、向こう見ずな肉体でもある。この2つが何の矛盾もなく共鳴しているところが、おそらく 『SAXOFINITY』の新しい魅力であり、強靱なグルーヴの源泉でもあるのだろう。 冒頭の「MAHORABA」からラストの「HEAVENLY MAIDEN」まで、ステージで演奏され たのは全5曲。シェアでファンキーな伴奏に生身のサックスが切り込んでいく瞬間は、どのテイクを聴いても、言いしれぬスリリングさを感じさせてくれるはずだ。“バオ ッ”と底なりするバリトンサックスの音圧が、まるで牽引車のように楽曲をぐいぐい前のめりに引っ張っていく。そして執拗なリフレインと、時折はさまれる切れ味鋭いブレイクが、ライブ演奏する寅蔵とリスナーをともにクライマックスへと煽り立てていくのだ。  『SAXOFINITY』というタイトルの通り、まさにサクソフォンという楽器が持っている無限の可能性を垣間見させてくれるこの試み。バラエティーにとんだ旋律から、どこか共通する“都会のにおい”みたいなものが漂っているのも、いかにも寅蔵らしくて興味深い。 ★01『MAHORABA』 低音域を震わせるバリトンサックスのリフレインに導かれて、寅蔵のサックスが歌いまくるオープニングからアドレナリンが全開になる。いくつもの支流が合わさってやがて大河となるように、複数の旋律が絡み合って“大サビ”を形づくっていくプロセスが、何とも言えず刺激的だ。一定間隔で刻まれる無機質な打ち込みビートが、かえっ て楽曲の持つ性急なイメージを際立たせている。 ★02『DO YOU REMEMBER DISCO ?』 エッジの鋭いディスコ・ファンク・チューン。『leaf#3』に収録されたJUPITER'S POP BANDのバージョンではギター・カッティングが重要な役割を果たしていたが、ここではドスの効いたバリトンサックスのベース・リフが、それとはまた違った骨太の ファンクネスを醸し出している。メロディーに切り込んでくるホーン・セクションのシャープさも印象的。寅蔵ならではの“街っぽさ”を強く感じさせるナンバーでもある。 ★03『はぐれ雲 』『twelve leaves』プロジェクトでは毎回演奏されている定番曲。オープニングでは残響感のあるSEが反復されるなか、どこかアルバート・アイラーのインプロヴィゼー ションを思わせる鋭いブロウが絡み、やがてその向こうからリバーブの効いたリフレインが浮上してくる。離合と集散。上昇と下降。後半のクライマックスに向けてさま ざまなイディオムを繰り出す寅蔵のサックスが、いつにも増して饒舌だ。 ★04『HAPPY COME COME 』テナーサックスがホンキートンク調のリフレインを奏でる、何ともハッピーな雰囲気のナンバー。寅蔵が吹きまくる陽気な主旋律と、それに“合いの手”を入れるホーンセクションとの絡みが絶妙。どこか“ひとりタワー・オブ・パワー”な感じも漂う。 存在感溢れるバリトンの低音も魅力的。リズムを微妙にズラして、デスクトップと生身の演奏者が探り合うような細かい芸も楽しい。 ★05『HEAVENLY MAIDEN』 「天使のような乙女、天女」という意味を持つバラード・ナンバー。ガムランを思わせるゆったりとした反復旋律に乗せて、子守歌のようなやさしいメロディーが奏でられる。2 声のパートが互いを追いかけ合うようにゆっくり展開していく様子は、2人の歌手がアリアを輪唱しているようでもある。
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