twelve leaves
leaf#5

<座談会:寅蔵+峰人+健高 〜「画家との対話」をめぐって> ──現在進行形のペインティングに即興演奏をつけていくのって、前代未聞とは言わ ないまでも、ライブのスタイルとしてはかなり大胆だよね。 ●寅蔵 うん。「画家」とセッションするというアイデアは、実はこの『twelve leaves 』プロジェクトを立ち上げた当初から、ずっと自分の中にあったんだよ。もともと、可能な限りいろんなジャンルの人とコラボレートすることによって、もっと 自分を多面化させようというところから始まった企画じゃない。それならいっそ、音楽以外の表現もアリかなと。それで、このプロジェクトのデザイン関係をすべて手がけてくれている稲垣さんを口説き落としたわけ。稲垣さんのタッチはずっと前から好きだったし、一緒に演るならこの人だなって。まあ、すぐウンとは言わないんだけどさ、この人は(笑)。 ──でもさ、その場で絵を描けというのは、ものすごく無茶な注文だと思うよ。イラストレーターって、人の観てないところで企業努力する仕事だから。 ■健高 基本的には、完成したものを人に見せる仕事ですよね。 ──そうそう。しかも稲垣さんの作風って、これまでのスリーヴデザインを見てもらえれば分かると思うけど、実はものすごく緻密じゃない。CG的なディテールの作り込みもすごいし、それだけじゃなくて、サラッと手書きしたみたいに思えるドローイ ングにしても、注意して見ると一本の線がすごく選されてる。いわゆる勢いで描けるタイプとは正反対だと思ってたから、最初は意外だったよね。よくこんな誘いにのったなあって。 ●寅蔵 たしかに別の人からも、「ミュージシャンと画家では、人を楽しませるための回路がまったく別」と指摘されて、ヤバイかなとも思ったんだけどね。それも全部 分かったうえで引っ張り込みました(笑)。 ──稲垣さんはどうして引き受けたの? ■健高 うーん、何でしょう……完成形だけを見せる仕事を続けてると、それはそれでカラに閉じこもっちゃう部分もあるわけですよ。人の視線にさらされてないから、精神的にも技術的にもいろんな逃げようがある。でも、じゃあ自分は結局何のために絵を描いてるんだろうって考えてみるとね、やっぱり人とコミュニケーションしたいがためなんですよ。少なくとも僕の場合はそう。その意味では、今までのコミュニケーションは一方通行だったと。だからそれだけじゃない双方向のコミュニケーションというのは、僕にとっても大きな命題だったわけです。つまり……オープンハート? でもさ、寅蔵が「この人に自由にやらせてみよう」と思ってくれたのは、やっぱり嬉しい。すごいなあ、みんな鋭いねえ(笑)。 ──で、実際に3人で「演奏」してみた感想は? ▲峰人 ほんと一瞬で終わったって感じでしたね。サックスとベースのデュオだから、フォーマット的にはフリー・ジャズに近いんですけど、とにかくすべて自由にできたのが楽しかった。いろいろ遊べたというか、遊ばされたというか。 ●寅蔵 このセッションは、ベースが峰人じゃないと成立しなかったと思う。というのは、2人しかいないから演奏的にはベースがエンジンであり、舵取りになるんだよね。そこでごく当たり前にジャズのランニング・ベースとか刻まれても、俺はぜんぜん面白くない。制約のない、もっと言ってしまえばワケの分からない状況を楽しめるベーシストじゃないと説得力がないんだよ。実際、どんどん出来上がってくるペインティングにどう切り込んでいくかという部分では、俺はかなり峰人に乗っかってたし ……。 ▲峰人 僕としては、自分で舵取りをしてたというより、稲垣さんの絵に動かされてる雰囲気もあったんですけどね。ほかの3曲ではある程度リフが決まってたりしましたけど、2曲目の「画家との対話」に関しては、そういうお約束は一切なしで演奏していたから。そうなると、僕らにとっては稲垣さんがドラマーみたいなもんなんですよ。 ──そうか、なるほどね! ▲峰人 ペンキをつけたブラシを振り下ろしたり、紙に手を擦りつけたり、そういう稲垣さんの動作にどんどんリズムを付けていった感じ。そうやって攻撃的な動作をしてる時って、やっぱり一種のスピード感があるんですね。 ──そういう動きって、自分の中でちゃんと音楽に翻訳できるもの? ▲峰人 できますね。人が何かに打ちこんでる時って、そこにはやっぱりパルスみたいなものが出ますから。それを素直に感じとっていけばいい。というか、そこに疑問を感じていたらたぶん引き受けないです。どんな音楽もそうですけど、最初から「ム リ」とか「ツマラナイ」とか思ったら絶対面白いものはできないと思う。 ──稲垣さん、自分がドラマーだってこと、ちょっとは意識してた? ■稲垣 うん。いや、それはね……。 ●寅蔵 そんなもんは意識させない(笑)。 ■稲垣 ええ(笑)。これっぽっちも意識してませんでした。やる前は、自分なりに流れとかコラボレーションの仕方みたいなものを考えたりもしたんだけど、実際にやってみたら、これはとてもムリだなと。 ●寅蔵 でも稲垣さんがそういうことを意識してたら、今回のセッションはもっと違うものというか、もっとダメなものになってると思うよ。あえて言葉にはしてなかったけど、「変幻自在ドラマーとどこまで遊べるか」というテーマは、やっぱり我々プレーヤー2人の中にはあったから。 ■峰人 うん。稲垣さんが周りの様子を伺ったりしなかったからこそ、刺激的だった んだと僕も思います。 ●寅蔵 例えばふつうのフリージャズでも、ずっとパラレルに走ってたソリストとベーシストとドラマーの呼吸が、ある瞬間だけパシッ!と一致する気持ちよさってあるじゃ ない。それでいくと、今回のドラマーはやっぱり稲垣さんなんだよね。それもめちゃ めちゃオフビートのドラマー(笑)。それでもステージを見てる人には、音こそ聴けないけれど、筆遣いが叩き出すある種のリズムみたいなものは、絶対伝わってるわけさ。そういう自由なビートに、サックスとベースがどう交われるかが勝負だった。 ──そういう3つのまるで違う世界観が交わった瞬間はあった? ●寅蔵 それはきっちり作ってますよ(笑)。本当は映像で見てもらえるといいんだけど、CDを聴いてもらっても分かると思う。ステージを見られなかった人は、フラッシュムービーや内ジャケの写真なんかを見て、頭の中で絵を想像しながら聴いてもらえるともっといいかもしれないね。写真の平山君が、稲垣ペインティングが出来上がっていくプロセスをきっちり押さえてくれてるし。 ▲峰人 演っていて充実感があったことは確かですよね。よくジャズ・ミュージシャンが「今日はスウィングしてたな」とか無責任なこと言うでしょう。ああいうもんかもしれないけど(笑) ■稲垣 そのスウィングしてる瞬間っていうのは、おそらくお客さんにも伝わってる瞬間なんだよね。 ──じゃあ、やっぱり稲垣さんにとっても新鮮な体験だったんだね。 ■稲垣 もちろん、そりゃそうですとも。違う世界へのカギをもらったと言うと、ちょっとカッコイイけどね。閉じていた何かが開いた感じはありましたよ。カチャカチャ、 パッカーンみたいな(笑)。ただ油断するとすぐまたギュッと閉じちゃうから、どうすれば開いたままにしておけるかなあというのが、実は次のテーマ。だから実は、こ れから定期的に路上で絵を描いてみようかな、なんてことも考えたりしてて。真面目な話、僕は人の幸せって、どれだけ気持ちを開いて自分らしい姿で世界を交わっていけるかということじゃないかと思うんですよ。イラストの仕事でも、やっぱりそれは目指すべきだという気がする。だから、やっぱりオープンハート!「leaf♯5」のテー マはそれですよ、うん(笑)。 ●寅蔵 今日もイナガキってるね(笑)。でも、まったくパラレルな世界が交わるところにカタルシスが生じるってのは、俺もそうだと思う。アートだけじゃなくて日常もそうじゃない。ふだんはバラバラに進行してる生活が、たまに交差して、そこに収束するエネルギーみたいなものがあって。そういう部分を表現できたのが、今回はよかったんじゃないかな。 (2004年5月22日 @代々木上原「smiles」)
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