twelve leaves
leaf#2

★サンプラーやシンセサイザーによるSE/ノイズを大胆に導入した宇田川寅蔵プロ ジェクト『leaf♯2』。「ELECTORALOPITHECUS」というユニット名は、直立原人アウ ストラロピテクス(Australopithecus)に電子(Electron)と寅蔵(Tora)を引っか けた言葉遊びであろう。人工的な音であふれた都市周辺を、ひとりの男がフラフラと 彷徨っていく……。そんな映像が浮かんでくる、なかなか絶妙なネーミングだ。 本人が「自分にとっての心象風景を再現してみた」というように、今回のライブは、 40分弱の演奏がひとつの組曲のように構成されている。基本になっているのは、いく つかのスケッチ(素描)を重ねながら、自分の中にあるランドスケープ(風景)を提 示していくというアイデアだろう。ジャズ好きなら、あるいはマイルス・デイビスと ギル・エバンスが共作した『Sketches Of Spain』を思い出すかもしれない。 ただし、そこから伝わってくるのは「幻想的なスペインの印象」とはまるで違う、もっと殺伐とした空気感だ。身もフタもなく平板で、それでいてどこか暴力の予感も 感じさせる「郊外都市の日常」とでも言おうか。一定間隔で挿入されるノイズ音、リ ズムマシーンを使った単調なビート。無機質な音の反復が、ザラザラしたサバービア 感覚をさらに増幅している。 そんな反復音と対峙するように、寅蔵のサックスは、さまざまなフレーズを繰り出 していく。退屈に抗う饒舌。人工的なループ音との微妙なズレからは、近郊都市生活 者の皮膚感覚が、かえって生々しく伝わってくるようだ。それはそのまま、寅蔵が見 てきた郊外の心象風景に通じるのかもしれない。
★曲目解説 01 『CONFESSION 』『leaf♯2』のイントロダクションは、耳鳴りのようなサウンドエフェクトで幕をあ ける。残響の中、寅蔵のサックスがゆっくりと姿を現してくる、映像的展開が刺激的。 まるで映画のオープニングのような、始まりの予感に満ちている。 02『SINGLE CLOUD』セカンドパートのモチーフになっているのは、JPBのレパートリーであり『leaf♯1』でも演奏された代表曲「はぐれ雲」。今回寅蔵は、いつにも増してタメを強調。ざっくりしたエレキギターのカッティングともあいまって、何とも言えないロウファイな 空気感を醸し出している。 03『SHE IS IN THE RAIN』すすり泣くようなアルトサックスの高音を、メランコリックなエレキギターが包みこむ。意味深なタイトルそのままに、いかにも「イタイ感じ」が伝わってくる曲だ。反復される程にずれていくサンプルフレーズ、密かに交わされるボイスが、寒々しいイメージを喚起する。 04『DEDICATED TO MINA』もとは寅蔵が、昭和歌謡の女王・青江三奈をイメージして書いた楽曲。酔ったホステ スから身の上話を聞かされているような“エグミ”が何ともいえずよい。瀟洒なクラブではなく、どんな地方都市にもある安手のスナックの雰囲気だろうか。暗い夜道からひっそり聞こえる足音のように、ベースのフレーズが響いてくる印象的だ。05『HE IS IN THE RAIN』 『SHE IS IN THE RAIN』と対をなす本パートでは、ドラムマシーンの平板なリズムと、シンセサイザーの不協和音が、郊外都市が内包している不吉な予感をかき立てる。人工音との微妙なズレが、逆にフルート/ギター/ベースのナマっぽさが増幅しているのも面白い。06 『SCRAPPED CARS AND THE STADIUM』無秩序なノイズが集まって、やがて都市の喧噪というグルーヴを構成していく……ラストを締めくくるのは、そんなイメージを象徴するアッパーな楽曲だ。「廃車置き場とスタジアム」という鮮烈なコントラストも、やはり郊外都市に生まれた寅蔵の心象風景だろうか。粘っこいファンクギターと絡むようにして、寅蔵は疾走感あふれるソロを展開する。再び何かが起こりそうな予感を残し、演奏はプツッと幕を閉じる。
BACK