twelve leaves
leaf#10

★デュオという演奏スタイルには、海千山千のミュージシャンをふっと素直にさせてしまう何かがあるのだろうか。ピアニストの松本真昭をゲストに迎えてライブ録音された『leaf#10/DUO WITH PIANO』を聴いていると、どうもそんな気がしてしまう。★美しい旋律を、できるだけ心を込めて吹くこと。実験や技巧に走りすぎることなく、ただメロディーをしっかりオーディエンスに届けること。文字にしてしまうと簡単だけれど、この『leaf#10』で寅蔵がやりたったのは、おそらくそういうことだと思う。かつてフリージャズの開祖であるジョン・コルトレーンが、たった1枚だけ残したデューク・エリントンとの共作アルバム『Duke Ellington & John Coltrane』('62)でやろうとしたビジョンに、あるいはそれは少し似ているかもしれない。★例えば、オープニングで披露された新曲「千間台地方の婚礼の踊り」のイントロ。ゆったりしたピアノ伴奏に寄りそって、力強く歌いはじめるテナーサックスの音色を聴けばわかるだろう。音の表情そのものが、やさしくて、深くて、しかも凛としている。一人ひとりの聴き手にしっかり語りかけてくるような、そんなポジティブな気持ちが伝わってくる音色なのだ。★美しいメロディーへの憧憬は、これまでの寅蔵プロジェクト作品中にも、もちろん見出すことはできた。うねるようなグルーヴや激しいインプロヴィゼーションの波間から、ときたまチラリと顔をのぞかせるリリカルなフレーズは、リスナーの耳をとらえる大切なスパイスになっている。ただ、そういう寅蔵ならではの叙情性が、今作ほどストレートに反映されて作品はこれまでなかったと思う。その素直な気分が、何ともいえずチャーミングなのだ。★松本真昭のピアノ演奏も、また素晴らしくマッチしている。けっして走りすぎないゆったりとしたタッチは、キラキラと光を反射させて流れる川面のように爽やかだ。いちばんシンプルな対話スタイルの演奏だからこそ、心の深いところにある“音の原風景”が出てきやすいのだろうか。どこかフランスの印象派作家を思わせるピアノ旋律とあいまって、寅蔵のテナーサックスも、リラックスして自由に歌っているように見える。★ジャズ畑とは違う透明感も、おそらくセッションにはプラスに作用しているのだろう。ラストに演奏された「NEW FRIEND」。どこかエリック・サティの面影を宿したこの新曲からは、文字どおり新しい“音楽の友人”をえた寅蔵の気持ちがそのまま伝わってきた気がした。
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