パイプ煙草の憂鬱 

  

 憂鬱という字を見ただけでユウウツになる人 ごめんなさい。

ハタチの頃、はじめてパイプを買った。
きっかけは、知り合いの画廊のご主人。
そのひとが、展示された絵画達をバックに、やんわりとくゆらすパイプ煙草の紫煙が、なんともいい香りで、(コーヒーフレーバー)その独特のスタイルとあいまって、なんともかっこよく、俺はいっぱつで参ってしまったのである。

早速、池袋の煙草屋で、5000円位のメシャムパイプを購入した。
※なぜ池袋かは気にしないでください※
スイス人がアルプスの少女の前で吹くホルンを、おもいきり縮小したような、あの形である。
葉はもちろん コーヒーの香りって書いてあるやつ。
それに、パイプお手入れセット一式。
さらに、「パイプ入門」と書かれた小冊子をもらい、意気揚揚と近くの公園へ赴いた。
人気の少ないベンチに腰を下ろし、パイプセットを広げる。なんのことはない、OLが昼休みにおべんとうを広げたような図である。

パイプ煙草を楽しむための第一条件は、とにかく、ゆっくりとふかすこと。
せっかちに吸い込むと、葉の温度が上昇しすぎて、たいそう苦くなってしまうのだ。
初心の俺には、これが難しかった。
ようようのことで点火したものの、要領がわからない。
途端に舌がしびれてきた。渋柿をまるごと咀嚼したような・・とでも言えばおわかりいただけるだろうか?
公園の水道で がぶがぶと水を飲んでも、おいそれと渋はとれない。
再び挑戦するも、今度は パイプ本体が高温になり、持ってられない。
さっきまで描いていたかぐわしいコーヒーのイメージが、見事にふっとんで、すっかり疲れきってしまった。

やおら、ポケットからセブンスターをとりだし、一服。
この一服の美味かったこと、今でも忘れられない。


その後、気が向くとパイプ煙草に挑戦するのだが、いっこうにおいしくない。いらいらしてきて、結局口直しに 紙巻たばこをくゆらせている。