「おいしくない」はおいしい   

  

 「ねえ、この馬刺し、 おいしくなーい」
お客さんにそういわれて、のけぞったことがある。

声の主は、22〜23歳の、OL風の女性。
おりしも、店内は満席で、その3人組は、ちょうど店のまんなかあたりに陣取っていた。
その声が、カウンターの中まで飛び込んできたのである。
包丁を動かす手おもわずが止まってしまった。
が、心をおちつけてしばらく見ていると、かの女性達、うまそうに刺身をほうばっているではないか。
やがて、合点がいった。
彼女、「まずい」と叫んだのではなかったのだ。

相手に同意を求める言葉に、
「○○しない?」
というのがある。
通常、○○には動詞が来る。
「ねえ、今夜お酒飲まない?」
「あそこまで走らない?」
英語では、[Shall we ○○?] に相当することはご承知のとおり。
いま若いこの間では、この用法が、形容詞に流用されることが多い。
たとえば、ショッピングのさいちゅう、
「ちょっとー、このペンダント、わいくない
「わー、かわいい☆」
「こっちのなんか、なんかっこよくない?」
「かっこいー」
            ※太字は、大きくなるほど音程があがる

半疑問とよばれる、名詞や形容詞の語尾を、しりあがりに言う口調がいまでも蔓延しているが、あれとは少し違う気がする。
(どーでもいいが、いい年こいた連中がつかうのは、
やめてもらいたい)

茨城や福島出身の読者の方、あなたの訛りが、今や若者文化を席捲している事実をご存知だったか?
そう、耳のこえた若者達にとって、しりあがりの訛りはメロディーなのである。
北関東は、おしゃれ言語のルーツなのだ!!
そのことについてここでさらに言及してもいいのであるが、それを読んだ若い女の子にこういわれるといやなので、この稿はここまで!
「ねえー、このページ、チョー がくない?